物流MaaSとは?意味や推進のポイント、先行事例を徹底解説

物流MaaSとは?意味や推進のポイント、先行事例を徹底解説

物流MaaSは、物流・商流データの連携と自動化で最適物流を実現し、社会課題の解決や物流の付加価値向上を目指す取り組みです。

物流MaaSの取り組みが進むと、配送状況を一つのシステムで追跡、最適ルートでの輸配送、ドライバーの労働環境改善の実現につながります。

物流業界でのCO2排出量低減やトラックドライバー不足の問題を解決し、付加価値を向上するにはどうすればよいでしょうか。物流MaaSの施策や事例を確認しましょう。

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物流MaaSとは

まずは「物流MaaS」という言葉の意味について解説していきます。

MaaSとは

MaaS(マース)とは「Mobility as a Service」の略称で、「サービスとしてのモビリティ(移動)」のことです。

MaaS構築の共通基盤を作り出す国際組織MaaSアライアンスでは、MaaSを「さまざまな形の交通サービスを需要に応じて利用できる1つの移動サービスに統合すること」と定義しています。

つまりMaaSとは、鉄道やバス、タクシーから航空などの交通サービスを結び付け、一つのサービスで目的地までの複数の交通機関を用いたルート表示や予約をできるようにすることです。

物流MaaSとは

それでは、物流業界の移動を一つのサービスに統合する、「物流MaaS」は何を指すのでしょうか。

物流MaaSという言葉は、物流業界における課題解決に向けて経済産業省が発表しました。
物流業界では、貨物自動車によるCO2排出量低減トラックドライバーの不足といった、環境や人手不足の問題があります。

このような問題を解決するには、トラックドライバーが少なくても荷物を運べる仕組みや、荷物の積み替えの無人化などの実現が必要です。

さらに、荷物が今どこにあるかを把握できれば、混載が可能となり、一台のトラックに荷物を多く積めるようになります。

物流業界全体で協力し、連携、発展していくと、問題を解決しつつ物流が便利になっていくのです。

物流MaaSは、さまざまな物流関係者が、物流・商流データの連携と自動化の合わせで最適な物流を実現し、社会課題の解決および物流の付加価値向上を目指す取り組みです。

物流MaaSの取り組みが進むと、配送状況を一つのシステムで追跡、最適ルートでの輸配送、ドライバーの安全性や労働環境改善などの実現につながります。

★物流MaaSとは?
→物流・商流データの連携と自動化で最適物流を実現し、社会課題の解決や物流の付加価値向上を目指す取り組み

  • ・物流業界では、貨物自動車によるCO2排出量低減やトラックドライバーの不足といった問題がある
  • ・問題解決に向けて、物流業界全体での協力・連携が必要
  • ・物流MaaSの取り組みが進むと、配送状況を一つのシステムで追跡、最適ルートでの輸配送、ドライバーの安全性や労働環境改善などの実現につながる

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物流業界の課題

物流業界の課題にはどのようなものがあるか、詳しく見ていきましょう。

貨物自動車のCO2排出量低減

2019年度における、貨物自動車のCO2排出量は日本全体の6.8%を占めています。この数値は小さくないものです。(参照:国土交通省「運輸部門における二酸化炭素排出量」 2021年4月27日更新)

近年、自動車の燃費改善により、燃費は改善されています。一方、一度の輸送でトラックに積む荷物の量(積載量)は下がっており、輸配送効率が悪化しているのです。

理由としては、配送単位の小口化による配送回数の増加や、EC(ネット通販)の急増が挙げられます。

トラックの燃費改善や大型トラックの電動化によるCO2排出量低減は当分見込めないため、トラックの積載量を上げることが重要です。

慢性的な需要過多・人手不足の解消

配送単位の小口化やニーズの多様化によるトラック積載量の低下が起こると、トラックの長距離配送回数は増加します。

一方、トラックドライバー数は微減傾向にあるのです。

物流分野において、2019年には約7割の企業がドライバー不足を感じています。(参照:国土交通省「最近の物流政策について」 2021年1月22日発行)

トラックドライバーの人手不足は深刻であり、早急に施策を打たなくてはなりません。

物流のICT化・デジタル化

ICTとは「Information and Communication Technology」の略で、「情報通信技術」のことです。通信を使ったデジタルデータの送受信をいいます。

物流分野でのICT化には、車両のリスクを削減し、より安全な配送を支援する、運行管理システムが含まれます。

運行管理システムがあると、車両の位置を加味した効率的な配車計画の作成や、ドライバーの特性を踏まえた安全運転指導、事故や渋滞情報の通知、ドライバーごとの運行記録の自動作成が実現できます。

