プロトタイピングとは、プロダクトやサービスの試作モデル(プロトタイプ)をもとに、さまざまな検証を重ねながら柔軟に軌道修正することで、より顧客満足度の高い製品などを開発する手法やプロセスのことです。プロトタイピングは開発プロセスの効率化、コスト削減などのメリットが得られるため、多様なビジネスシーンで注目を集めています。
本記事ではプロトタイピングの基礎知識とメリットや注意点、具体的なプロセス、事例について解説します。
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目次
「プロトタイピング」とは試作という意味で、初期段階で試作品(プロトタイプ)を作成して検証する手法およびそのプロセスのことです。
もともと、プロトタイピングはソフトウェア開発や製造業の領域で用いられていましたが、「効率的に最適化が図れる手法」として、最近は新規事業開発やデザイン、ビジネス課題の解決手法として幅広い領域で注目を集めています。
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プロダクト開発において、コスト増加のリスクを回避するには「開発期間の短縮」が欠かせません。一方、コモディティ化が著しい今、あらゆる業界でプロダクト・サービスに対する「顧客満足度の向上」を図る必要性も高まっています。そのため、いたずらに工数のみを削減するだけでは大きなリスクが伴います。
このような背景もあり、プロトタイピングは「開発期間の短縮」と「顧客満足度の向上」の両立を図れる手法として必要性が高まっているのです。
PoC(Proof of Concept、読み:ポック / ピーオーシー)とは「概念実証」という意味で、新しい概念・理論・アイデアを実際の開発に移す前に、実現可能性や効果を検証する工程のことを指します。
PoCは開発するサービスやプロダクトの簡易版を作成し、実際の運用と同じ環境で検証することで「目的とする効果が得られるか」「ビジネスとして成立するか」などの評価を行います。
アイデアや技術の実現可能性を検証することを目的とするPoCに対し、プロトタイピングは方向性や実現性をある程度確定した上で試作品を作る段階です。そのため、PoCはプロトタイプの前段階と言えます。
しかし、目的によってはPoCの段階でプロトタイプを作成する場合もあります。そのため、プロトタイピングとPoCは分けて考えるよりも、近接し合った概念であると捉えておくと良いでしょう。
★PoCについて詳しくはこちら
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プロトタイピングによって得られる代表的な3つのメリットを紹介します。
プロトタイピングでは、プロトタイプを改修・更新する度に、機能や動作のチェックを行います。従来は最終工程でテストを行っていたため、手戻りが発生した場合、修正に大きな工数が発生していました。プロトタイピングを実施することで、課題を早期に発見しスムーズに修正できます。
プロトタイピングでは、プロトタイプを実際に顧客やターゲットユーザーに触れてもらう機会を設けるのが一般的です。顧客のレビュー・フィードバックの内容を製品に反映できれば、プロダクト・サービスの品質向上につながります。
さらに顧客とともに作り上げたプロダクト・サービスは「共感」を得やすく、顧客や消費者のロイヤリティの向上にもつながる副次的な効果も期待できます。
システム開発にはデザイン、システム開発、営業担当者、顧客といったさまざまなメンバーが関わります。そのため、要件定義をきちんと行っていても開発期間中にメンバー間で認識の齟齬が生まれる可能性があります。
しかし、プロトタイピングによって早期にイメージの共有をすることで認識のズレを防ぎ、合意を取りながら開発を進めることができます。また、課題の共有にも役立つため、メンバー全員が一体感を持って開発に臨めることもメリットです。
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プロトタイピングには、プロトタイプと完成品の「忠実度(再現度)」によって「ローファイプロトタイピング」と「ハイファイプロトタイピング」の2種類に大別できます。それぞれメリット・デメリットがあるため、特徴を把握したうえで適切な選択を行う必要があります。
