Bluetoothは近距離のデバイス同士を繋ぐ無線通信技術。イヤホン、スピーカー、キーボード、マウスなどに搭載されているイメージですが、バージョンによって多様な通信方式が確立されており、今後、さまざまな産業・サービスでの活用が期待されています。
この記事では、Bluetoothの基礎知識や特徴、Bluetoothの1種であるBLE(Bluetooth Low Energy)やBluetoothデバイスのビーコンについて解説。Bluetoothのユースケースも紹介します。
目次
まずはBluetoothの概要を紹介。特徴によるメリット・デメリット、BluetoothとWi-Fiとの違いも解説します。
Bluetoothは無線通信技術の1つです。極超短波である2.4GHz帯域を使い、近距離のデジタルデバイス同士をワイヤレスで接続します。
世界標準規格のため汎用性が高く、さまざまなメーカーが製品に採用。Bluetooth規格の標準化団体「Bluetooth SIG(Special Interest Group)」のメンバーには、MicrosoftやApple、Googleを含む3万6000以上の組織が名を連ねており、Bluetoothデバイスの出荷台数は2020年だけで45億台を超えるとの予測も。
今後は、パソコンやオーディオ機器などの個人ユースだけでなく、スマートシティやスマートホームを実現する通信技術としても期待されています。
Bluetoothの特徴は規格ごとに異なるものの、主に以下の4点に集約されます。
Wi-Fiなどの無線LANに比べ、消費電力が低いBluetooth。特に、後述のBLEは省電力性に特化しており、電池1つで数ヶ月〜数年稼働するものも。そのため、マウスやキーボード、IoTデバイスなど、長期間使用されるものに適しています。
しかし、電池交換の頻度が少ないぶん、設置してから数年後に「電池切れしたことに気づかなかった」というケースも。最近では、太陽光発電などを利用するビーコン、電池交換が不要なビーコンも開発されています。
Bluetoothが登場して20年以上。Bluetoothデバイスや関連サービスは、IoT時代へ向けて低価格化が進んでいます。
特に、Bluetoothデバイスの「ビーコン」は、小さな基盤と電池のみのシンプルな装置で、とてもリーズナブル。運用コストも基本的には電池代のみ。
ハードウェア・ソフトウェアの開発会社「芳和システムデザイン」は、来店促進施策や屋内測位、在庫管理などの用途に合わせ、多様なビーコンを販売しています。音と光を発するビーコン 「BLEAD-SL」は3個入りで2万円。数百円のコイン電池で1年ほど稼働するとのこと。
導入しやすい一方で、高いセキュリティレベルが要求されるサービスでは、別のソリューションと組み合わせるなどの工夫が必要です。
個人情報の取り扱いが懸念される「接触確認アプリ」では、識別子をランダムに生成することによって、お互いを特定できないような仕組みになっています。
端末同士が濃厚接触(1m以内15分以上)すると、Bluetooth通信によって識別子が交換される
ビーコンには小型・軽量のものが多く、前述の芳和システムデザインのビーコンも直径5cm、重量28gほど。設置工事が不要で、取り扱いやすいのが特徴です。持ち歩きにも適しているため、子ども・高齢者の見守りサービスのためのペンダント型ビーコンも販売されています。
ただし、近距離通信が原則となるため、店舗・公共施設などでは人目につきやすいところに設置せざるをえず、盗難・紛失のリスクも考えられます。
開発者にとって比較的理解しやすいデータモデルをもつBluetooth。機能を拡張したり、フレームワークを自由に活用したりすることができ、多様なサービスに応用しやすいのが特徴です。
しかし、不特定多数に向けて情報発信する「ブロードキャスト通信」では、データを受信する側(スマートフォンなど)に、アプリなどの仕組みが備わっていなければなりません。そのため、Bluetoothを商用サービスで活用する場合、まずはユーザーにアプリをダウンロードさせるなど、UXのデザインが求められます。
無線通信といえばWi-Fiを思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。
Wi-Fiは無線LANの1種。LANは「Local Area Network(ローカル・エリア・ネットワーク)」の略で、オフィスや家など、一施設内程度の規模で用いられるネットワークのことです。利用には、アクセスポイントと呼ばれるWi-Fi機器を設置。その電波が届く範囲で、パソコンやスマートフォンなどをインターネットに接続できます。
Wi-Fiの仕組み。アクセスポイントが仲介し、範囲内のデバイスをインターネットと繋ぐ
