脱炭素(カーボンニュートラル)とは? 脱炭素社会への取り組みやGX・DXとの関連性を解説

脱炭素とは?

脱炭素(カーボンニュートラル)とは、二酸化炭素に代表される温室効果ガスの人為的な排出を、全体としてゼロにすることです。

温室効果ガスの排出は気候変動の原因と考えられており、その解決に向けた世界共通の目標として「2050年カーボンニュートラル」という目標が掲げられています。

カーボンニュートラルの意味や注目される理由、国内外の取り組みについて確認していきましょう。

➡︎【資料ダウンロード】業界ごとのDX推進ケースをまとめた“DX事例集”

脱炭素(カーボンニュートラル)とは

脱炭素(カーボンニュートラル)とは、二酸化炭素に代表される温室効果ガスの人為的な排出を、全体としてゼロにすることです。

「全体的にゼロ」というのは、どうしても避けられない温室効果ガスの排出分から、植林や森林管理などによる植物の吸収量を差し引いて、排出合計を実質的にゼロにするということを意味します。

温室効果ガスの排出は気候変動の原因と考えられており、その解決に向けた世界共通の目標として「2050年カーボンニュートラル」が掲げられています。

企業としても、カーボンニュートラルに取り組むことは、エネルギーコストの削減につながり、社会的イメージの向上といったメリットがあります。

次に、脱炭素を学ぶ上で外せない重要キーワードを確認していきましょう。

パリ協定

気候変動問題に関する条約「国連気候変動枠組条約(UNFCCC)」には、197か国・地域が締結・参加しています。UNFCCCの締約国会議であるCOP(Conference of the Parties)で定めた温室効果ガスに関する協定の1つがパリ協定です。

パリ協定は2015年、パリで開かれたCOP21において合意されました。「世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をする」という目的で、全世界で共通する国際的な取り組みが定められています。

パリ協定では先進国・途上国関係なく、目標設定と削減実施がすべての国に求められることになりました。

この目標の実現には、2050年に世界でカーボンニュートラルを達成することが必要です。そのため、2030年までに技術革新とともに、ライフスタイルの大きな転換も必要となると考えられます。

脱炭素ドミノ

脱炭素ドミノとは、地域の脱炭素社会に向けた取り組みが次々と伝播し、全国に広がっていくことを意味します。

日本政府は、2050年カーボンニュートラル実現を目標に、今すぐ既存技術でできる脱炭素対策を全国各地で実施し、先行モデルケースを全国に広げていく脱炭素ドミノを起こすことを目標にしています。

まずは、2020年からの5年間の集中期間に政策を総動員し、100か所以上の脱炭素先行地域を創出、重点対策を各地域で実施していきます。

この活動を呼び水とし、2030年から全国で脱酸素の取り組みがはじまり、2050年を待たずにカーボンニュートラルかつ活力ある地域社会の実現を目指します。

ESG

ESGとは、環境(E: Environment)、社会(S: Social)、ガバナンス(G: Governance)の英語の頭文字を合わせた言葉です。

2006年に当時の国連事務総長のコフィー・アナン氏が提唱した「責任投資原則(PRI)」において、企業経営の持続性を評価するためには、ESGの3つの視点を投資の原則に組み入れる必要があるとされました。

気候変動などを念頭においた長期的なリスクマネジメントや、企業の新たな収益創出の機会を評価するベンチマークとして、国連の持続可能な開発目標(SDGs)と合わせて注目されています。

GX(グリーントランスフォーメーション)

GXとは、「グリーントランスフォーメーション」の略称です。2050年カーボンニュートラルを目標にしながら産業競争力を高めていくためには、経済社会システム全体の変革が必要であり、これをGXと呼びます。

経済産業省では、GXに取り組む企業が、行政、大学などの教育・研究機関および金融機関とともに議論と実践を行う場「GXリーグ」の設立も行っています。

➡︎【資料ダウンロード】業界ごとのDX推進ケースをまとめた“DX事例集”

脱炭素が注目される理由

国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の特別報告書によると、世界の平均気温は産業革命前に比べて2017年時点で1.0℃上昇しています。この上昇は、人の活動による温室効果ガス濃度の増加によってもたらされた可能性が非常に高く、このままのペースで気温上昇が続けば、2040年前後には1.5℃に達してしまう見込みです。

