農業DXとは?「農業DX構想」や先行事例をもとに解説

農業DXとは?「農業DX構想」や先行事例をもとに解説

農業従事者の高齢化や担い手不足、耕作放棄地の増加、海外産の農産物との価格競争など、日本の食を支える農業には多くの課題があります。

本記事では、農業DXの実現の課題について解説。実際に農業DXに成功した取り組みも紹介します。

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農業DXとは

DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、AIIoTビッグデータなどのデジタル技術を利用して、レガシーシステムの脱却や業務フローの改善などによる「生産性の向上」のほか、「新しいビジネスモデルの構築」といった事業・経営そのものの変革を実現させることを指します。

2018年に経済産業省が発表した「DXレポート」を皮切りに、ほぼ全ての産業においてDXの推進が活発化しています。もちろん、農業も例外ではありません。2021年3月に農林水産省が発表した「農業DX構想」では、その目的は「FaaS(: Farming as a Service)」の実現と明記されています。

■農業DXの意義と目的

農業者の高齢化や労働力不足が進む中、デジタル技術を活用して効率の高い営農を実行しつつ、消費者ニーズをデータで捉え、消費者が価値を実感できる形で農産物・食品を提供していく農業(FaaS: Farming as a Service)への変革の実現

※引用:農林水産省「「農業DX構想」の概要」
https://www.maff.go.jp/j/press/kanbo/joho/attach/pdf/210325-1.pdf

FaaSとは「サービスとしての農業」という意味です。デジタル技術を活用し、資材、農業者、農業団体、卸・物流、加工・食品、小売・外食、そして消費者のデータを共有することでバリューチェーン全体で変革を起こすことで、農業を巡る諸課題の解決を図ることが農業DXの本質といえるでしょう。

※FaaSは一般的には「Function as a Service(サーバレスでアプリケーション開発やセットアップが可能なクラウドサービスのこと)」という意味で用いられることも多くあります。

★まとめ
・農業DX構想では、DXの目的を「FaaS」の実現としている
・農業者から消費者まで幅広いバリューチェーンの改革が求められる
・農業DX構想では3つの分類でそれぞれの実証実験などの取り組みが行われている

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農林水産省が発表した「農業DX構想」

農業をはじめ、食関連産業における「農業DXの羅針盤」として、2021年3月25日に農林水産省が発表したのが「農業DX構想です。作成のきっかけは2020年3月31日に閣議決定された食料・農業・農村基本計画であり、FaaSの変革に必要なさまざまなデジタル技術を用いたプロジェクトを農業DX構想に取りまとめることが決まりました。

有識者による農業DX構想検討会のもと、47のプロジェクトを生産現場や農業経営、流通、食品産業などの「現場系」、農林水産省が主体となる「行政実務系」、現場と農林水産省をつなぐための「基盤整備」の3つに分類し、「農業DX構想~「農業×デジタル」で食と農の未来を切り拓く~」という資料にまとめて公開しています。

農業DX構想

さらに同資料には、政府が掲げる「デジタル3原則」と「デジタル社会を形成するための10の基本原則」に基づいた農業DXの推進など、6つの基本的な方向も明記されています。

■農業DX構想における基本的方向
・政府方針に基づく農業DXの推進
・デジタル技術の活用を前提とした発想
・新たなつながりの形成によるイノベーションの促進
・消費者・利用者目線の徹底
・コロナ禍による社会の変容への対応
・持続可能な農業の実現によるSDGsの達成への貢献

<参考>
https://www.maff.go.jp/j/press/kanbo/joho/attach/pdf/210325-1.pdf
https://www.maff.go.jp/j/press/kanbo/joho/attach/pdf/210325-22.pdf
https://www.maff.go.jp/j/press/kanbo/joho/attach/pdf/210325-18.pdf

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日本の農業DXの現状

農業のデジタル化自体は、農業DX構想が発表される以前から個々の生産者や企業、自治体が取り組むケースも少なくありませんでした。それらのプロジェクトを含めた農業DXの現状を生産現場、農村地域、流通・消費ごとに紹介します。

生産現場のDX

生産現場のDXを実現するための方法は非常に多種多様で、農業DX構想のなかでも特にプロジェクト数の多い項目です。そのなかでも特に注力されている取り組みが、ロボット・AI・IoTなどの先端技術を活用した「スマート農業」です。