ローファイプロトタイピングは、いわゆる「簡易版のプロトタイプ」を作成する手法です。低コストかつ簡易的な素材を用いて、コンセプトやデザインの概要を作ります。「ペーパープロトタイピング」や「ワイヤーフレーム」が代表的な手法です。
主に機能性の確認に重点を置いた手法であり、コミュニケーションの円滑化や方向性の共有が目的で、ハイファイプロトタイピングと比べると低コスト・短期間でプロトタイプを作成できることがメリットです。
一方、デザインや機能の細部を完全に再現できないため、ユーザーが完成品のイメージを明確に把握することが難しい場合もあります。
ハイファイプロトタイピングは最終的な完成品(成果物)に近いデザイン、機能を有するプロタイプを作成する手法です。代表的な手法としては「デジタルプロトタイピング」、「コードプロトタイピング」が挙げられます。
実物に近いUI(ユーザーインターフェース)、コンテンツや機能、インタラクションなどを作成するため、レビューや効果検証の精度を高められるメリットがあります。
ただし、ローファイプロトタイピングと比べると、プロトタイプの作成に時間と費用がかかることがデメリットとなります。
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ローファイプロトタイピング、ハイファイプロトタイピングの代表的な種類をそれぞれ紹介します。
紙とペンといった最低限のツールで、簡易的にプロトタイプを作成します。アプリ、ソフトウェア、Webサイトの開発に用いられる手法で、システムの画面ごとに大まかなレイアウト、要素を記入した「ラフ画(スケッチ)」を作成し、要求やフローなどの整理・確認・検証を行います。
線と図形で画面のレイアウトの「枠」を作成し、機能を注釈などで作成する方法です。使用するツールによってアナログ、デジタルどちらの場合もあります。Webサイトやアプリ、ゲームなどの設計図として用いられるケースが一般的です。要素の配置やタスクフローの確認などに用いられます。
コンピューター上で画像作成・加工・編集する「グラフィックソフト」を使用してプロトタイプを作成する手法です。ペーパープロトタイピングの紙とペンをより多機能なデジタルツールに置換することで、忠実度の高いプロトタイプを作成できます。
コードを書いて実際に稼働するプログラムを作成し、システムやアプリ、Webサイトで動作するアニメーション、画面遷移などを再現する方法です。コーディング作業の時間と手間が発生するものの、他の手法と比べると忠実度が高く、より密なコミュニケーションや顧客からの具体的なレビューやフィードバックなどを得やすいことがメリットです。
一般的にプロトタイプを作成するために用いるデジタルツールの総称を「プロトタイピングツール」と言います。Webデザインツールの「Figma」やUIデザインに強い「Sketch」、「Adobe XD」など、特定の分野に特化したものから汎用性の高いツールまでさまざまな種類があります。
また、同一ツールでローファイプロトタイピングからハイファイプロトタイピングに移行できる機能を有している製品もあります。
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プロトタイピングのプロセスは要件定義、設計、開発、テスト・評価、改善の5つに大きく区分できます。それぞれの内容とポイントを確認しましょう。
顧客やターゲットユーザーがプロダクトやサービスに求める要件・要求を整理する「要件定義」を行います。
プロダクト開発の目的を明確化し、顧客と共有する工程です。要件・要求に応えるために実装する機能・操作性などについても漏れなく定義します。しかし、プロトタイプのフィードバック後に検討すべき要件については厳密に定義せず、「試作が作れる程度」で簡易的に設定します。
要件定義をもとに、機能の基本設計を行います。あくまでプロトタイプを作成するための設計のため、厳密に作ることよりも迅速さを重視し、いち早くプロトタイプの開発に移行することが求められます。
設計をもとに「検証する項目」を開発側、顧客側で認識を合わせた上で実際にプロトタイプを開発します。細部までは作り込まず、検証対象の機能やメインの機能のみ実装することで、検証効果を保ちつつ開発工数を削減することができます。
プロトタイプをユーザーや顧客に実際に使用してもらい、フィードバックを受けます。機能、操作感、UX/UIなどがユーザーのイメージと合致しており、要件定義を満たしているのかを確認します。
★UX/UIについて詳しくはこちら