現時点ですでに国内外において集中豪雨や大型台風、爆弾低気圧などの異常気象による気象災害が頻発化しており、大気中の温室効果ガス濃度の増加による気候変動が原因といわれています。

気候変動による悪影響のリスクは、1.5℃温暖化した世界では現在よりも顕著に大きくなり、2℃温暖化すればさらに大きくなることが容易に想像できます。

温暖化を1.5℃で止めるには、2050年前後には世界全体のCO2排出量を全体でゼロにし、メタンなどCO2以外の温室効果ガスの排出も削減する必要があるのです。

2050年の達成に向けては、全世界で今すぐできることから脱酸素に取り組む必要があります。カーボンニュートラルの取り組みは、再生可能エネルギービジネスやイノベーションを発展させ、企業に対する評価や、産業全体のあり方も変えるものとして注目されています。

➡︎【資料ダウンロード】業界ごとのDX推進ケースをまとめた“DX事例集”

脱炭素に対する日本政府の取り組み

脱炭素に対する政府の取り組みを解説します。

グリーン成長戦略

「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」は、経済産業省が中心となり2020年12月に策定された国家戦略です。国として可能な限り具体的な見通しを示し、高い目標を掲げて、民間企業の前向きな挑戦を応援し、大胆な投資とイノベーションを促す環境の構築を目的としています。

グリーン成長戦略を実現するには、電力部門では脱炭素電源の拡大が必要です。非電力部門である産業・民生・運輸の燃料利用・熱利用においては、再生可能エネルギーによる電化、水素化、合成燃料の利用といった手法を進めることが必要とされています。

カーボンリサイクル

カーボンリサイクルとは、CO2排出源を代替技術へ置き換えるのではなく、CO2を資源として有効活用する技術です。日本が技術面・産業面で世界をリードしていくことが期待されている分野の一つでもあります。

カーボンリサイクルを用いると、火力発電所などから排出されたCO2や大気中から直接回収したCO2を原料として、コンクリートの材料として利用することや、水素と組み合わせて新たな化学製品や素材を作ることが可能になります。

RE100

RE100とは、世界中の企業や政府のリーダーと協力して気候変動に取り組む非営利団体「The Climate Group 」と英国で発足した国際NGO組織「CDP」(Carbon Disclosure Project)が運営する国際的な企業連合です。「Renewable Energy 100%」の略で、事業活動で必要とするエネルギーを、100%再生可能エネルギーで賄うことを目標としています。

RE100に加盟し、実際に再生可能エネルギーを導入することで、環境先進企業として認められ、国内外にアピールすることも可能です。

カーボンプライシング

カーボンプライシングは炭素(CO2)への価格付けを通じて、民間事業者や消費者等のカーボンニュートラルへの行動変容を促します。

カーボンプライシングの例としては、CO2の排出量に比例した課税を行う炭素税や、CO2削減価値を証書化・クレジット化して取引を行うクレジット取引があります。

とくにカーボンクレジット取引は、日本の産業界をはじめ世界的にニーズが高まっており、近年取引量が増大しています。

COOL CHOICE

「COOL CHOICE」は、日本政府がカーボンニュートラルの実現に向けて2015年7月から開始した国民運動です。

温室効果ガスの排出量削減につながる省エネ・低炭素型の「製品」「サービス」や、その選択につながる「行動」を広く国民に呼びかけています。

呼びかけの例としては、「エコカーを買う、エコ住宅を建てる、エコ家電にするという選択」や、「高効率な照明に替える、公共交通機関を利用するという選択」といったものがあります。

➡︎【資料ダウンロード】業界ごとのDX推進ケースをまとめた“DX事例集”

各業界による脱炭素社会への取り組み

各業界におけるカーボンニュートラルに向けた取り組みを紹介します。

製造

本田技研工業では、顧客の生産工場から発生するアルミスクラップを資源として回収・溶解し、液体のまま再び原料として納品する「アルミニウム溶解供給」を行っています。アルミを溶かした状態でメーカーに供給することで、膨大なエネルギーを要するアルミ溶解作業の削減が可能となるのです。

