医療DXとは?推進事例や「医療DX令和ビジョン2030」を解説

医療業界はDXでどう変わる? 課題や取り組み、DX推進事例を解説

医療DXとは、データとデジタル技術を駆使して診療・治療などの業務や経営モデル、プロセス、組織、文化・風土を変革し、医療提供上の課題解決を目指すことです。少子高齢化に起因する課題や新型コロナウイルス感染症(COVIT-19)によって浮き彫りになった課題を解決していくためには、DXによる医療業界の変革は欠かせないことから、多くの企業が注目している分野です。

当記事では、医療DXの課題や取り組み、DX推進事例を解説します。

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医療におけるDXの定義

DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、データやデジタル技術を導入して、業務プロセスや既存の枠組みを変革することです。ITの急速な進歩によってデジタル化が進みビジネス環境が大きく変化していく中で、持続的に成長しながら企業が今後も存続していくためにはDXが欠かせません。

医療においては、医療保険制度の中で、公平性や自身で医療機関を自由に選べること(フリーアクセス)が求められることもあり、他の医療機関との競争性・優位性よりも、医療の提供をいかに効果的且つ効率的に行えるかが重要になります

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医療DXの現状

では、日本における医療DXの現状はどうでしょうか。

IPAが2023年2月に発表した「DX白書2023」によると、業種別のDX取組状況の調査において、医療・福祉業で「DXを実施している」と回答した企業は9.3%でした。これは他業界と比較しても低い数字と言えます。

その中でも医療DXに取り組む企業の事例として、以下のようなものが挙げられています。

  • ・AI活用によるリハビリテーション介入プログラム作成
  • ・医療データ連携プラットフォームによる業務効率化
  • ・仮想現実(VR)を用いたリハビリテーション
  • ・服薬支援ロボットによる服薬業務改革

このように業務効率化だけでなく、AIVRの活用によって顧客体験変革まで実現している事例もあります。しかし、全体的な割合はまだまだ少ないのが現状です。これには、次章で解説する医療業界全体が抱える課題も関係しています。

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医療業界の課題

医療業界の課題として押さえておくべきポイントは次の3つです。

  • 少子高齢化
  • 医療従事者不足
  • 若者の都市部へ流入

日本は少子高齢化によって65歳以上の高齢者数は増加し続け、同じく医療費も増大しています。

一方、財政圧迫を理由に国は医療費抑制策を推進しており、多くの医療機関で経営が悪化している状況です。特に、2025年は団塊世代75歳以上となるため、今まで以上に医療費の増大と医療ニーズが高まるとされ、早急な対応が求められています。

また、医療需要は高まるなか医療従事者の不足は深刻化しており、労働環境や待遇の悪化は大きな課題です。少子高齢化によって労働人口も減少しており、このまま手を打たなければ医療崩壊にもつながりかねません。

また、都市に人口が集中した結果、都市部に医療従事者や医療設備が集中し、地方との医療格差が広がっている点も解決すべき課題といえます。

コロナ禍により浮き彫りになった課題

コロナ禍で浮き彫りになった医療業界の課題として、次の3つが挙げられます。

  • 海外生産への依存
  • システムの整備不足
  • 小規模な医療機関の経営難

新型コロナウイルス感染症の流行後、グローバルサプライチェーン(世界的な供給網)が分断され、マスクや消毒液など消耗品や医療機器が不足しました。これは、医療機器や消耗品を海外生産に頼りすぎていたのが原因です。

また、デジタル化が進まず、システムが整備されていないという課題も浮き彫りにしました。医療物資を過不足なくスムーズに供給するには、医療機関とメーカーの在庫情報を一元管理し、政府主導で不足する機関へと優先して配分していく必要があります。

しかし、社会全体でIT化が進んでいる台湾と比べると、日本は行政を中心にデジタル化が進んでいないのが実情です。コロナ禍によって、日本におけるシステムの整備不足が浮き彫りになったのはいうまでもありません。

また、感染症指定医療機関に患者が集中する一方で、院内感染を恐れるあまりに受診を控え、小規模な医療機関の多くが深刻な経営難に直面した点も問題視されています。

これだけ多くの課題がある医療業界でのDX推進は短期間では完了しません。中長期的な経営戦略立案のもとでビジョンを策定し、デジタル化への方向性や向き合い方を明確にしていく必要があります

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「医療DX令和ビジョン2030」とは

政府としても医療現場におけるDXを推進しています。2022年5月に自由民主党政務調査会より、日本の医療分野における情報のあり方を抜本的に改革する「医療DX令和ビジョン2030」の提言が発表されました。