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フィードバックで得た評価をもとに、プロトタイプを改善します。新たな要望や仕様変更、機能の増減などの対応が必要な場合もあります。
修正後は再度ユーザー評価を行い、要件と仕様を固めた上で本番開発に移行します。
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プロトタイピングを行う上で、注意すべき3つのポイントについて解説します。
開発工程の全体像や顧客の要望・納期・予算を鑑みてベストなプロトタイピングの種類を選択しましょう。たとえば必要以上に細部までこだわって作ったプロトタイプは、コストや開発期間がオーバーしてしまうリスクがあります。
また、大規模なシステム開発の場合はプロトタイプの作成に膨大なコストがかかるケースが多く、さらにステークホルダーの多さから評価に時間がかかり逆に効率が悪くなることもあります。このような場合はたとえばアジャイル開発など、他の開発手法も検討すべきです。
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プロトタイピングはあくまで目的を持って検証を行うための開発手法です。目的が曖昧なままとりあえずプロトタイピングを行っても、効果的な結果が得られません。「何のためにプロトタイプを作成するのか」という指針をしっかりと明確化し、関係者に共有しておく必要があります。
顧客やターゲットユーザーからのフィードバックにはさまざまなものがありますが、すべてに対応することが必ずしも正しいわけではありません。より多くのユーザーに該当する汎用的な要求であるか、目的と合致しているかを見極め、取捨選択することも大切です。
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最後に、実際にプロトタイピングを活用した開発事例を紹介します。
コロプラスト社は、本拠地をデンマークに置く医療用装具の開発・製造メーカーです。同社は、オストミー患者(人工肛門保有者)の負担を少しでも軽減することを課題としていました。
そこで、ストーマ(人工肛門)袋やカテーテルを装着しながらの生活が楽になるように、日々のメンテナンスを支援するアプリを構想。ストーマケアアプリとカテーテルアプリのプロトタイプを開発し、ユーザーの満足度に焦点を当てるために、細部に至るまでユーザーテストを実施しながら開発を進めました。
テストのデータを活用したことで、半数の治験者はツールの活用によるルーチン管理の簡略化を実感し、約8割の治験者からアプリに対して「満足した」という回答を得ています。
★事例について詳しくはこちら
CAFU社は中東初のオンデマンドカーサービスプラットフォームです。顧客の呼び出しに応じてどこでも、ガソリン充填、洗車、エンジンオイルのメンテナンス、バッテリー充電やタイヤ交換など一連のカーサービスを提供しています。
同社はより幅広いサービスによる価値提供を行うため、事業拡張を検討していました。そこで、Webサイトのプロトタイピングやワークショップを実施し、ビジョンや目標の明確化を行いました。
結果、Webサイトの顧客体験向上だけでなく、データの入力作業自動化や可視化を実現するダッシュボードの開発などを実現し、事業拡張を支えるDX基盤の構築を実現しています。
システム開発においてプロトタイピングを適切に活用できれば、開発側、顧客・消費者側の両者がさまざまなメリットを享受できます。開発期間の短縮や顧客満足度の向上はプロトタイピングを導入するメリットであり、競争優位性を確保するために欠かせない要素です。
システム開発の委託先を選定する際には、プロトタイピングを用いた制作実績の豊富さも1つのポイントとして検討されてみてはいかがでしょうか。
モンスターラボは、約20年にわたるサービス・プロダクト開発実績から得られたデジタル領域の知見や技術力を活かし、デジタルプロダクト開発事業を展開しています。
先端テクノロジーに対応した高度なIT人材があらゆるプラットフォーム上での開発を支援します。アジャイル開発とDevOpsによる柔軟な開発進行や、国内外のリソースを活用したスケーラブルな開発体制の構築も可能です。 また、リリース後の保守運用や品質向上支援まで伴走可能です。
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