無線LANは中〜長距離通信に長けており、通信距離は屋内で100m、屋外で300mほど。Bluetoothの通信距離の3〜10倍にあたります。
また、無線LANは多人数の接続を想定している一方で、Bluetoothは1対1がメイン。そのため、規格や利用状況によって異なるものの、無線LANのほうがより多くの台数に接続できます。
その分、電力消費は無線LANが大きく、Bluetoothの25倍ほどの電力を要します。
総務省「子供を見守るICT技術に関する調査検討会 報告書」より作成。規格や利用状況により数値は異なる
ここからはBluetoothの機能を表すときに使われる3つの用語を解説します。
バージョンはBluetoothの規格のこと。「Bluetooth 1.0」に始まり、最新は「Bluetooth 5」。これまで、データ転送速度や接続品質、セキュリティ面などが改善されてきました。
詳細は後述「Bluetoothの歴史と種類」へ。
クラスは電波の到達距離のこと。距離によって以下の3種類に分けられます。
クラス1:最大100m
クラス2:最大10m
クラス3:最大1m
私たちが日常で使うデバイスは、クラス1もしくは2が大半です。
プロファイルは、機能(ユースケース)に対して実装するBluetoothの定義のこと。つまり、デバイスが提供するサービスを指します。
主なプロファイルは以下の通り。
Bluetoothの歴史と種類。「Bluetooth 1.0」に始まり、最新のものには「Bluetooth 5」がある
ここからは、Bluetoothの歴史を辿りながら、Bluetooth ClassicとBluetooth Low Energyの違いを解説。最新規格の機能であるBluetooth Meshについても紹介します。
Bluetooth Classicは、1999年7月に一般公開された「Bluetooth 1.0」から、2009年4月にリリースされた「Bluetooth 3.0」までを指します。オーディオ転送やパソコン周辺機器のペアリングなど、個人ユースが中心です。
パソコン・スマートフォンなどの親機を「マスター」、マウス・イヤホンなどの周辺機器を「スレーブ」と呼び、主にピアツーピア(1対1)のペアリングを想定しています。
Bluetoothのペアリング例。基本的には1対1を想定している
Bluetoothが考案されたのは1994年のこと。スウェーデンの通信機器メーカー「エリクソン」の社内プロジェクトとして開発がスタート。パソコンに標準搭載されていた有線通信規格「RS-232」に代わる、新しい通信技術として設計されました。
Bluetooth 1.0が公開された1999年、初の消費者向けBluetoothデバイスとして、ワイヤレスヘッドホンが登場。続けて、携帯電話やプリンタ、マウスなども発売されました。
2004年11月リリースの「Bluetooth 2.0」ではEDR(Enhanced Data Rate:データ通信速度の拡張)機能 、2009年4月リリースの「Bluetooth 3.0」ではHS(High Speed:データ通信の高速化)機能を搭載。ファイルサイズが大きい音声・動画データなどの送信が容易になりました。
2009年12月リリースの「Bluetooth 4.0」に搭載されたLE(Low Energy:低消費電力)機能。高速化から省電力化へ方向転換し、アクティブ時の電力消費はBluetooth Classicのおよそ1/10に。そのため、IoTやウェアラブルデバイスの基盤技術として急速に普及し始めました。
Bluetooth1.0のオプションとして追加されてきたEDR・HSとは異なり、LEはまったく新しい通信規格。そのため、Bluetooth Classicと区別し、BLE(Bluetooth Low Energy)と呼ばれています。
BLEでは、ピアツーピア通信だけでなくブロードキャスト通信(不特定多数に向けた通信)も可能。この場合、位置情報などのサービスを提供するデバイスを「ペリフェラル」、そのサービスを受け取るスマートフォンなどのデバイスを「セントラル」と呼びます。
Bluetoothのブロードキャスト通信の例。ペリフェラルは、アドバタイジングパケットと呼ばれるデータを一定間隔で送信し続ける
ペリフェラルに該当するデバイスにはビーコンがあります。詳細は後述「Bluetoothデバイス・ビーコンとは」へ。
2016年6月リリースの「Bluetooth 5」では、BLEを拡張し、メッシュネットワーク対応機能が追加されました。
これによって、Bluetooth Classicの「1対1」、BLEの「1対多」からさらに進化し、「多対多」の通信が可能に。照明、空調、防災システムなどさまざまなモノ同士を繋げ、スマートホームやスマートビルディングを推進します。
