「保険DX」とは、AIやIoTといったテクノロジーと保険を組み合わせる「インシュアテック(InsurTech)」によって、保険商品やビジネスモデルを変革する取り組みのことです。現代は市場変化が早いにもかかわらず、保険へのニーズが多様化しています。
そのため、従来の業務プロセスやビジネスモデルでは、顧客ニーズを正確に掴むことが難しくなってきています。今後も保険業界で生き残っていくためには、保険DXが必要不可欠といえるでしょう。
当記事では、保険業界のDXを国内外の先行事例や海外トレンドをもとに解説します。
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目次
インターネットの普及、スマホ・SNSの登場などで、保険業界を取り巻く環境はここ10年で大きく変化しました。ここでは保険業界の現状は今どのような状況になっているのかについて詳しくみていきます。
現在の医療費自己負担は年齢や所得に応じて、1~3割となっています。しかし、これらの社会保障制度を支えているのは働き盛りの若い世代です。
少子高齢化が進むと、社会保障制度を支える労働人口が減少してしまうので増加していく高齢者を支えられません。少子高齢化の具体的な影響として、医療費の自己負担割合が大きくなったり、年金の受給額が低下したりする恐れがあります。
平均寿命が伸びている社会では医療や年金、介護の経済的負担が大きくなっていくことから、これらの負担を軽減する保険が必要となっていくでしょう。
一方、働き盛りの若い世代が減少していくことで、長期資産形成向けの商品や保険へのニーズは減少していきます。
保険業界は資産形成ニーズのある若い世代に様々なアプローチを行ってきました。
しかし、インターネットの普及やSNSの登場で生活スタイルが変化し、ニーズも多様化しています。代表的なものとしては以下が挙げられます。
保険業界で顧客を獲得し続けるためには、多様化するこれらのニーズに対応していく必要があります。
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IPAが2023年2月に発表した「DX白書2023」によると、業種別のDX取組状況の調査において、金融業・保険業で「DXを実施している」と回答した企業は44.7%でした。これは全産業平均が20%強であるのに対し、高い傾向にあると言えます。
具体的には保険DXに取り組む企業の事例として、以下のようなものが挙げられています。
また、海外では近年、AIやIoTと保険を組み合わせた「インシュアテック(InsurTech)」が注目を浴びています。
インシュアテックとは、「保険(Insurance)とテクノロジー(Technology)」の造語で、最新テクノロジーを活用して、保険業務の効率化やマーケティング改善に使われる概念です。
インシュアテックを理解して取り組めば、保険DXが大きく推進するでしょう。ここでは保険業界における「DX推進」と「AI・データ活用」の2つのテーマについて解説します。
DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、テクノロジーの活用によって業務をデジタル化するだけでなく、ビジネスモデルそのものを変革する取り組みのことです。市場が大きく変化している保険業界で生き残っていくためには、多様化するニーズに素早く対応していかなければなりません。
保険業界でDX推進をすれば、今までにない新しい保険商品を生み出せる可能性があります。保険手続きの簡略化も行えるため、保険の申し込みハードルを下げることができるほか、顧客満足度の向上にもつなげられるでしょう。
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AIとデータを組み合わせることで、保険業界では以下のことを実現できます。
蓄積したデータをAIに分析させることにより、顧客ニーズにマッチした営業活動につなげられます。
また、地域・年齢別ターゲットというようにピンポイントでターゲティングが可能です。データ分析によって詳細な顧客ニーズを把握できることから、ニーズに対応した新たな商品の開発も行えるでしょう。
近年、保険会社の公式サイトなどでよく見かけるAIの保険提案やチャットボットによる問い合わせ対応もAIとデータを組み合わせたものです。保険提案ツールや問い合わせ内容にユーザーが入力した情報は新しいデータとして蓄積され、活用されています。
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2020年に米国のインシュアテック・スタートアップがIPOラッシュになったことでも注目を集めました。保険業界のDXについてさらに理解を深めるためにも、ここでは海外における5つのトレンドについて紹介します。
海外では、内部プロセスのデジタル化に積極的です。従来、保険会社は自社のレガシーシステムで業務や運営を行ってきました。しかし、SNSやインターネットの普及などによって急速に市場が変化する現代では、多様化する顧客ニーズに対応できなくなります。
これらのニーズに対応していくためには、DXによるデータ利活用が欠かせません。そのため、あらかじめ内部プロセスのデジタル化とデータ統合を図り、エンタープライズレベルでワークフローを合理化する動きが活発です。これにより営業担当者は素早く顧客情報を確認できるため、顧客サービスを向上できる他、統合したデータによって新しい保険商品を立ち上げられるでしょう。
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データ分析やAI、機械学習(ML)、RPAなどを導入し、新しいビジネスモデルの構築を図る企業も増えています。
収集したデータを顧客満足度の向上や新しい保険商品の立ち上げにつなげるには、高度なデータ分析が欠かせません。また、ビッグデータ産業である保険業界はサイバー攻撃の標的になりやすく、詐欺行為や情報漏洩などのリスクが高いという側面があります。
そこでAI(人工知能)と機械学習(ML)によるセキュリティ対策も注目を集めています。これらを活用すれば、不正請求の検出などの早期検知や、データ分析の自動化も行えます。
他にもAIは会話型AI(チャットボット)としてすでに多くの企業に導入されており、ユーザーの待ち時間短縮やオペレーターの業務負担軽減に成功しています。またChatGPTなど、より高度なモデルの登場も注目されています。
また、RPAは定量作業などを自動化できるツールとして注目を集めており、多くの海外企業で導入されるようになりました。
