MVPとは、必要最低限の機能を備えたプロダクトのこと。
デジタルプロダクト開発のプロセスの中で重要視されているのが、短い期間で素早くMVPを作成し、実際にユーザーに使用してもらうMVP検証です。
そこで得たフィードバックをもとに改善を加え、より完成度の高い製品・サービスを市場に出す開発フローがDXを推進するさまざまな企業に取り入れられています。
目次
MVP(Minimum Viable Product)とは、ユーザーに必要最小限の価値を提供できるプロダクトのこと。
一般的には、目的を達成できる最低限の状態の製品やサービスをユーザーに提供し、得られたフィードバックを参考に新機能の追加や改善を繰り返すMVP開発で活用されます。
MVPはプロトタイプと意味が似ていますが、プロトタイプはデモンストレーションや量産前の問題点の洗い出しなどの目的のために作られたプロダクトのことです。必ずしも必要最低限の機能を搭載しているプロダクト(=MVP)というわけではありません。
MVPは、起業家のスティーブ・ブランクとエリック・リースによって提唱された概念です。さまざまな企業が新製品・サービス開発に取り入れているマネジメント手法を紹介している書籍『リーンスタートアップ』(著:エリック・リース)で次のように紹介されました。
★リーンスタートアップとは
少ないリソースと短い開発期間で必要最低限の機能を実装したサービスやプロダクトを作成し、ユーザー検証のフィードバックを取得して、より満足度の高い製品やサービスを開発するマネジメント手法
このように、MVPの作成という概念・手法は、リーンスタートアップを構成する要素の1つとして提唱されました。
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MVP開発とは、必要最低限の価値を提供できるプロダクト(MVP)を作成し、ユーザーのニーズを検証しながら少しずつ製品・サービスの開発を行う手法です。
最大の特徴は、必要最低限の価値をユーザーに提供できるプロダクトを短期間・低コストでいち早く作り上げてユーザー検証を実施し、ユーザーのフィードバックから製品やサービスの方向性が確認できる点です。また、検証で得られた知見をもとに改善や追加機能の実装を進めることができます。
ユーザーの反応をもとにプロダクトの方向性を判断し、ニーズに合わせた追加機能の開発や改善が行えるため、効率よくサービスの価値を最大化させることが可能です。
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PMF(Product Market Fit:プロダクトマーケットフィット)とは、「顧客が満足する商品を、最適な市場で提供できている状態」のことです。プロダクトが市場に適合し、受け入れられている状態を目指すには、MVPを作成して顧客に利用してもらい、評価をもとに改善を繰り返す必要があります。
つまり、MVPの開発・活用はPMFの実現に欠かせない要素と言えます。
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MVP開発を行うメリットを詳しく解説していきます。
従来のソフトウェア開発では、プロダクトの完成まで一貫したフローで開発を行うため、プロダクトが完成しリリースを行うまでユーザーフィードバックを得ることができません。
しかし、MVP検証では必要最低限の機能を備えたプロダクトを用いてユーザーのフィードバックを得て、それをもとに少しずつ新たな機能の実装や改善を実施することが可能になります。
MVP検証を実施することで、最短ルートでプロダクトを完成形に近づけることができます。必要最低限の機能から開発に着手するため、開発に費やす時間を最小限に抑えることができ、開発フローの効率化を図ることができます。
また、市場の需要に応じて追加機能を開発するため無駄な機能を実装するリスクを避けることができ、開発コストも最小限に抑えられます。
MVP開発では顧客ニーズに対応するプロダクトの早期リリースが可能なため、先行者利益を得ることができます。後から参入する競合他社に対して認知度で差をつけることができ、競争優位性を高められるでしょう。
長い期間や多くのコストをかけて作り込んだプロダクトは、リリース後に販売数がなかなか伸びないなど、想定外の事態が生じた場合に収益化まで時間がかかってしまうことがあります。一方、MVP開発であればコストが少なく、ニーズとのギャップがあれば軌道修正も迅速に行えるため早期の収益化が見込めます。