運行管理システムを使うには、車両から「位置情報」「エンジン回転数」「急加速・急減速」といった情報を収集する必要があります

このような情報を取得するために車両に搭載する機器がタコグラフです。タコグラフのデジタル版を「デジタコ」といい、取得した記録をデジタルメディアに保存、利用できます。

ところが、デジタコを活用した運行管理システムの推進が、とくに中小運送事業者で進んでいないのです。

理由としては、車両がさまざまなデジタコ機器を搭載しており、運行管理システムとのデータ連携に遅れを生じさせていることが挙げられます。

中小運送事業者において、広くICT化・デジタル化を行うことが必要です。

商用分野でのCASE対応

CASEとは2016年に、パリのモーターショーにおいて、当時のダイムラーCEOディーター・ツェッチェ氏により提唱された、自動車産業の戦略概念です。

CASEの名称は、「コネクテッド(インターネットと接続された車)」「オートノマス(自動運転)」「シェアリング(共有)」「エレクトリック(電動化)」の英語の頭文字からきています。

CASEに対応することで、運転支援や自動運転の可能性が見えてきます。また、ネット通信を介して利便性の向上を図ることが期待されているのです。

ところが、商用車におけるCASE対応には課題が多くあります。大型トラックの電動化はバッテリーを多く必要とし、積載量を下げてしまいます。車両の通信システムにおいても、メーカー各社のデータをもとに独自のサービスを展開し、データ共有の遅れが発生していました。

そこで近年、メーカー各社が企業の枠を超えて提携や協業を行い、実用化に向けた取り組みを加速しています。

今後データ共有に向けて、車両運行管理に必要となる、トラックデータの標準仕様(日本版FMS標準)の検討がされることとなります。※FMS(Fleet Management System:車両運行管理システム)

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物流MaaSの施策

物流業界を取り巻く課題の解決には、以下の3つにおける個別の改善と、共通項目としてシステム連携や労働環境改善が必要です。

  • ・集積拠点間を大型トラックで輸送する幹線輸送
  • ・交通手段の乗り換え拠点結節点における、荷物の積み替え
  • ・拠点から目的地への荷物の配送である支線配送

それぞれ、改善を実現する方法としてどのような方法があるか、代表例を確認していきましょう。

幹線輸送での改善

集積拠点間を大型トラックで輸送する「幹線輸送」。幹線輸送の課題解決の方法としては、一度の輸送でトラックが運ぶ荷物を増やす方法や、トラックの運転効率を向上させてCO2削減を行う方法が考えられています。例として、ダブル連結トラック隊列走行を紹介します。

・ダブル連結トラック

「ダブル連結トラック」とは、トラックの荷台の後ろに、さらに1両分の荷台を連結し、けん引させるものです。

つまり、1台のトラックで2台分のコンテナが運べるようになります。

連結されているコンテナは別のトラックに付け替えられるため、異なる業者のトラックにけん引してもらう共同輸送を行い、幹線輸送拠点まで運ぶことが可能です。ドライバーを減らしつつ柔軟な輸送の実現につながります。

・隊列走行

「隊列走行」とは、複数のトラックが連なり、走行状況を通信によってリアルタイムで共有しながら走行する技術です。

先行車からの操作制御により車間距離を短くすると、空気抵抗が減り、車両速度の速度変化が減少します。そのため、単独でトラックが走るよりも燃費消費の改善が期待できるのです。安定した車間距離での走行は道路の渋滞緩和にもつながります。

隊列を解除すると、それぞれのトラックが独立しての走行も可能です。さらに隊列走行技術では、後続の車両を無人とする後続車無人隊列も検討されています。

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結節点での改善

交通手段の乗り換え拠点である「結節点」。物流の結節点での課題は、いかに荷物の積み替えを停滞無く、効率よくするかです。

結節点では、トラックドライバー減少の中、荷物の積み下ろし作業(荷役)を人力で行うこと自体が労力のかかる作業となっています。積み替えを作業ロボットで行い、さらに物流情報を把握して荷待ち時間を減らすと、結節点での改善が見込めるでしょう。

また、結節点でトラックが停車し、荷降ろしを行う場所をトラックバース、略してバースと呼びます。バースが満車の場合、トラックは待機しなければなりません。バースで荷物を待つ時間(荷待ち時間)の長さは、トラックドライバーや運送会社だけではなく、近隣の住民にとっても問題となっています。

このような結節点の問題改善の実現例として、「荷役自動化・AGV導入」とHacobuの「バース予約」を見ていきましょう。

・荷役自動化・AGV導入

物流拠点では、多くはドライバーが手作業で荷役を行っています。荷役作業を改善するための仕組みとして、無人フォークリフトシステムや電動式移動ラックやAGVが検討されています。