日本の農業の生産現場が長年抱えているのが労働力不足です。例えば、農林水産省が作成した「スマート農業の展開について」によると主に自営業で農業を行っている基幹的農業従事者は、1960年は1175万人だったのに対し、2020年は136万人と900万人以上減少しています。さらに平均年齢は67.8歳で約半数を60代以上が占めるなど、ますます深刻な状況になりつつあることが明らかになっています。

現在、全国179地区でドローン、遠隔操作や自動走行の農業機械などの実証実験が実施されています。さらにハードウェアだけでなく、センサーを活用したデータ収集のほか、画像解析や土壌評価といったさまざまな指標を利用した生産も試みられています。

このように従来の経験に基づいた属人的な生産体制の脱却を図り、省力化と高品質化を両立させるためにさまざまな方法が官民ともに行われています。ただ、いずれも試験的な導入がほとんどで、本格的に社会実装されているケースは多くはありません。

農村地域のDX

産業としての農業のDXを促進するためには、個々の生産者ではなく農村地域の規模でバリューチェーン全体を改善するための「基盤整備」や「モデル化」が必要です。

実際、2021年1月に農林水産省が作成した「農業DXをめぐる現状と課題」では、インターネットを介して複数の集落が、農地保全のために連携する取り組みや鳥獣害対策などが紹介されています。また、ダムや橋梁などの点検、圃場の地図の作成、大規模な自然災害の復旧にデータを利用するなど「農業基盤整備」にもデジタル技術が利用されています。

また、民間においても株式会社日本総研研究所が2019年に「農村デジタルトランスフォーメーション協議会(農村DX協議会)」を設立し、自治体を中心とした参画者同士で連携を図るなど農村地域のDXの関係人口拡大を図る取り組みが行われています。ただし、これらの取り組みはまだ限定であり、デジタル技術を活用する仕組みの構築から実現する必要があるでしょう。

流通・消費のDX

農業のバリューチェーンにおける流通分野のDXは「農産物流通DX」と称されることもあります。日本の農産物の流通は全国各地の卸売市場を介する「市場流通」と生産者・消費者が直接やりとりするといった「市場外流通」に大別できます。

国産青果物の約86%とされる市場流通においては、食品加工業者を含めた関係者の情報共有が不十分であることが課題といえるでしょう。そのためトレーサビリティの確保など、ブロックチェーン技術を用いた多段階を経て消費者の手に届く農産物の管理を一元化する取り組みが実施されています。

さらにインターネットの普及により、生産者と消費者がより密接につながれる機会が増えているため、購買情報を的確に把握して需要に応える生産・販売が求められるなど、市場を取り巻く環境の変化に対応する必要があります。JANコードの利用や個別輸送の円滑化などの取り組みも実施されています。

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農業DXにおける課題

官民で農業DXが積極的に推進される一方、普及拡大における課題も浮き彫りになっています。例えば、前述した「スマート農業」の場合、従来の労働集約的な作業体系からの脱却がなかなか進まない地域が少なくありません。

特に管理の分野においては、生産・出荷や経営に関わる情報は紙で処理する農業者も多いです。そのため、データ収集や効率的な農業経営の実現が困難な状況といえるでしょう。このような「脱アナログ」を実現するためには、書類の授受を行う関連業者・団体の管理プロセスのデジタル化も必要になるでしょう。

さらに自動運転のロボットコンバインなどの機械を導入するには、一定の規模と整備された圃場でなければなりません。例えば、いびつな形をしている「棚田」などには導入が難しいのは想像しやすいのではないでしょうか。さらにコスト面での課題もあり、農業者にとって利益を確保できるスマート農業機械やサービスを選択して運用するには、まだ難易度が高い状況と考えられます。