MVP開発のプロセスを各ステップごとに解説します。
まずは製品・サービスで解決したい課題やゴールを洗い出したうえで、MVPを通して検証・評価する仮説を立てます。
仮説を設定したのち、目的を達成するためにMVPに搭載する必要最低限な機能を絞り込みます。
STEP1で定義した必要最低限の機能を搭載した製品やサービスを作成します。
実証実験やユーザーテストを実施し、作成したMVPを実際にユーザーに使用してもらい、製品・サービスに対するフィードバックを得ます。
検証で得たユーザーからのフィードバックをもとに追加機能の開発・実装や改善を繰り返します。
MVP開発を成功させるためのポイントと、注意点を解説します。
「スモールスタート」はMVP検証の原則です。機能をあれこれ詰め込んでしまうと、それだけ開発期間や費用がかさんでしまい、MVPを作成する本来の目的から外れてしまいます。
また、MVP検証を最も活かせるのはアジャイル開発手法です。アジャイル開発であれば、『計画→設計→実装→テスト』といった開発工程を機能単位の小さいサイクルで繰り返すため、優先度の高い機能から順に開発を進めていくことが可能です。
★アジャイル開発について詳しくはこちら
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MVPを作成する上で、ユーザーの「必要最低限」のニーズを正しく把握できていないと検証がうまく行きません。「必要最低限」を意識しすぎたあまり、ユーザーのニーズを満たさないプロダクトができてしまうこともあります。
この図の例では、顧客は「移動できる手段」を望んでいます。これを検証するためには、上段の最初のステップの車輪の状態では不十分です。下段の最初のステップのスケートボードでの検証が必要最低限のプロダクトとして適しています。
想定していたユーザーニーズが間違っている場合もありますが、MVPの段階で示唆が得られることはメリットとも言えるでしょう。早期にプロダクトの方向性を変更できれば、開発中の手戻りがなくなり、大きなロスを防ぐことができます。
MVP検証を行う際は、まずユーザーの本質的な課題を正しく捉え、その解決方法を明確化することが重要です。
MVPでの検証を繰り返していくうちに、あらゆる機能を網羅した完璧なプロダクトを目指してしまうことがあります。しかし、これでは無駄に多くの機能を搭載して肥大化したり、リリースまでの期間が長くなったりしてMVP開発のメリットを活かせません。
そのため完璧志向からは脱却するよう意識し、期間を設定して開発スピードを維持しつつ本当に必要な機能だけを提供することが重要です。
必要最低限の機能のみを搭載したMVPであっても、UX/UIは重要です。なぜなら、UX/UIが満足するものでなければ、プロダクトの内容よりも使いにくさが目立ち、本質的な検証が難しくなるからです。
そのため、ユーザーの評価をもとに内容だけでなくUX/UIの改善にも取り組みましょう。
★UX/UI改善について詳しくはこちら
MVPキャンバスは、より質の高いMVPを作成するためのフレームワーク。
リーンキャンバス(ビジネスモデルを9つの要素に分け、サービスの本質的価値を考えるフレームワーク)と似ていますが、MVPキャンバスはリーンキャンバスで立てた仮説を検証する工程で必要になります。
★リーンキャンバスについて詳しくはこちら
MVPキャンバスを活用すれば、MVPに搭載すべき機能やMVP検証で取得すべきデータを整理し、論理的な仮説を立てることができます。
MVPキャンバスでは、次の10個の要素から仮説検証の内容を設定します。
★MVPキャンバスについて詳しくはこちら
MVPはDX推進の観点からも重要です。ビジネスにおけるDXの定義は、「データやデジタル技術を駆使して、ビジネスに関わるすべての事象に変革をもたらす」こと。絶えず変化する市場のニーズに合わせ、新たな技術やアイデアをいち早くビジネスモデルとして取り入れていく必要があります。
少ないリソースで必要最低限の機能を作り出し、ユーザーの反応からプロダクトの成否を判断できるMVP検証は、前例が少なく正解のないDXを推進する上で必要不可欠な工程です。
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企業のDX推進においてMVP検証が活用された事例を紹介します。
