観光DXとは?官公庁の取り組みや国内外の先行事例をもとに解説

観光DXとは?官公庁の取り組みや国内外の先行事例をもとに解説

「観光DX」とは、デジタル技術の活用によって観光価値を向上させ、これまでにない新しい観光コンテンツの創出を目指す取り組みです。新型コロナウイルスの大流行による旅行制限によってリアルな観光への欲求は高まり、観光での体験価値提供は今まで以上に求められています

ユーザー欲求を満たすためには、観光コンテンツの付加価値向上や新しいコンテンツを創出する観光DXが欠かせません。本記事では観光DXの概要や観光庁の取り組み、先行事例などを解説します。

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観光DXとは

「観光DX」とは、デジタル技術やICTの導入・利用によって、作業省力化やデジタル化を図るだけでなく、Society5.0時代に向けて観光価値の向上を目指すことを意味します。観光DXが実現すれば観光資源と技術の融合によって相乗効果が生まれ、DX推進による新しい地域観光モデルを構築でき、これまでにない観光コンテンツの創出が可能です。

観光業のDX推進が求められている背景として挙げられるのが「観光コンテンツの付加価値向上」です。訪日観光の消費拡大を目的に、新しい観光コンテンツや潜在的コンテンツの開拓・育成を行い、その一環でデジタル技術が活用されてきました。

しかし、デジタル市場の急速な拡大、「2025年の崖」問題などを発端に様々な企業・分野でデジタル技術の導入やDX化が進むなか、観光コンテンツの付加価値は依然として飛躍的に向上するには至っていません。

また、新型コロナウイルスの世界的な大流行による旅行制限やオンライン環境の普及によって、リアルな観光への欲求は高まっています。したがって、観光での新しい体験価値提供は今まで以上に求められており、これらの需要に答えていくためには観光DXの推進は最重要課題といえるでしょう。

参考:DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~(METI/経済産業省)

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観光庁の取り組み

観光DXを推進するために、観光庁は「消費機会の拡大」「消費単価向上」につなげられる地域観光モデルの構築実現を目指すために実証事業を令和3年度から行っています。実施されている事業は次の2つです。

  • 開発事業:今までにない観光コンテンツやエリアマネジメント創出・実現を目指すデジタル技術の開発
  • 活用事業:来訪意欲を向上させるためのオンライン技術の活用

「開発事業」は、体験価値向上や観光消費額増額の実現を目指すための実証事業です。具体的には複数の技術を融合させた新しい技術の開発や、技術と観光資源の有業によって相乗効果を生み出す技術開発を行っています。

既に公募が行われ、株式会社鹿島アントラーズ・エフ・シーや京浜急行電鉄株式会社、株式会社JR西日本コミュニケーションズを含む5社の事業が採択されました。

一方、「活用事業」は観光需要と消費意欲の創出を目指すための実証事業です。具体的には相互コミュニケーションが取れる既存オンライン技術と観光資源の融合を行っています。

開発事業同様、活用事業も既に公募が行われ、株式会社ぐるなびや北海道バーチャルトラベル推進協議会、たかやまくえすと推進実行委員会を含む12社の事業が採択されました。

参考:観光DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進 | 観光地域づくり | 政策について | 観光庁

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日本国内の現状

ここまで観光DXの概要や重要性、観光DX推進に向けた観光庁の取り組みについて解説しました。

IPAが2023年2月に発表した「DX白書2023」によると、業種別のDX取組状況の調査において、宿泊業・飲食サービス業で「DXを実施している」と回答した企業は16.4%でした。これは全産業平均が20%強であるのに対し、低い傾向にあると言えます。

その中でも観光DXに取り組む企業の事例として、以下のようなものが挙げられています。

  • AIチャットボットを活用した地域観光案内
  • 観光客属性・旅程データに基づくリアルタイム観光情報提供
  • 顔認証技術を用いた住民・観光客・従業員乗合バスの取組

スマートツーリズムを推進し観光業のデジタル化が進むヨーロッパと違い、日本国内における観光DXは遅れているのが現状です。独立行政法人「中小企業基盤整備機構」が、令和4年5月に「中小企業のDX推進に関する調査」を公表しました。