■その他の農業DXの課題

農業DX

課題

ドローンやセンサーによる作業効率化

・一定の投資が必要

・理想の通信速度と導入コストのバランスが実証できていない

データ収集による品質・生産性の向上

・データを収集、活用していない農家が80%以上

農地情報のデジタル化と集約

・手書きの農地情報を各機関に申請する必要がある

・正確で最新の農地情報を保管、管理できる仕組みが構築できていない

農村地域の活性化

・人同士、人と農村をつながぐプラットフォームが生まれているが現時点では大きな広がりはない

農業物流の効率化

・パレット輸送、梱包資材標準化の取り組みが始まったばかりで社会実装まで時間がかかる

・出荷時期の予測が困難などの農産物の特性の対応も課題

消費者のニーズの把握と的確な対応

・出荷段階の紙ベースの情報のやりとりがボトルネック

・川上から川下の情報共有が実施されているケースが限定的

・他産業と比べると消費者のニーズに対する感度が低い

農産物の種類や地域ごとの土地格差、抱える課題、農業との関連産業の数や規模などは千差万別です。そのため、農業DXの取り組み方やFaaSの具体的な内容なども、一律にモデル化するのではなく、都度の調整が求められるでしょう。

また、コロナ禍においても農業・食関連産業における課題が顕著になりました。特にサプライチェーンの分断による食材の販売減少、対面での商談機会の喪失といった市場や社会の変動に対し、従来の農業や食関連産業のあり方では柔軟に対応するのが難しいことが大きな課題だと考えられます。国や自治体、地域、農業者、関連産業が各々で確実にDXを実現することが、現在のピンチを将来のチャンスに変える重要なポイントだといえるでしょう。

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農業DXで実現したいこと

農業DXの捉え方はさまざまです。例えば、食料・農業・農村基本計画においては「サービスとしての農業(FaaS)」を目指すとされています。農業DX構想ではFaaSはあくまで総称であり、そのあり方は多様であると記載されています。ただし、「消費者ニーズが出発点」でデジタル技術を活用して「矛盾する・両立しない課題の解決」の実現を図ることは、多くの目的に共通する項目といえます。その前提で農業DXで実現したいことの一例を確認してみましょう。

■農業DXで実現したいこと(例)

一見、両立が困難な実現したいこと

デジタル技術の活用方法

少人数で大規模生産を実現する

複数の自動走行トラクタの導入による超効率化

化学肥料を使わずに、使用時と同じくらいの収量を確保する

高精度の土壌の生物性の状態測定と収集したデータの活用

体力や経験で劣る生産者であっても高品質かつ安定した収量を確保できる経営の実現

AIの活用による予測精度の向上やロボットの導入による作業の省力化、自動化

消費者の「嗜好」に適した食品を提供する

農業者と関連事業者が情報を共有し、共同で商品を開発する

上記の「実現したいこと」はほんの一部ですが、いずれにしても消費者をはじめとする顧客のニーズをそれぞれの関係者が共有して「目指すべき姿」を思い描き、その実現の障壁となる課題の克服に取り組むことが必要といえるでしょう。また、農業就業者や年齢構成、さらにデジタル技術の導入状況が大きく変わっていると予測できる2030年を目指して、さまざまなプロジェクトが進められています。

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農業DXを推進するポイント

さまざまなアプローチ方法がある農業DXを推進するうえで、共通して意識して実践すべき4つのポイントを紹介します。

アジャイル手法の導入

アジャイルとは「素早い」、「頭の回転の早い」という意味です。その時々の優先度の高い要件からプロジェクトを進行する手法のことで、リリースまでの期間を短くしてその後にブラッシュアップする「アジャイル開発」は、システム開発において主流の手法となっています。

農業DXにおいても同様で、消費者のニーズの変容の対応や活用できる新たな技術やサービスを活用するために、一度定めたプロジェクト計画を柔軟に変更する必要があります。また、課題の把握や手段の検討よりも優先度の高い「小さな課題」の解決を図り、試行錯誤することで変革を積み重ねることが大切です。

データ利活用の推進

農林水産省が2019年2月に発表した「スマート農業の社会実装に向けた具体的な取組について」では「2025年までにほぼ全ての農家でデータ活用を実践する」という目標が掲げられました。

このような思い切った提言が行われるほど、データドリブン(データ利活用)な農業経営は必要性に駆られていると考えられるでしょう。データドリブン経営とは、さまざまな種類で膨大な情報「ビッグデータ」を活用した分析結果をもとに、意思決定や施策の立案などを行うことです。