AGVとは、Automated Guided Vehicleの略で、無人搬送車を意味します。自動で走行する車輪のついたロボットであり、荷物を上に載せて、もしくはけん引することで運びます。

・株式会社Hacobuバース予約システム

株式会社Hacobuが提供する、トラック予約受付サービスMOVO Berth(ムーボ・バース)は、トラックバースの予約や、結節点での入退場受付をオンライン上で管理する仕組みです。

ドライバーが事前にバースを予約することで、結節点では計画的なバース誘導ができます。待機時間の削減や庫内作業の効率化につながるのです。

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支線配送での改善

拠点から目的地への荷物の配送である「支線配送」。

支線配送で可能な改善例としては、「トラックの電動化」と「共同配送」があります。

・トラックの電動化(EVトラック)

大型トラックを電動化するには、多くのバッテリーを必要とし、積載量を下げるため今のところ現実的ではありません。

一方、支線配送で使われるトラックは、大きさが小型~中型のため電動化トラック(EVトラック)が実現可能です。

EVトラックを用いることで、CO2排出量低減につながります。また、配送センターはEVトラックおよび交換式バッテリーを保有する拠点となり、災害時の防災拠点にもなります。

・共同配送

各業者が配送先にそれぞれトラックを走らせることを「直送」といいます。直送では各業者が同じ配送先へトラックを走らせることがしばしばあるのです。

もし複数の業者の積荷を集約し、一台のトラックで配送できれば、配送回数の削減につながります。このシステムが共同配送です。

共同配送では、共同の倉庫である「共同配送センター(共配センター)」に荷物を集め、トラック一台にまとめて配送します。

共同配送はトラック一台あたりの積載率向上につながり、CO2排出量低減につながるシステムですが、共配センターの立地によっては配送経路が束ねられず、逆に効率が悪くなってしまう場合もあることに注意が必要です。

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物流MaaSの取組事例

企業におけるMaaSの取り組みにはどのようなものがあるでしょうか。日立物流の例をご紹介します。

物流センター管理システム「ONEsLOGI / WMS」

日立物流の物流センター管理システム(ONEsLOGI / WMS)は、日立物流グループが提供するパッケージとクラウド対応の物流センター管理システム(WMS)です。倉庫内運用に必要な、入荷管理機能、在庫管理機能、出荷管理機能を実装しています。

在庫可視化・分析システム(OnesLogi/Visualizer)では、在庫状況をグラフィカルに一覧表示し、効率的な分析・評価が可能です。過去の在庫推移をもとに在庫異常を早期発見することもできます。

作業可視化・分析システム(OnesLogi/アナリティクス)では、WMSやタブレットから取得した作業時間をもとにシミュレーションと分析、作業進捗管理を行います。

出典:日立物流ソフトウェア株式会社

安全運行管理ソリューション「SSCV-Safety」

日立物流のSSCV-Safetyは、ドライバーの疲労やストレスを可視化し、集中力や注意力が低下した状態で車を運転する「漫然運転」に起因する事故を未然に防ぐ安全運行管理ソリューションを提供しています。

ドライバーの運行前後および運行中の生体データと、ドライブレコーダーや車両の挙動などから取得した運転データをAIで分析し、疲労やストレスを可視化することが可能です。運転中はリアルタイムで事故の芽を摘み取るために、以下の4つの機能が働きます

・危険走行注意喚起
運行中にドライバーの危険運転・危険状態が発生した場合、警告音で注意喚起します。

・有事情報通知
システムがドライバーに危険な状況が迫った場合、管理者にメール通知をします。

・車両位置・ストレスレベル見守り
管理者は全車両の位置とドライバーのストレス状態を把握できます。

・IoTボタンによる危険検知
ドライバーの判断で事故情報などを動画として記録します。

さらに、運行ルート振り返り機能などでドライバーの教育・評価環境を整え、事故を未然に防ぐ体制作りをサポートしています。

出典:株式会社日立物流

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まとめ:社会課題の解決と付加価値向上は、課題でありビジネス機会となる

物流・商流データの連携と自動化の合わせ技で最適物流を実現し、社会課題の解決、および物流の付加価値向上を目指す取り組みである物流MaaSを紹介しました。

社会課題の解決と付加価値向上に向けた取り組みは、今後もさまざまな分野で達成しなければならない課題であり、新たなビジネス機会と捉えることもできます。

データ活用や自動化推進といったDXは、その土台となるものです。物流MaaSの取り組みを参考に、新たな時代に期待される企業の価値に向けて、全社一丸となって取り組んでいくことが大切です。

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