輸送領域においても、最適物流に向けた取り組みや、中身を消費した後に返却・回収し、洗浄して再び使用する「リターナブル容器」の積極的な利用や、可能な限りの梱包資材の削減も行っています。

出典:HONDA

IT

Microsoft
Microsoftでは、2025年までにすべてのデータセンターやビルへの100%再生可能エネルギーの供給を目指しています。さらに同社は2030年までに、毎年排出するCO2より多くのCO2を除去する「カーボンネガティブ」の達成を掲げています。

具体的な施策として、サーバーのライフサイクルを延長し、再利用して廃棄物を減らす施設「Microsoft Circular Center」の開設を行っています。また、毎年建設されるデータセンターの設計・建設におけるCO2排出削減に向けて、建築材料の特定を実施しています。

出典:Microsoft

Google
Googleは2007年にカーボンニュートラルを実現しており、2017年には年間消費電力の100%を再生可能エネルギーとしたと発表しています。

現在は、2030年までに24時間365日のカーボンフリーエネルギーの達成を目標としています。国連と連携している国際機関「Sustainable Energy for All」と共同で、全世界の電力網で「完全なゼロ排出」を実現するために、関係者に呼びかけを行い、賛同者を募っています。

出典:Google

金融

2050年のカーボンニュートラル実現には、再生可能エネルギーへの移行や長期的な取り組みに対して、十分な資金供給が重要です。

国内の銀行、銀行持株会社および各地の銀行協会を会員とする組織である「一般社団法人全国銀行協会」では、2050年カーボンニュートラルの実現に向け、金融面から支えていくことをミッションとし、銀行の役割としての指針「カーボンニュートラルの実現に向けた全銀協イニシアティブ」を策定しています。

出典:一般社団法人 全国銀行協会

自治体

福岡県北九州市「再エネ100%北九州モデル」
産業都市である福岡県北九州市では、「蓄電システム先進都市」を目指して、2025年度までに市内すべての公共施設の電力を、100%再生可能エネルギーで賄うことを掲げています。実現に向けて、再生可能エネルギー電力の普及に向けたロードマップ「再エネ100%北九州モデル」を公開し、電力の契約切り替えや蓄電池利用、省エネ機器導入といったステップを示しています。

出典:内閣官房

神奈川県小田原市「EVを活用した地域エネルギーマネジメントモデル事業」
神奈川県小田原市では、企業と連携して「EVを活用した地域エネルギーマネジメントモデル事業」に取り組んでいます。これは、EVに特化したカーシェアリングを行い、EVを動く蓄電池として活用し、地域においてエネルギーを無駄なく利用するという事業です。この事業では、地域への貢献として、災害時にはEVの位置や蓄電状況を市に提供し、避難所へEVを派遣する仕組みも構築しています。

出典:小田原市

世界各国の脱炭素社会への取り組み

2050年カーボンニュートラル達成(中国は2060年)に向けた、世界各国の状況や取り組みはどのようなものか解説します。

EU

EUは、2030年には1990年比で少なくとも温室効果ガスの排出量を55%減とすることや、カーボンニュートラル達成に向けた成長戦略「欧州グリーンディール」を打ち出しています。

欧州グリーンディールで主要目標として挙げているのは、「50年までのカーボンニュートラルの達成」、「経済成長と資源利用の切り離し」、「カーボンニュートラルへの移行において、誰も、どの地域も取り残さないこと」の3点です。

具体的な政策としては、クリーンエネルギーの確保、循環型経済へ向けた産業戦略、持続可能な輸送、生物多様性保護、グリーンな農業、汚染対策など広範な分野を含んでいます。

出典:経済産業省

アメリカ

アメリカでは、トランプ政権時に脱退したパリ協定に、バイデン大統領の大統領就任当日の2021年1月20日に復帰。2030年までに温室効果ガス排出量を2005年比で50〜52%削減すると約束しています。

施策としては、2030年までに洋上風力による再エネ生産量を倍増させること、2035年には現在約65万台の連邦政府の自動車・トラックを、ガソリン・ディーゼル車から、EVなどのゼロエミッション車に切り替えることを打ち出しています。