日本における医療DXは遅れているものの、少子高齢化などの深刻な課題に直面している状況で、国を挙げた取り組みも本格的に始動しています。

医療DX令和ビジョン2030では、具体的に以下の3つの施策を同時並行で進めることが明言されています。

「全国医療情報プラットフォーム」の創設

医療機関や自治体、介護事業者などがそれぞれ管理している医療関連情報をクラウドで連携し、必要な時に必要な情報を共有・交換できる全国的なプラットフォームの創設を目指す取り組みです。

現在は各所でバラバラに管理されている情報を一元的に管理し、スムーズに共有できるようになることで、迅速かつ適切な治療や患者自身の健康に対する関心の高まりが期待されています。

電子カルテ情報の標準化(全医療機関への普及)

全国医療情報プラットフォームでの情報の共有・交換を可能にするため、電子カルテの規格標準化の整備を推進する施策です。標準的なデータ項目や電子的仕様を定め、国として標準規格化を行います。

またすべての医療機関で情報共有ができるよう、電子カルテ普及率の目標を2026年までに80%、30年には100%と設定しています。普及率100%を実現するために、電子カルテ未導入の一般診療所などに向けて、標準規格に準拠したクラウドベースの安価な電子カルテ(標準型電子カルテ)の開発と補助金などの導入施策も検討されています。

「診療報酬改定DX」

診療報酬改定の度に発生している、報酬計算プログラムの修正といった複雑で膨大な業務負荷を軽減するための施策です。

個々のベンダーの負担を軽減するために「共通算定モジュール」の導入や、4月施行となっている診療報酬改定の施行日を後ろ倒しして作業集中月を解消するなどの取り組みが明言されています。

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医療DXで実現できること

DXは医療業界の課題を解決できる取り組みです。しかし、医療とDXがどのように結びつくのかピンとこないという方も多いかと思います。ここでは、医療DXで実現できることについて詳しく確認していきましょう。

現場の業務効率化

医療DXの実現は、現場の業務効率化に直結します。業務効率化において欠かせないのがRPAツールです。RPA(Robotic Process Automation)とは、ロボットを活用することでパソコンやコンピューターを使用した定型的な作業を自動化するツールを意味します。

医療現場は診療以外にも、医療物資の在庫管理や診療報酬明細書の作成、経理など多くの定形業務が存在します。そこで、RPAを導入すれば業務の一部を自動化でき、人的ミスを減らせます。さらに、ロボットが24時間作業してくれるため、業務量の軽減も期待できるのです。

★RPAについて詳しくはこちら

遠隔診療(オンライン診療)の実用化

ICT(情報通信技術)の活用によって、遠隔診療(オンライン診療)の実用化が可能です。遠隔診療が普及すれば患者の通院負担を解消でき、院内感染のリスクなく医療を受けられます。

地方在住者が都市部にある医療機関の診察を受けられるため、医療における地域格差の解消にもつなげられるでしょう。また、患者への物理的な対応も減るため、スタッフの業務負担の軽減にもつながります。

医療情報ネットワークの構築

医療業界のDX推進によって実現を目指しているのが、医療情報ネットワークの構築です。病院や薬局、介護施設などの間で患者の医療情報を共有・閲覧できるネットワークが構築されれば、医師は初診の患者が以前に通っていた病院のカルテを閲覧することも可能です。

また、診療所の医師が大きな病院に患者を紹介した後も引き続き経過を確認できます。このように、複数の医療機関が患者のデータを共有できれば、質の高い医療の提供につながります。

クラウド化によるBCP強化

データをクラウド化すれば、BCP(事業継続計画)も強化できます。DX実現には、カルテや検査結果、薬の服用歴などの医療情報のデータ化が欠かせません。

一方で、データの保存場所が施設内にあるサーバのみだと、災害などによってデータを損失するリスクがあります。そのうえで、施設内のサーバではなくクラウド上にデータを保存できれば、損失のリスクを大幅に抑えられます

予防医療サービスの普及

近年では病気になってから治療するのではなく、運動や食事管理などによって生活習慣病や疾患などを未然に防ぎ、長く健康で暮らすための予防医療が注目され始めました。

スマホやウェアラブル端末によって簡単に身体の状態を確認でき、これらを用いたヘルスケアによって医療費増加を抑える取り組みもすでに始まっています。

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コロナ禍における医療業界の取り組み

コロナ禍の下、時限的な措置ではあるものの初診からのオンライン診断が解禁され、多くの医療機関が導入しました。前述のとおり、スマホやウェアラブル端末の利用をはじめ、オンライン相談による予防医療も注目されています。

MMD研究所が2021年10月に実施した「ヘルスケアアプリと医療DXに関する調査」によると、医療・ヘルスケアアプリの利用経験者の4割が新柄コロナの流行を機に、アプリを利用したと回答しました。そのため、今後はアプリやITサービスと連携した新たな医療体制の構築が急速に進むと予想されます。