調査によれば、コロナ禍でのDX進捗状況において「進捗が遅れている」と回答したサービス業(宿泊・飲食業)の企業は約37.5%と約4割で遅れが生じています。

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観光DXの課題

観光DX推進が遅れている主な理由と課題は次の4つです。

  • 人材の育成・確保が難しい
  • 必要な投資ができない
  • 外注に依存していたため知見が発注者にない
  • デジタル戦略が明確になっていない

観光庁が注力しているのが「地域のCRM」という取り組みです。地域のCRMとは、地域に訪問するユーザーの年齢や性別、行動、などを把握し、ユーザーに適したサービスや情報を提供する取り組みのことです。

しかし、観光地の当事者側で基本マーケティングの考え方が広がっていないことが足かせとなり、普及拡大が進みにくいという課題が顕在化しています。この状況を打破するためには、補助金などを充実させるだけでなく、DXやIT、マーケティング人材の確保や知見向上に向けた具体的なアプローチが必要だといえるでしょう。

また、「中小企業のDX推進に関する調査」の調査によれば、「DXに取り組む予定はない」と答えたサービス業(宿泊・飲食業)の企業は半数を超える約58%にも上ります。したがって、現状を打破し日本国内で観光DXを推進していくためには、引き続きDXの重要性を啓発していかなければなりません。

参考:中小企業アンケート調査

★中小企業のDXについて詳しくはこちら

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観光DXのメリット

観光DXの取り組む具体的なメリットとして、以下のようなものが挙げられます。

  • 観光体験の向上
  • 観光業界の生産性向上
  • ニーズに合わせたサービスの提供

たとえば観光DXによってさまざまな手続きがオンラインで完結するようになれば、顧客の利便性は飛躍的に向上します。時間の有効活用もでき、CX(カスタマーエクスペリエンス)の向上が期待できるでしょう。また、サービスを提供する企業側も業務を効率化でき、生産性が向上します。

さらに、顧客情報や行動データなどを収集・分析することでニーズを把握し、顧客ごとにパーソナライズした質の高いサービス提供に役立てることもできます。

★CXについて詳しくはこちら

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先行事例

観光DX推進における先行事例としては次の5つが挙げられます。

  • 岡山県瀬戸内市
  • 兵庫県姫路市
  • 岐阜県高山市
  • 鳥取県倉吉市
  • 愛知県南知多町

それぞれ詳しくみていきましょう。

岡山県瀬戸内市

日本刀の聖地として注目されている岡山県瀬戸内市では、日本刀制作過程の動画コンテンツを配信するなど刀剣ファンを対象に、これまで様々な取り組みを行ってきた自治体です。

岡山県瀬戸内市が立案した、「日本刀の聖地・瀬戸内市 オンライン文化振興オーナー育成プロジェクト」が観光庁の実証事業である活用事業にて採択されました。このプロジェクトでは、以下のような取り組みが行われています。

  • ・刀剣の細部に至るまで鑑賞可能なVR技術を活用した専用アプリの限定配信
  • ・名刀「山鳥毛」の特別公開ガイドツアー(備前長船刀剣博物館学芸員の解説あり)
  • ・Matterportを活用したXRデジタルコンテンツ

Matterportとは、AIなどを使用することによって、現実空間を3D再現するクラウドサービスのことです。XRデジタルコンテンツとMatterportを融合させることで、博物館にいるような臨場感を演出できます。

オンラインツアー終了後には、Twitterスペースを活用して担当者と演者によるアフタートークも開催したそうです。SNSや最新のデジタル技術を駆使した好事例といえるでしょう。

参考:備前長船刀剣博物館「日本刀の聖地」拠点計画

茨城県鹿嶋市

鹿行地域は鹿島アントラーズの本拠地である茨城県鹿嶋市と神栖市、潮来市、鉾田市、行方市から構成されている地域です。鹿行地域では誘致人数の低調や、観光消費額の低さなどの課題を抱えていました。

今回、観光庁の実証事業である開発事業に採択されたのが「鹿島アントラーズを基軸としたエリアマネジメントの変革」事業です。この事業では近距離無線通信(NFC)タグを利用し、サッカー観戦に来たユーザーに対してスタンプラリー感覚でエリアを周遊してもらうことを計画しています。

また、バーチャル空間上に「バーチャルカシマブース」を設定したり、混雑状況を画像解析によってリアルタイムで可視化させたりするなど、デジタル技術も駆使しています。キャッシュレス決済化や通信状況の改善を行って観光産業の基礎レベルを底上げし、誘客をしたユーザーをファン化させるためのサポートも進めていくようです。

