企業にとって人手不足は大きな経営課題です。その打開策として、業務の一部を外部委託するBPO(Business Process Outsourcing)の利用が広がってきました。
しかし、社会全体でDX(デジタルトランスフォーメーション)が進むなか、従来の「人間の労働力」に依存したBPOには限界も見えてきています。
労働人口の減少で担い手の確保が難しくなり、さらにデータ分析や意思決定支援といった高度な業務ニーズにも対応しきれないためです。
このような課題を乗り越えるための新たな仕組みとして、AIを取り入れた「AI BPO」が注目を集めています。
効率化にとどまらず、企業の競争力を高める戦略的なアウトソーシングとして期待されています。
| ★まとめ ・AI BPOの仕組みと従来型BPOとの違い ・AI BPO導入による業務効率化やコスト削減を含む具体的な導入メリット ・AI BPOを成功させる導入プロセスと注意点 |
目次
AI BPOとは、人工知能(AI)を組み込み、業務プロセスの自動化や高度化を実現する新しい形のBPOです。
従来のBPOは、人材を活用して定型的な業務を外部に任せる仕組みが中心で、データ入力、請求書処理、コールセンターのFAQ対応などが代表例です。
その後、RPA(Robotic Process Automation)やOCR(Optical Character Recognition/Reader)を用いた「デジタルBPO」へと発展し、ルール化、自動化できる作業を効率化してきました。
AI BPOはさらにその先に位置づけられ、生成AIなどを活用し、問い合わせ内容の自動仕分けや経費精算の不備チェックといった、人間の判断を必要とする非定型業務まで対応可能な点が特徴です。

➡︎【資料ダウンロード】AI導入の手引き書〈最新版〉AI関連事例集
ビジネス環境の変化が加速するなか、BPOに求められる役割は単なる業務代行から「競争力を高める戦略的パートナー」へとシフトしています。そのため、従来の人材依存型BPOだけでは不十分な場面が増えてきました。
そこでAIを活用することによって、従来の仕組みでは対応しきれなかった課題にも応えられるようになり、BPOの進化を後押ししています。
企業が取り組むDXの目的は、ITツールの導入にとどまらず、デジタル技術を活用して業務プロセスや企業文化、さらにはビジネスモデルを変革し、新しい価値を生み出すことです。このDX推進の流れは、BPOに求められる役割も大きく変化させています。
従来はコスト削減が中心でしたが、今やDXの実現を後押しする「経営のパートナー」として、業務改善の提案やデータ活用を担うことが期待されています。
AI BPOは、こうした新しい役割を担う実践的な手段として、企業の関心を急速に集めています。
★DX戦略について詳しくはこちら
従来のBPOではコスト効率と業務品質はトレードオフの関係にあるとされ、両立させることが難しい課題でした。
AI BPOはこの課題を解消できる可能性があります。AIは人間よりも迅速かつ正確に大量データを処理できるため、ヒューマンエラーを大幅に削減可能です。
さらに24時間365日稼働できるため、生産性も大きく向上します。つまり、コスト効率とサービス品質の両立を実現できる点こそ、企業がAI BPOを戦略的に導入する大きな理由といえるでしょう。
➡︎【資料ダウンロード】AI導入の手引き書〈最新版〉AI関連事例集
AI BPOの導入によって得られることは、単なる業務効率化だけでなく、品質の安定化や人材活用の最適化、そして需要変動への柔軟な対応など、企業活動全体に渡ります。
その結果、企業は競争力を強化し、持続的な成長へとつなぐことができます。具体的なメリットを一つずつ見ていきましょう。
AI BPOの導入によって大きく変わるのは「業務の進め方」です。AIは大量データを同時に処理し、人手に頼る場合に発生する待ち時間や重複作業を最小化します。
これにより、同じ人員でこなせる業務量が増え、オペレーション全体が効率化されます。
さらに、問い合わせの分類や帳票の確認といった判断作業も自動化できるため、処理スピードも大幅に向上するでしょう。
その結果、顧客対応や社内の意思決定が早まり、組織全体の生産性が大きく高まります。
人間が作業を行う以上、入力ミスや確認漏れを完全になくすことはできません。単調で繰り返しの多い業務ほどヒューマンエラーは起きやすくなります。
その点AI BPOは、設定されたルールや学習したデータに基づいて一貫した処理を行うため、人為的なばらつきを大幅に抑えられます。
これにより、チェックや修正のやり直しが減り、業務プロセス全体の品質が安定します。品質の安定は、最終的に顧客の信頼や満足度を高めることにつながります。
