会社の成長のためにKGI、KPIを設定する企業もありますが、達成が難しいという声も聞かれます。その場合は、シリコンバレーで発展したノーススターメトリック(NSM)を活用することで、顧客満足度を高めつつ収益性を高めることができるかもしれません。
今回はNSMについて、企業が導入するメリットや導入の手順、大企業の活用事例などをご紹介します。
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目次
ノーススターメトリック(以下、NSMと表記)は、「北極星指標」とも呼ばれ、企業や組織の成長で重視すべき指標です。この指標は、企業の成果やビジョンに直接結びついており、すべての経営判断や取り組みの中心に据えられます。NSMは、単に業績を測定するだけでなく、会社全体の目標や価値観を反映し、組織全体の焦点を1つに絞る役割があります。
★まとめ ・ノーススターメトリック(NSM)は企業の成長を目指すうえで重要な指標 ・KGIとKPIの中間に設定され、顧客視点も取り入れた指標となる ・NSMを取り入れることでKGI達成までの道筋が明確になり、組織の方向性を揃えることが可能 |
ビジネスにおいて、NSMは成果へ直結する重要指標となります。例えば、顧客満足度やリピート率など、特定の指標を改善することで全体の売上アップや成長につながることが多いです。
NSMを設定することで、チーム全体が共通の目標に向かって努力しやすくなり、組織内の意思決定が効率化されます。また、目標に対する進捗状況を可視化することで、社員のモチベーションの向上にもつながります。
NSMは、KGI(Key Goal Indicator、重要目標指標)やKPI(Key Performance Indicator、重要業績評価指標)とは異なる概念です。KGIは組織が達成したい最終目標を表し、KPIはその過程での成果や業績を測定する指標です。
KGI、KPIは経営視点の評価指標になりますが、NSMには顧客視点の評価も含まれているという特徴があります。KGIを達成するために、NSMで顧客満足度を高めるという活用が一般的です。そのため、NSMはKGIと各KPIの中間に設定される傾向にあります。
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ここでは、NSMの設計プロセスを4つの手順に沿ってご紹介します。
まずNSM設計ですべきことは、自社のプロダクトを深く理解することです。プロダクトの種類や特徴、顧客セグメント、市場における位置づけなどを分析する作業が含まれます。この手順はプロダクトの強みと弱みを理解するうえでも基礎となります。
なお、企業のプロダクトはアテンション・トランザクション・プロダクティビティのいずれかに分類することが可能です。
SNSや動画配信サービスのように利用時間が重要なものはアテンション、ECサイトのように購入数が重要なものはトランザクション、会計ソフトのようにタスクの効率化が重要なものはプロダクティビティといった分類ができるでしょう。
つづいて、NSMの3要素と自社のサービスを照らし合わせます。
3要素とは、「ビジョン」、「ユーザー価値」、「事業収益」です。
ユーザーが求めている価値やその背景にある顧客が抱えている課題と解決する方法といった幅広い情報を整理し、「提供する価値」や「対応するニーズ」を明確化することをプロダクトビジョンといいます。
ユーザー価値の例としては、サブスクリプションのコンテンツ配信サービスを行うプロダクトであれば、多様なコンテンツを体験できることなどが考えられるでしょう。
その場合、有料会員数や料金はプロダクトを継続・発展するために不可欠な事業収益の確保・増大も図る必要があります。
このように3要素の内容を具体化することでNSMの内容が明確になることから、ビジョン、ユーザー価値、事業収益の重なる部分にNSMが存在することが多いといえるのです。
これまでの手順で特定した、自社プロダクトの種類や成功に必要な3要素をもとにNSMを仮決定します。分類によってある程度NSMの指標は絞られますし、3要素が連動している指標は何かという視点で考えると見つけやすいでしょう。社内のさまざまな部署のメンバーとワークショップを行うことも有効です。
また、サービスから取得したデータが社内にあれば、NSM指標の裏付けとして活用することをおすすめします。
最後に、設定したNSMに到達するために必要なKPIを設定します。これらのKPIは、幅・深さ・頻度・効率の細分化した4要素に当てはめると導きやすいでしょう。
「幅」はユーザー数やコンテンツ数といったプロダクトの資産です。プロダクトを広げるために増やすべきもの、もしくは広げた結果、増加するものが該当します。
「深さ」はセッション時間(時間)、課金金額(お金)、シェア数(労力)といったユーザーがプロダクトを体験するためにのめり込んでいるかを図る指標をまとめたものです。
セッション数や検索回数といったプロダクトに接触する回数に関わる指標は「頻度」としてまとめましょう。
また、おすすめ表示(レコメンド)のタップ数、検索ヒット数、アプリの起動から機能を利用するための時間は、無駄なくプロダクトの価値を発揮しているかの「効率」につながります。
これらの、設定したKPIを達成するための指標をまとめたKPIツリーを作成することで、相関関係などをわかりやすく整理できるでしょう。
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NSMは、企業の戦略と成長を導く重要な指標です。その策定にはいくつかの重要なポイントがあり、これらを押さえることで、より効果的なNSMを設定することができます。