農業においては圃場ごとに条件が異なるため、データの活用はもちろん、その前段階である「データ収集」を円滑かつ高精度で行える環境の構築も欠かせません。IoTセンサーによる温度・湿度、照度、土壌の水分量などを取得できれば、農作物のリアルタイムの状況把握が図れます。また、その場で適切な対応も図れるため天候や経験の有無に左右されずに安定した品質、収量を確保しやすくなるでしょう。

さらにデータという客観的根拠に基づいた栽培作物や品種の選定なども行えるため、「勘」や「経験」に捉われない農業の実現を図れます。

UI/UXへの意識向上

DXを推進するにあたって、現場がデジタル技術を「使ってみよう」もしくは「便利になった」と感じてもらうことが不可欠です。特に農業や食関連産業は、他の産業と比べても特にデジタル技術に苦手意識を抱いていたり、興味関心が薄かったりする人が多い傾向があります。

そのため、デジタル技術を普及する役割の行政や民間企業の担当者は、ユーザーが使いやすいサービスやプロダクトの外観「UI(ユーザーインターフェイス)」を洗練するなどして、より良い体験「UX(ユーザーエクスペリエンス)」を提供できるよう意識を持つ必要があるでしょう。

農業・食関連産業以外の分野との連携

DXには境界線はありません。ときには農業・食関連産業以外の分野と「越境」したコラボレーションで、イノベーションを創り出すことも必要です。農業DXのプロジェクトと他の分野の関係性を俯瞰的に把握し、効果を得るための連携方法なども模索していくことが大切です。

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農業DXの先行事例

現場系、行政業務系、基盤整備の3つ農業DXの先行事例を紹介します。

農業・食関連産業の「現場」系プロジェクト

スマート農業推進総合パッケージに基づき、自動走行に適した基盤整備や通信環境の整備から農業機械のシェアリングサービス、スマート農業教育の充実、スマート技術の海外展開を推進しています。まだ検討段階の項目もありますが、すでに実施されているプロジェクトを以下に挙げているので確認してみましょう。

・農業支援サービス提供事業者が提供する情報の表示の共通化に関するガイドラインの作成
・スマート農業技術カタログによる「スマート農業技術」の提供
・スマート農業実証プロジェクトの実施
・高精度のAI病虫害画像診断システムを「WAGRI」で提供開始

農林水産省の「行政実務」系プロジェクト

行政実務系のプロジェクトは業務の抜本的な見直しから人材育成、農業者データ活用促進などの全9項目が設けられていて進捗状況はそれぞれ異なります。例えばデータ活用人材育成推進プロジェクトは2021年度から本格展開されており、2024年度までにデータ活用人材を100名育成する予定です。

現場と農林水産省をつなぐ「基盤」の整備に向けたプロジェクト

現場と農林水産省の基盤づくりとしては、農林水産省共通申請サービス「eMAFF」を中心に地図やアプリなどの全8プロジェクトが設けられています。例えば2022年中には農地情報を統合して管理するための「農林水産省地理情報共通管理システム(eMAFF 地図)」が公開される予定になっています。

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まとめ:農業DXの取り組みに注目しましょう

農業DXの全体像と農林水産省が主導する「農業DX構想」について紹介しました。農業DXは、個々の農業者だけでなく、幅広い企業を巻き込んだ日本の社会基盤を担う重要な取り組みです。ビジネスパーソンであればその動向に注目して損はないため、今後とも農業DX構想や各企業の取り組みを注視してみてはいかがでしょうか。

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記事の作成者・監修者

宇野 智之(株式会社モンスターラボ 上級執行役員 デリバリー統括責任者)

宇野 智之(株式会社モンスターラボ 上級執行役員 デリバリー統括責任者)

2003年に独立系大手システムインテグレーション企業に入社。エンジニアを経て、PMとして組み込み/MobileApp/Webシステム開発案件を担当。大規模案件のマネジメントやオフショア開発を複数経験する。海外エンジニアとの開発における課題を解決することで、日本のIT人材不足の解決に貢献したいと考え、2015年にモンスターラボへ入社。2015年に豪州Bond University MBA取得。入社後はPM、PMO業務および組織マネジメント業務を担当。 2019年より、執行役員 デジタルコンサルティング事業部副事業部長・開発統括。2021年より上級執行役員 デリバリー統括責任者。プロフィールはこちら