出典:経済産業省

イギリス

イギリスでは、2030年までに1990年比で68%、2035年には78%の温室効果ガス排出量の削減を目標としています。さらに国家目標として打ち出されているのが、温室効果ガスの排出を削減しながら、経済成長を実現する「クリーン成長戦略」です。産業の低炭素化が、気候変動解決および経済成長のチャンスとなることをアピールしています。

施策としては、洋上風力発電をはじめとする再生可能エネルギーの民間事業者に対する積極的な支援や、二酸化炭素回収・貯留(CCS)対策なしの石炭火力発電所の2025年までの廃止、2040年までにガソリン車やディーゼル車の新車の販売停止などがあります。

出典:経済産業省

中国

世界最大のCO2排出量国と言われる中国の表明は、2030年までにCO2排出をこれ以上増やさない「カーボンピークアウト」を達成し、2060年までにカーボンニュートラルの目標達成に努めるというものです。

中国では、電動車市場が加速しており、2025年までに、新車販売におけるプラグインハイブリッド車(PHEV)や電気自動車(BEV)、燃料電池車(FCV)の割合を25%に引き上げることを目標としています。さらに、2035年までに新車販売の主流を、これらの新エネルギー車とすることを目標とする、「新エネルギー自動車産業発展計画」を公表しています。

出典:経済産業省

GX、DXとの関連性

日本政府が掲げる成長戦略には、GX(グリーントランスフォーメーション)、DX(デジタルトランスフォーメーション)が重点投資分野として示されています。脱炭素社会と経済成長の実現に向け、今後10年間に官民で150兆円超のGX投資を導こうと計画しています。

カーボンニュートラルに伴うGX成長戦略では、再生エネルギーによる電化や、EV(電気自動車)を含む分散電力ネットワークの構築と制御、産業分野のエネルギー効率の向上、エネルギーの再利用や循環などを、DXがもたらすデジタルテクノロジーで最適化することが必要となります。

GXとDXが合わさることで経済社会システムを変革し、カーボンニュートラルへの道が開かれ、サステナブルな経済成長が実現できるのです。

➡︎【資料ダウンロード】業界ごとのDX推進ケースをまとめた“DX事例集”

まとめ:カーボンニュートラルは産業の構造転換

温室効果ガスの人為的な排出を、全体としてゼロにするカーボンニュートラル。カーボンニュートラルの取り組みは、地球の気候変動を防ぐとともに、再生可能エネルギービジネスやイノベーションを発展させ、産業全体のあり方に変革をもたらすものとして注目されています。

私たちの暮らしも、カーボンニュートラル実現に向けて変化が起こることが想定されます。カーボンニュートラルに向けた行動や選択を一人ひとりが行い、国や企業、自治体での取り組みを加速させていくことが大切です。

デジタルトランスフォーメーションを検討している企業ご担当者様へ

モンスターラボには、2,200件を超える多数のサービス開発実績がございます。

課題解決のためのDX推進への知見や、世界各国の拠点を通じて蓄積したグローバルな視点を活かし、解決策をご提案。ビジネスモデルの企画からデザイン、開発までワンストップでご提供します。

モンスターラボが提供するサポートの詳しい概要は、下記のボタンから資料をダウンロードしてください。
DX支援サービス紹介資料ダウンロード

直近のイベント

記事の作成者・監修者

宇野 智之(株式会社モンスターラボ 常務執行役員)

宇野 智之(株式会社モンスターラボ 常務執行役員)

2003年に独立系大手システムインテグレーション企業に入社。エンジニアを経て、PMとして組み込み/MobileApp/Webシステム開発案件を担当。大規模案件のマネジメントやオフショア開発を複数経験する。海外エンジニアとの開発における課題を解決することで、日本のIT人材不足の解決に貢献したいと考え、2015年にモンスターラボへ入社。2015年に豪州Bond University MBA取得。入社後はPM、PMO業務および組織マネジメント業務を担当。 2019年より、執行役員 デジタルコンサルティング事業部副事業部長・開発統括。2021年より上級執行役員 デリバリー統括責任者。プロフィールはこちら