スポーツを基軸に観光DXを進めていく貴重な事例といえるでしょう。

参考:スポーツチームを核とした新事業創出可能性調査 実施報告書

岐阜県高山市

岐阜県高山市は江戸幕府の行政拠点であった「高山陣屋」や重要伝統建造物群保存地区に指定されている「古い街並」など、歴史を色濃く残す街です。国内外から観光客が訪れる人気エリアですが、観光区域外には中々誘致できず、新規顧客の獲得などの課題を抱えていました。

今回、観光庁の実証事業である活用事業に採択されたのが「魅力再発見PROJECT たかやまくえすと ~そして今くるさ~」です。このプロジェクトでは、高山市をモチーフにした架空の街を舞台としたRPGを制作しています。

実在する施設や観光スポットをマップ上で配置し、ユーザーはプレイヤーとなってストーリーを進めながら魅力に触れられる仕組みです。また、地域に伝わる伝説や伝統工芸品なども盛り込むことで認知度の低い観光資源の発信も目指しています。

ゲームはレトロな16bitのグラフィックとなっているため、40~50代の第一次テレビゲーム世代の興味を惹けるコンテンツというのも大きな特徴です。ゲームとリアルを融合させることによって、魅力の発信と来訪意欲を向上させることができる事例といえます。

参考:スマートフォン向けRPGゲーム ” たかやまくえすと ” リリース! | 飛騨高山観光公式サイト

鳥取県倉吉市

鳥取県倉吉市は江戸時代の雰囲気を残している街並みが重要伝統的建造物群保存地区に保存されている街です。伝統的な文化が残り、歴史情緒あふれる倉吉市ですが、観光客の潜在時間が短く、宿泊につながらないという課題がありました。

今回、観光庁の実証事業である活用事業に採択されたのが「現代版『里見八犬伝』倉吉のまちを巡るバーチャルオンラインツアー」です。現代の倉吉市を舞台に里見八犬伝の世界観を設定し、参加者はそのストーリーの主人公として八犬士達とともに倉吉エリアを巡り、ツアー中に発生する事件を解決していきます。

プロジェクトを通じて来訪意欲を向上させるのはもちろん、ツアーに登場する八犬士を人気キャラに育成し、キャラクタービジネスの展開も想定しているそうです。ただ、観光資源を基軸にオリジナルストーリーやキャラクターを生み出すのは全国でも稀な事例といえます。

2014年にフィギュア製造の大手企業である株式会社グッドスマイルカンパニーが倉吉市内に誘致されたことをきっかけにポップカルチャーによる地域おこしを行ってきました。これまでの活動を上手く活用しながら、デジタル技術と融合・発展させた事例といえるでしょう。

参考:【倉吉八犬伝】YouTubeドラマツアー配信!(1/22振返り上映会開催)

愛知県南知多町

南知多町は元々、温泉や海の幸などを目当てに東海圏から多くの観光客が訪れていましたが、新型コロナウイルスの影響で観光客数は例年の半数にまで落ち込みました。アフターコロナでも団体旅行の疎遠が予想されるなど苦境に立たされており、東海圏以外からも来訪してもらえるような魅力的なコンテンツの確率が急務となっています。

今回、観光庁の実証事業である活用事業に採択されたのが「南知多・とっておきの“島時間”で来訪意欲を増進するオンライン活用事業」です。この取り組みは「知多半島」「日間賀島」「篠島」から形成された地勢と地域の目玉である「しらす」「鯛」を活用し、地域の魅力を体験できるオンラインツアーとなっています。

漁港の様子や漁師の動きを映像で見ながら様子をリアルに体感できるコースや、篠島で獲れた鯛は神事に用いられる名産として伊勢神宮に奉納されることから歴史的背景も絡めて体験できるツアーが用意されています。

これらは事前に送った海の幸を堪能しながら、オンラインツアーで島の魅力を知ることが可能です。また、コミュニティアプリ「SpoTribe」を活用することで、スポットに関心を持つ人々がSNS感覚でコミュニケーションを取れます。