Bluetooth SIGのケン・コルドラップ氏は、Bluetooth Meshのメリットとして、メッシュネットワークによる信頼性、最大3万2000台のデバイスを1つのネットワークに収容できる拡張性などを挙げています。
ここからはBluetooth 4.0以降に対応するデバイス「ビーコン」について説明します。
ビーコンは、BLE通信において、電波・光などの信号を一方的に送り続けるデバイスです。信号を受信するスマートフォンなどのデバイス、その情報を処理するアプリなどの仕組みを経て、初めてサービスが展開されます。
ビーコン自体が機能を作動したり、利用者に対してサービスを提供したりすることはありません。
ビーコンはすでにさまざまなサービスに活用されています。
道路交通分野で活用されているのは「電波ビーコン」や「光ビーコン」。道路上に設置されたビーコンから、渋滞・通行止め・所要時間などの情報を発信し、通行車両のカーナビなどに表示することができます。
また、山のアクティビティでは、登山者やスキーヤーが携帯する「雪崩ビーコン」が活用されています。雪崩や滑落事故に遭った場合、ビーコンから発信される電波を使い、捜索活動が行われます。
ユーザーの位置情報・識別情報を組み合わせて記録すれば、ヒートマップの作成も可能。施設利用者の導線を可視化することで、混雑度を割り出したり、マーケティング施策に活用したりすることができます。
ビーコンには、温度・湿度・照度などのセンサー機能を搭載したタイプも。スマートビルディングの構築、農業・畜産業での活用が期待されています。
詳しくは「Bluetoothのユースケース」へ。
現在、市場にはさまざまなビーコンが出回っています。ここでは代表的なAppleとGoogleのビーコンを紹介します。
iBeaconは、2013年発売のiOS 7に標準搭載された規格。ビーコン領域の観測や、ビーコンとの距離測定に用いられており、位置情報サービスを拡張するためのテクノロジーに位置付けられています。
Beaconはもともと「かがり火」や「のろし」を指す単語。離れた相手に信号を伝える様子を引き合いに、Apple製品のネーミングの特徴である「i」と「Beacon」を組み合わせ、iBeaconと命名されました。
Eddystoneは、Googleが2015年に発表したビーコン規格。送信されるデータの違いによって、UID、URL、TLMの3種類に分けられます。
Eddystoneは、イギリスのフォークランド諸島にある岩礁「Eddystone Rocks(エディストン・ロックス)」の灯台が由来とされています。灯台が明かりを発する様子と、ビーコンが信号を送り続ける姿が似ているためです。
人工衛星を利用した位置情報計測システム「GPS」。緯度・経度による平面座標で位置を示し、地図アプリなどの位置情報サービスで多用されています。
GPSのデメリットは、ビルの屋内など高さがある場所で、正確な位置情報を取得できないこと。また、衛星からの電波を受信するため、通信状況によっては数メートルの誤差が生じるケースがあります。
一方、ビーコンは電波の強さによって距離を割り出すため、ビルの階数なども明示できます。また、隣り合った店舗・施設でも、それぞれにビーコンが設置されていれば、高い精度で特定することができます。
ビーコンによる位置情報取得の特徴
ここからはBluetoothを活用したさまざまなユースケースを紹介します。
Bluetoothを含む無線通信ネットワークがあれば、建物内のさまざまなモノが繋げ、ビルディングオートメーションシステムを促進することができます。空調設備、電気設備、給排水衛生設備、防災・防犯設備、機械設備を総合的に管理し、室内環境の快適化、省エネルギー化、セキュリティ強化などを実現できます。
Bluetoothを使えば、POSレジの前を通るだけで支払いが完了する“ウォークスルー決済”が可能に。スマホを決済機器にかざしたり、レジの順番を待ったりする必要がないため、スムーズで効率的な支払いが実現します。
ほかの無線通信の電波と比べ、医療機器への影響が少ないBluetoothは、スマートホスピタルの構築においても重要な役割を果たします。
もっとも期待されるのは、医療スタッフ、患者、医療機器の位置情報の把握。緊急時の迅速な医療処置、患者の所在不明事故防止などに繋がるでしょう。
また、患者がセンサー付きのウェアラブルデバイスを装着すれば、心拍数や血圧をリアルタイムで確認でき、異常時の対応スピードを向上できます。
プログラミング学習の分野では、Bluetooth搭載のロボットやマイコンボードが販売されています。スマホやタブレットに専用アプリをダウンロードすれば、簡単に操作できるのが特徴。IoTのための電子工作のほか、最近では子どものプログラミング教育にも活用されています。