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CX(カスタマー エクスペリエンス)とは、購入過程や使用過程、購入後のフォロー過程における経験のことで「感情的な価値への訴求」を重視することです。日本語では「顧客体験価値」ともいいます。
保険業界において、CXは重要な成功指標です。ただし、保険業界のデジタルサービスの顧客満足度は現状、そこまで高くありません。顧客満足度を上げるには、以下3つのカテゴリを強化していく必要があります。
顧客ニーズを満たすためには、これらを押さえたうえで改めて優れたCXを作成し、顧客体験の再定義を行わなければなりません。
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インシュアテックを推進すれば、新しい保険商品・サービスはもちろん、企業販売体制や事務運用にも変化をもたらします。元々、インシュアテックは小規模な新興企業が多く、ピンポイントのソリューションに絞って展開していました。
しかし、近年は保険業界をサポートするためのシステム全体を目指すインシュアテックも多く、成功例も増えています。このようにインシュアテックの新興企業が成熟してきたこともあり、これまで以上の速度で保険業界が進化する可能性があります。
保険会社に代わり、契約管理・マーケティング・契約引受条件の提示・再保険手配・支払保険金の確定などの役割を担う販売チャネルである「MGA」の台頭も大きなトレンドの1つです。
デジタル化や技術進歩など、すべての新ビジネスモデルがMGA市場の急成長を支えているといわれるほどです。したがって、MGA市場を正しく理解・評価しておかないと、競合他社に後れを取る可能性もあります。
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海外はもちろん、日本でも保険業界のDX推進事例は増えていきます。ここでは次の3社について取り上げました。
それぞれの特徴について詳しく解説します。
大同生命では以下の3本柱を軸に、AIや印鑑レス、ビジネスチャットなどのテクノロジーを駆使して、データとデジタル技術の利活用を目指しています。
リアルの接点をデジタル接点に拡充することで、デジタル技術の高度化と顧客家計の強化を図り、ニーズにあった対応や顧客サービスの向上につなげるとしています。
アクサ生命保険は、顧客ニーズに合わせた接点を実現するため、以下3つのセールス方法を確立しました。
また、オンライン対応の強化にも努めています。2021年1月には意向確認や電子自書などの申し込みをいち早くオンライン対応にしました。
同年4月にはスマホカメラによる顔写真と本人確認書類の撮影・アップデートといったオンライン本人確認、同年9月には各書類のPDF化を行い、承諾した顧客を対象に電子交付を行っています。
2023年にはLINE公式アカウントを刷新し、内容変更や保険申請などの各種手続きも可能となる予定です。データ活用が必須となっている現代において、上手くデータ戦略を行っている保険会社といえるでしょう。
出典:アクサ生命、電子申込みによるリモートセールスを開始し、 お客さまの利便性を向上
Lemonade(レモネード)は、アメリカとオランダを拠点に開発された総合保険サービスアプリです。アプリストアのレビューは星4.9を獲得しており、海外の保険業界で注目を浴びています。
住宅保険や自動車保険、定期保険など、様々な保険を取り扱っていますが、LemonadeではMayaと命名されたLemonadeが最適な保険サービスを提案してくれます。90秒でユーザーに最適な保険サービスを選ぶことができ、3分程度で決済が可能です。素早い対応やわかりやすい料金設定、状況に応じたキャッシュバックといった特徴もあります。
Lemonadeの最大の特徴は、ユーザーが支払う手数料の一部をユーザーが選んだ非営利団体に寄付できることです。これまでの常識を覆しているLemonadeの事例は保険会社ではなく、保険業界全体のDX事例といえるでしょう。
出典:損保スタートアップの米レモネード、生保参入の理由は: 日本経済新聞
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次に、モンスターラボが支援した保険DXの事例について紹介します。
Incomeは、保険商品を提供する NTUC Enterprises の傘下にある企業です。人々と保険の接点を増やし、さまざまなユーザーにおける保険利用の拡大をミッションとしています。
同社は保険への関心の低いミレニアル世代へアプローチするため、ユニークな体験を提供し保険商品を魅力的に提案するモバイルアプリ『SNACK』を開発。コーヒーを購入するごとに自動的に傷害保険に一定額を支払うなど、ユーザーのライフスタイルと関連づけた新しい保険利用のシステムを実現しました。
★事例について詳しくはこちら
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SNSやインターネットの普及による購買行動の変化や少子高齢化によって、顧客の保険に対するニーズは多様化しています。また、市場の変化も非常に早いため、保険業界をリードするには、顧客ニーズに合わせた商品をいち早く提供しなければなりません。
したがって、保険業界でもDX推進は必須といえるでしょう。DXが進んでいる海外では、AIやIoTと保険を組み合わせた「インシュアテック」が保険業界に革新をもたらす概念として注目されています。
競合他社に競り勝つためには、DXの先行事例を参考にしながら、インシュアテックといった海外トレンドも注視して保険DXに取り組んでいく必要があるでしょう。
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モンスターラボでは、世界各国のスペシャリストがチームを組み、さまざまな業界・業種のデジタルサービス/プロダクト開発から、UX/UIデザイン、ブランド開発、グロースハックまで幅広く支援しています。
ビジネスの上流工程からデジタル領域の知見を持つコンサルタントが中心となり、課題に合わせたソリューションを提案します。さらに、先端テクノロジーを含むあらゆるプラットフォームに対応できる開発体制を整えています。その他にも、アジャイル開発による柔軟な開発進行や、国内外のリソースを活用したスケーラブルな開発体制の構築、リリース後の保守運用や品質向上支援まで、さまざまなニーズに対応しています。
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