オンラインである「SNS」「デジタル技術」とオフラインである「特産品」を上手く融合させた事例といえるでしょう。

参考:知多半島と日間賀島・篠島が織りなす愛知県南知多町の“島時間”を、オンラインツアーで体験!|観光DX推進プロジェクト

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モンスターラボの観光DX事例

モンスターラボは、2,200件を超える多数のサービス開発実績で培われたデジタル領域の知見を活かし、国内外のさまざまな企業のDX推進をあらゆる面からサポートしています。今回は観光DX事例をご紹介します。

ガーデンズバイザベイ

快適なデジタル体験を提供することでユーザーの課題解決を図る

快適なデジタル体験を提供することでユーザーの課題解決を図る

Gardens by the Bayは、2012年にオープンしたシンガポールの観光施設。モンスターラボは、同施設の公式アプリのフルリニューアルにリサーチ・企画フェーズから参画。

テクノロジーを活用したUX(ユーザー体験)向上を通じてDX推進をサポートし、コロナ禍におけるクライアントのビジネスの変化に最適な解決策を提供しました。

新しいアプリに求められたのは、“現地に行きたくなるようなUXを生み出す”こと。モンスターラボは、ユーザータッチポイントごとに快適なデジタル体験を提供することで課題解決を図る複数の機能を提案しました。

「入場券購入時または入場時の混雑」はオンラインチケットの導入、「混雑時間帯の偏り」はダイナミックプライシングの導入、「人気アトラクションの混雑」は予約整理券発行機能、「園内の案内不足」はARを活用した道案内機能、とそれぞれの課題に対する最適なソリューションを提供。

現在もafterコロナの時代を見据えてプロジェクトは鋭意進行中。モンスター・ラボでは、さらなるUX向上と社会情勢の変化に合わせた迅速なサポートを継続しています。

JTB

JTB『JTB旅行検索・予約確認アプリ』

株式会社JTBは、実店舗やWEBサイトにて旅行の販売を手がける日本の大手旅行会社です。

同社は国内・海外旅行の検索から予約、予約内容の確認までスムーズに行える『JTB旅行検索・予約確認アプリ』を開発しました。主な機能は①国内旅行・海外旅行の検索、予約 ②予約旅行内容の確認 ③JTBとのメッセージ送受信 ④ポイント確認です。

旅行の計画段階から旅行中まですべてがこのアプリ一つで完結することから、幅広い年代のユーザーの利便性向上に貢献しました。リリース後からアプリのダウンロード数は順調に伸び、併せて売り上げも増加しています。

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観光DXは改善を繰り返しながら推進していくことが大切

アフターコロナで観光客の来訪意欲を向上させるためには、観光コンテンツの付加価値向上や新しい体験価値の提供が欠かせません。

しかし、デジタル技術はまだまだ発達・拡大しており、今後どのようなトレンドが出るのかも予測できない状況です。

そのため、最初から完璧なものを作り上げようとすると頓挫するリスクや、別企業に新サービスや取り組みを先に行われてしまうリスクがあります。

デジタルサービスや取り組みは早いもの勝ちの世界のため、観光DXはいち早くアクションを起こし、適宜改善しながら推進していくことが大切です。取り組みが早ければ、成功に向けたアドバンテージを手に入れられるでしょう。

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DX推進にお悩みの経営者様・企業担当者様へ

モンスターラボは、デジタル領域の知見を活かし、企業のDX推進戦略をあらゆる面からサポートいたします。

ご提案・お見積もりの段階から、デジタル領域の知見を持つコンサルタントをアサイン。新規事業の立ち上げ・既存事業の変革などのビジネス戦略を上流工程からサポートいたします。

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記事の作成者・監修者

宇野 智之(株式会社モンスターラボ 常務執行役員)

宇野 智之(株式会社モンスターラボ 常務執行役員)

2003年に独立系大手システムインテグレーション企業に入社。エンジニアを経て、PMとして組み込み/MobileApp/Webシステム開発案件を担当。大規模案件のマネジメントやオフショア開発を複数経験する。海外エンジニアとの開発における課題を解決することで、日本のIT人材不足の解決に貢献したいと考え、2015年にモンスターラボへ入社。2015年に豪州Bond University MBA取得。入社後はPM、PMO業務および組織マネジメント業務を担当。 2019年より、執行役員 デジタルコンサルティング事業部副事業部長・開発統括。2021年より上級執行役員 デリバリー統括責任者。プロフィールはこちら