AIの活用による業務自動化は、人件費の削減に直結します。これまで多くの人員を配置していた業務をAIに任せれば、大幅なコストダウンが期待できるでしょう。
さらに、夜間や休日の対応もシフトを組まずに行えるため、残業代や深夜手当といった追加の人件費が不要になります。
加えて、業務量の増減に応じて柔軟に処理能力を調整できるため、繁忙期に一時的な人員を確保するコストも発生しません。
短期的には人件費削減、長期的には運用コストの最適化につながる点が、AI BPOの大きな魅力といえます。
少子高齢化による労働人口の減少は、多くの企業にとって避けられない課題です。AI BPOは、人手が不足しても業務を安定的に継続できる環境を整えます。
人員の増減に左右されにくい環境を確保することで、慢性的な人材不足のリスクを抑えられます。さらに、特定の従業員の経験や勘に依存する「属人化」した業務を標準化できる点も大きな効果です。
ベテラン社員のノウハウをAIに学習させれば、その経験則を組織全体の資産として共有できます。AI BPOを導入することで、担当者の退職や異動があっても業務が滞らず、組織の安定運営を実現できます。
AI BPOの大きな強みは、業務量の変動に合わせて処理能力を自在に調整できる点です。繁忙期には問い合わせ件数が急増しても柔軟に体制を拡大でき、閑散期には無駄な稼働が抑えられます。
人間の労働力だけに依存していると、短期間での人員確保やシフト調整は容易ではありません。AI BPOなら需要の波にスムーズに乗ることができ、顧客への対応の遅れを防げます。常に最適なコストと体制で業務を回せる柔軟性は、企業に安定と競争力をもたらします。
➡︎【資料ダウンロード】AI導入の手引き書〈最新版〉AI関連事例集
AI BPOは、業種や部門を問わず幅広く応用できるのが特徴です。バックオフィス業務から顧客対応まで、複数の業務領域で導入可能です。
ここからは、具体的な事例を取り上げながら、AI BPOが実際のビジネス現場でどのように効果を発揮するのかを見ていきましょう。

カスタマーサポートは、AI BPOの導入が特に進んでいる分野です。AI搭載のチャットボットが定型的な問い合わせに即時対応し、顧客を待たせる時間を減らします。
その結果、オペレーターは複雑な案件に集中でき、負担の軽減にもつながります。さらに、AIは問い合わせ内容の要約や感情分析を行い、必要に応じて人間のオペレーターに引き継ぐことが可能です。
こうした仕組みによって、コンタクトセンター全体の応対品質と運営効率が向上します。
請求書や申込書といった紙の情報をシステムに入力する作業は、時間がかかるうえに担当者の負担も大きい業務です。
AI-OCR(光学的文字認識)の技術を活用したBPOでは、書類から必要な情報を自動で読み取り、即座にデータ化できます。
単なる文字認識にとどまらず、項目を判別して所定のフォーマットに整理することも可能です。これにより、入力作業を大幅に省力化できるだけでなく、データの正確性や整合性も安定します。
バックオフィス業務全体の効率化につながる点は、AI BPOならではの強みです。
★図面読み取りから始める業務効率化について詳しくはこちら
財務・経理部門でも、AI BPOは有効に機能します。取引先からの請求書をAI-OCRで読み取り、会計システムへ自動で仕訳入力するといったプロセスはその代表例です。
さらに、経費精算の内容を社内規定や会計ルールと自動で照合し、不備や不正の可能性を検出することもできます。
これまで専門知識を持つ担当者が目視で行っていた確認作業をAIが担うことで、月次決算の処理スピードが向上するだけでなく、内部統制やガバナンスの強化にもつながります。
人事部門の定型業務も、AI BPOによって大幅に効率化できます。採用活動では、AIが応募者の履歴書や職務経歴書を解析し、募集要件との適合度を自動判定することで、適切な候補者選定のスピードだけでなく、正確性や公平性も高められます。
勤怠管理や福利厚生に関する従業員からの問い合わせには、AIチャットボットが即時に対応可能です。こうした仕組みにより、人事担当者は日常的な事務作業に追われることなく、人員採用や人材育成といった戦略的で付加価値の高い業務に集中できるようになります。
保険業界では、保険金の支払い査定にAI BPOの導入が広がっています。事故報告書や修理見積書など膨大な関連資料をAIが自動で分析し、保険金支払いの条件に合致するかどうかを判定します。
さらに、過去の類似案件データを参照することで、査定金額の妥当性を高精度で算出することも可能です。