NSMの最も重要な特徴は、指標を1つに絞りこむことです。NSMには関連するKPIが複数存在するため、複数の指標を設定するとリソースが分散される可能性が高まりますし、ユーザーに提示する価値を明確化できないこともあります。
目標に向けて一貫性のある取り組みを提示することで、組織内の部門やチームが同じ方向に向かって努力することができるでしょう。
なお、プラットフォーム型ビジネスのように、対象ユーザーが買い手側と売り手側それぞれに存在する場合は、NSMが複数になることもあります。
NSMは具体的かつ測定可能でなければなりません。また、その指標に関する理解が企業内で進んでおり、リソースの範囲内で達成可能なものであることも重要です。明確な目標設定を活かすには、データが追跡可能で自社プロダクトに影響を与えるものである必要があります。
NSMは固定された指標ではなく、継続的な評価と改善の対象となる場合があります。PDCAサイクル(計画・実行・評価・改善)を通じて、NSMが適切かどうかや頻度などを定期的に見直し、必要に応じて調整しましょう。このプロセスにより、NSMは常に企業の現状と目標に合わせて最適化され、効果的に機能します。
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NSMはシリコンバレーで生まれた指標のため、世界的に有名なIT企業の事例が多数存在します。NSMがどのように企業のKGIにつながるのか、自社で指標を設定する際の参考にしましょう。
Slackは国内外のさまざまな企業で使われるビジネスチャットツールです。
無料で使うことができますが、90日間でメッセージが閲覧できなくなります。過去にさかのぼってメッセージの確認をしたい場合や高度な管理機能を使用する際は、有料プランの契約が必要です。
Slackでは分析の結果、有料プランを契約するチームは2,000通のメッセージを交わしていることがわかりました。そのため、NSMは「2,000通のメッセージを交わしたグループの数」と設定されています。
クラウド会計ソフトfreeeは、会計作業をはじめとした経理業務の効率化を実現できるツールとして、個人事業主から大手企業まで幅広く活用されています。
freeeのデータアプリケーションチームでは、ミッションから各KPIを設定しており、最もKGIに近い指標である「全口座における、明細/取引が取得できている連携口座割合」をNSMと位置づけています。
音楽ストリーミングサービスのSpotifyは、機能制限のある無料プランと制限のない有料プランがあります。無料プランには曲送りの回数制限や広告表示があるため、より快適に音楽を聴きたい場合は月額制の有料プランを契約することが必要です。
楽曲の再生時間が増えれば、快適性を求めるユーザーが有料プランを契約し、収益増加につながります。そのためSpotifyのNSMに「楽曲の再生時間」を設定しています。
インターネット通販大手のAmazonは、無料のお急ぎ便や動画ストリーミングサービスなどを利用できる「Amazonプライム」を提供しています。分析の結果、Amazonの利用頻度が高い人は、プライムの登録率が高くなる傾向にあることがわかりました。
Amazonプライムに登録しているユーザーは、他社の通販サイトよりもAmazonで商品を探すことが増えます。そのため、NSMには「Amazon Prime登録者の購入点数」が設定されています。
オンラインストレージサービスのDropboxは、無料プランであれば2GBの容量を利用できます。それ以上の容量を利用したい場合、有料プランを契約することで2TB以上を使うことが可能です。
まずは少しでも多くのユーザーに無料プランを使ってもらい、使いやすさや利用価値を実感してもらうことで、有料プランの収益増加につなげます。NSMには「1つのファイルをアップロードしたユーザーの数」が設定されています。
世界最大規模のSNSであるFacebookは、実名登録が特徴です。ビジネス利用から知り合いとのコミュニケーションまで、さまざまな活用がされており、広告表示にともなう出稿費用が主な収入源となっています。
多くのユーザーに広告を表示するには、友達アカウントの投稿が表示されるニュースフィードの閲覧時間を伸ばすことが必要です。そのため、NSMには「加入後10日以内に7人を友達追加」が設定されています。
動画ストリーミングサービスのNetflixは映画やドラマだけでなく、自主制作したオリジナル番組の配信にも力を入れています。広告つきスタンダードプラン、広告のないスタンダードプラン、画質や同時視聴数が強みのプレミアムプランと3つの有料プランが提供されています。
有料プランの収益性を高めるには、ユーザーにNetflixでコンテンツの視聴を続けてもらうことが必要です。そのため、NSMには「コンテンツの再生時間」が設定されています。
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今回はNSMについて、世界的大手IT企業の策定事例を中心にご紹介しました。KGIやKPIとは異なり、顧客視点も含めた指標となるため、設定することで顧客満足度の向上も見込めます。また、KGI達成に向けて重要なKPIを整理することもできるため、これまで指標が達成できなかった企業にとっても、解決のヒントになる可能性があるでしょう。
NSMの設定には自社プロダクトの分類や、成功の3要素の分析といったポイントを抑えなければなりません。部門間の担当者どうしでコミュニケーションをとり、会社の成長につなげましょう。
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