山口フィナンシャルグループは、山口銀行・北九州銀行・もみじ銀行といった3つの地方銀行を傘下に持つ金融持株会社。新会社として設立されたイネサスが目指したのは、山口フィナンシャルグループが持つ地域基盤を活かした地域循環型の福利厚生サービスの提供。
同社は、コロナ禍により働き方が大きく変化するなかで、既存の福利厚生サービスのカバー領域が都心に限定されており地方のニーズを満たせていないことに課題を感じ、福利厚生サービスアプリ『イネサス』の開発を企画。
開発では、要件変更に強いアジャイル手法を取り入れ、必要最低限の機能にスコープを当てつつ、リリース後の機能拡張も見据えたプロジェクト実行計画を立案しました。
第1フェーズでは加盟店舗検索とクーポン利用に機能を絞ってアプリをリリースし、現在もより良いサービスへの改善を目指して追加機能実装に向けた開発を続けています。
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オプティマインドは、配送業界のDXを推進しているスタートアップ企業です。名古屋大学発の物流べンチャーとしても知られており、組合せ最適化技術を活用した物流配送最適化の分野で世界トップクラスの研究実績とアルゴリズムを保有しています。
同社は、物流業界で深刻化している高齢化に伴うドライバーの不足という問題に対し、配送ドライバーの業務サポートと業務フローの脱属人化につながる新規サービス開発を企画しました。
実際に配送業務に携わるドライバーの声を活かして改善を繰り返すことを念頭に、プロジェクトはアジャイル開発でスタート。キックオフから3ヶ月という短期間で必要最低限の機能を備えたβ版のAndroidアプリを開発し、実証実験を実施しました。
ドライバーからのフィードバックでは、最適な配送ルート算出の精度の高さが好意的に受け入れられたものの、操作性やレスポンスの改善が課題として浮き彫りになりました。そこで、正式リリース版はオプティマインド社のナビアプリをドライバーアプリに組み込む形で開発。2つに分かれていたサービスを統合することでユーザーの利便性に配慮しました。
プロジェクト開始から約6ヶ月という短期間でテストを経たネイティブアプリが完成し、多くの配送業者に導入されました。現在も精度の向上とドライバーの声を反映した新機能の実装など、改善が続けられています。
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ユニクエストは、「小さなお葬式」「てらくる」などのお葬式事業に関連したサービスを展開する企業です。同社は正しい形式で遺言が書かれていなかったことに悩む遺族たちの姿を目の当たりにし、終活の重要性を浸透させることを課題としていました。
そこで、シニア層でも簡単かつわかりやすい形式で遺言の執筆を進められるサービスを開発。Q&A形式で回答するたびに執筆が進む仕様や、シニア層を意識したUIデザインを設計しました。設計後はMVPを開発してテストを繰り返し、機能要件を満たす精度までブラッシュアップすることに成功しています。
完成した終活支援サービス「タイムカプセル」は、ユニクエスト社の想定を大きく超える登録者を獲得し、わずか2ヶ月で1万人を超える顧客に利用されるサービスへと成長しました。
★事例について詳しくはこちら
MVPを活用すれば、変化の激しい市場のニーズに合わせた新たなビジネスを始める際に、開発に着手した段階からビジネスの成否を判断することができます。
MVPに搭載した必要最低限の機能がユーザーの本質的な課題を解決できるものであるかをしっかり検証の工程で見極めることが重要です。
MVP検証で得られたユーザーのフィードバックはアジャイル開発に用いられます。アジャイル開発により、追加機能の開発や改善を細かく繰り返すことで製品の価値を最大化させることができます。
★MVP開発について詳しく知りたい方はこちらの記事をご参照ください
モンスターラボは、約20年にわたるサービス・プロダクト開発実績から得られたデジタル領域の知見や技術力を活かし、デジタルプロダクト開発事業を展開しています。
先端テクノロジーに対応した高度なIT人材があらゆるプラットフォーム上での開発を支援します。アジャイル開発とDevOpsによる柔軟な開発進行や、国内外のリソースを活用したスケーラブルな開発体制の構築も可能です。 また、リリース後の保守運用や品質向上支援まで伴走可能です。
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