これにより、査定プロセスの迅速化だけでなく、担当者の経験や主観に左右されない一貫性と公平性を確保できます。
結果として、顧客満足度の向上や不正防止にもつながる点が、AI BPO導入の大きな効果といえます。
★保険業界のDXについて詳しくはこちら
➡︎【資料ダウンロード】AI導入の手引き書〈最新版〉AI関連事例集
AI BPOには数多くのメリットがありますが、その効果を十分に発揮させるには導入の進め方が極めて重要です。
計画なく導入すると、現場の業務とかみ合わず、期待した成果が得られないだけでなく、コストだけが膨らむリスクもあります。
ここでは、導入時に押さえておくべき基本的なプロセスと、あらかじめ注意しておくべきポイントを整理します。
AI BPOの導入を成功させるには、徹底した事前準備が欠かせません。まず「どの業務にどのような課題があるのか」を明確にし、ボトルネックを洗い出します。
そのうえで「導入によって何を実現したいのか」について具体的なゴールを定義することが重要です。ここが曖昧なまま進めると、成果が出ずに失敗につながる危険性が高まります。
AI BPOは、導入すればすぐに成果が出る仕組みではありません。初期段階では、システム開発や導入に伴う費用が必要になります。
さらに、自社の業務内容に合わせてAIを調整する学習期間や、既存システムとの連携テストなど、安定稼働までには数ヶ月から半年程度を要します。
こうした初期投資も長期的に見れば、人件費の削減や生産性向上によって十分に回収可能です。導入を検討する場合には、短期的な成果だけにとらわれず、中長期的な投資対効果を前提とした計画が欠かせません。
BPOは外部に委託する仕組みですが、AI BPOの場合はすべてを任せきりにはできません。効果を最大化するには、社内にも一定の知見を持つ人材が必要です。
具体的には、ベンダーに対して業務要件を正確に伝え、AIの成果を適切に評価できる役割を担う担当者です。
この担当者が現場部門とベンダーの間をつなぐハブとなって、コミュニケーションを円滑に進めることが、AI BPO導入プロジェクト成功のカギとなります。
AIの精度は、学習に使うデータの品質に大きく左右されます。「Garbage In, Garbage Out(ゴミを入れれば、ゴミしか出てこない)」という言葉があるように、不正確なデータを使えば、AIは期待通りの成果を出しません。
そのため、AIに学習させるデータの品質を確保し、継続的にモニタリング・管理する体制が不可欠です。AI BPOは機密情報を外部に預ける仕組みである以上、セキュリティと信頼性の確認が欠かせません。
不正アクセスや情報漏洩といったリスクを最小化するためには、堅牢なセキュリティ基盤を持つベンダーを選び、定期的に監査・検証を行うことが重要です。
★AIのセキュリティリスクについて詳しくはこちら
➡︎【資料ダウンロード】AI導入の手引き書〈最新版〉AI関連事例集
AI BPOは、従来のBPOが担ってきた「コスト削減」や「業務効率化」を、AI技術によって一段と高いレベルへと進化させる仕組みです。
単純作業の自動化にとどまらず、人間が行ってきた判断業務にも適用範囲を広げ、品質向上や人材不足の解消、新たな価値創出に貢献します。
導入にあたっては課題の洗い出しや要件定義、初期投資、セキュリティ対策といった慎重な準備が欠かせません。
しかし、これらを乗り越えて戦略的にAI BPOを活用すれば、企業は持続的な競争優位を築くことができます。
ノンコア業務(定型的・反復的な業務)を効率的にアウトソースしつつ、従業員が付加価値の高いコア業務に集中できる体制を整えることが、DX時代に企業が実現すべき次世代の働き方といえるでしょう。
モンスターラボでは、世界各国のスペシャリストがチームを組み、さまざまな業界・業種のデジタルサービス/プロダクト開発から、UX/UIデザイン、ブランド開発、グロースハックまで幅広く支援しています。
ビジネスの上流工程からデジタル領域の知見を持つコンサルタントが中心となり、課題に合わせたソリューションを提案します。
また、先端テクノロジーを含むあらゆるプラットフォームに対応できる開発体制を整えています。
その他にも、アジャイル開発による柔軟な開発進行や、国内外のリソースを活用したスケーラブルな開発体制の構築、リリース後の保守運用や品質向上支援まで、さまざまなニーズに対応しています。
さらに、世界各国の拠点とネットワークを活かし、お客様のビジネスの海外展開も支援しています。対象地域におけるビジネス立案から現地調査まで、これまで培ったグローバルな支援実績をもとに伴走支援します。
モンスターラボが提供するサポートの詳しい概要は以下リンクをご確認ください。