センサー付きのビーコンによって、気温や土壌水分量、クロロフィル値などのデータを収集・分析すれば、農作業の効率化・収穫量アップに繋がるでしょう。また、給水タンクなどの設備や農業・酪農機器の予知保全を図ることも可能に。
畜産業では、ウェアラブルデバイスによって家畜をトラッキングし、繁殖管理・疾病兆候検知に役立てることもできます。
ショッピングモールや商店街にビーコンを設置すれば、顧客体験やエンゲージメントを向上できるでしょう。
店舗側はビーコンを通じて、フロアガイドやセール情報、来店ポイントなど、さまざまな情報を送ることができます。また、キャンペーン情報をリピーターに絞るなど、サービスのパーソナライズ化にも対応しやすくなります。
店内の顧客・商品の位置情報を取得するビーコンと、AIなどのテクノロジーを掛け合わせれば、無人決済店舗の実現も可能。その場合、前述のモバイル決済も欠かせない要素となるでしょう。
観光スポットや宿泊施設にビーコンを設置すれば、スマートツーリズムを推進することができるでしょう。
ビーコンは、観光ガイド・マップの表示、名産品のECサイトへの誘導、ホテルの予約などに活用することができます。エリアの混雑具合や満室情報も送信できるので、観光客を安全かつ快適に案内することも可能。
インバウンド施策としては、サイネージの多言語化、動画によるマナー紹介といった展開も考えられます。
バス停や駅にビーコンを設置すれば、時刻表や経路案内、車両の接近情報や混雑状況を送ることができます。また、無人決済店舗と同じ要領で、ウォークスルー型の運賃決済も実現するでしょう。
混雑率や停車頻度などのデータを蓄積すれば、今後の安全管理や交通計画に役立てることもできます。
すでに普及しているものには、BLEを活用したスマートエントリー機能があります。バーチャルキーによって施錠・解錠したり、エンジンを始動したりできるので、今後拡大が見込まれるカーシェアリング市場ではキーテクノロジーになるでしょう。
また、センサーによってドライバー・車両の状態を検知すれば、健康状態から事故のリスクを警告したり、リモートメンテナンスなどの予知保全に繋げたりすることもできます。
非常電話やAEDなどの設備にビーコンがついていれば、非常時でも見つけやすくなり、迅速な対応が可能に。また、ビーコンによって詳細な位置情報を把握できるようになれば、通報時にも役立つでしょう。
近年では、児童や高齢者、ペットの見守りサービスにもビーコンが活用されています。これは、利用者がビーコンを携帯し、その電波を、地域の店舗・施設などに設置した受信機が受け取ることで、位置情報を追跡するサービスです。
最近では、新型コロナウイルス感染者との接触検知にもBluetoothが使われています。接触把握方法としてBluetoothを活用している国には、インド、オーストラリア、シンガポール、イギリス、フランス、日本などがあります。
上記のようなさまざまな仕組みを街に落とし込めば、行政の業務効率化、省エネルギー化、資源・予算の有効活用、公共交通機関の利便性向上などによって、スマートシティを実現することができます。また、取得したデータを分析することで、政策の提案・決定・実現をサポートすることもできるでしょう。
ここではモンスター・ラボおよびモンスター・ラボ社員が携わった開発事例を紹介します。
LIXILが開発した玄関ドアの電動オープナーシステム「DOAC(ドアック)」はさまざまなメーカーの玄関ドアに後付けが可能で、誰でも簡単に利用できる新しいバリアフリー製品。モンスターラボは「DOAC」専用アプリの要件定義から技術調査、UX/UIデザイン、プロダクト開発までの各工程を担当しました。
製品と連動したアプリを使えば、Bluetooth接続で簡単に操作可能。アプリは世界初の音声操作が可能な玄関ドアの自動開閉システムとしてリリースされました。
★詳しくはこちら
一般社団法人コード・フォー・ジャパンが独自に開発を進めた新型コロナウイルス接触確認アプリ「まもりあいJapan」。モンスター・ラボからは12名の社員がプロジェクトに参画し、主にバックエンドの開発に携わりました。
「まもりあいJapan」アプリは、スマートフォンに搭載されているBluetoothを使い、新型コロナウイルス感染者と濃厚接触した可能性を通知するもの。プロジェクトに参画した社員による開発プロセスや成果、知見共有の様子は以下からご覧いただけます。
※5月8日、厚生労働省が接触確認アプリ「COCOA」を一元的に開発することを決定。
5Gなどの高速移動通信システムと組み合わせてネットワークを構築することで、IoT化を支え、DX推進の基盤となるBluetooth。Bluetoothならではの特徴やユースケースを参考に、新たなサービス開発に役立ててみてください。
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