出典:ヘルスケアアプリと医療DXに関する調査

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医療業界におけるDX事例

医療業界には、すでに多くのDX事例があります。医療業界でどのようにDXが推進されているのかを知るためにも、ここでは事例ごとの詳しい内容についてみていきましょう。

健康習慣管理アプリ『Coloplast』/Coloplast(コロプラスト)

コロプラスト社は、デンマークに本拠を置く医療用装具の開発・製造メーカー。主にストーマ用装具(人工肛門)の知見が高いことで知られています。

オストミー患者(人工肛門保有者)などの負担を少しでも軽減することを目指した『Coloplast』は、ストーマ袋やカテーテルを装着しながらの生活が楽になるように、日々のメンテナンスを支援するアプリです。

「通知」「正しい行動」「データ追跡」をアプリで管理することで、ユーザーに健康習慣が定着。結果として、通院の必要性を下げるなどの生活の質の改善を狙いました。

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オンライン健康医療相談サービス「HELPO」/ソフトバンク

「HELPO」は身体の悩みをさまざまな方法でサポートできるヘルスケアアプリです。医師や看護師、薬剤師の医療チームに24時間365日チャット形式で相談できます。

病院検索やオンライン診療などのヘルスケアサービスが利用できる他、従業員の身体状況をチャットでヒアリングし、企業と従業員の課題を同時に解決できるサービスです。

2020年12月からは同サービスを活用したPCR検査も実施されており、アプリ上で相談や質問、PCR検査の予約・検査結果の確認が可能です。

DXによって検査オペレーションの自動化や効率化が図られ、PCR検査によって生じていた職員の負担軽減に成功しています。

出典:HELPO | ヘルスケアサービス | 法人向け | ソフトバンク

ICU(集中治療室)向け遠隔操作ロボット/大成建設

大成建設は国立国際医療研究センターと共同で「ICU(集中治療室)向け遠隔操作ロボット」を開発しました。新型コロナウイルス感染症の重症患者が入院するICUに導入すれば感染リスクを抑えられるのはもちろんのこと、ガウンやマスクの装着負担や防護服のコスト削減にも期待できます。

同社ではロボットの開発を足掛かりに、医療現場における活用の可能性を検証するとしています。医療分野における多様なニーズに対応できれば、医療従事者の業務支援に役立てられるでしょう。

出典:新型コロナウイルス感染症感染症の集中治療室向け医療機器遠隔操作ロボットを開発 | 2021年度 | 大成建設株式会社

AI搭載のWEB問診システム「AI問診ユビー」/Ubie

「AI問診ユビー」とは、AI搭載のWEB問診システムです。患者がタブレットに入力した情報が医師の見る電子カルテに自動反映されると同時に、AIが病名まで算出してくれる仕組みとなっています。

病院のホームページとユビーを連携して来院前に問診表へ回答するよう促せば、来院後のスムーズな検査や診療の実現が可能です。また、問診から診察を受けるまでの時間も短縮でき、院内感染のリスクを減らせます。

さらに、紙の問診表に記載された内容をデータ入力する手間も省けるため、医者や看護師の業務効率化や負担軽減にもつなげられるでしょう。

出典:AI問診ユビー

コミュニケーションツール「MeDaCa PRO」/メディカルデータカード

「MeDaCa PRO」は医師と患者のためのコミュニケーションツールです。一般的な遠隔診療ではビデオ通話による診察しか行えず、検査や触診ができないというデメリットがありました。

しかし、MeDaCa PROでは体重や血圧といったデータを患者自身が自宅で計測・記録し、中部電力が提供するプラットフォームを通じて医師との共有が可能です。また、糖尿病や肥満症外来の患者向けに血糖クラウド管理システムを活用した遠隔診療も始めています。

MeDaCa PROのような仕組みが普及すれば、遠隔診療であっても対面診療と同レベルの診療が実施できるようになります。

出典:医療機関向け 患者様とのコミュニケーションツール

遠隔集中治療患者管理プログラム「eICU」/フィリップス・ジャパン

ICU(集中治療室)不足は以前から指摘されている問題であり、コロナ禍ではその課題がより浮き彫りとなりました。この課題を解決するとして注目を集めているのが、遠隔集中治療患者管理プログラムの「eICU」です。

同プログラムを活用すれば、病院と遠隔地にある支援センターをネットワークでつなぎ、専門医が病院のICU患者の様子をモニタリングしながら現場をサポートできます。医療の地域格差をなくせるだけでなく、人手不足による医療従事者の負担の軽減も可能です。

今後、次世代通信規格の5Gが普及して安定した通信が可能となれば、DXの推進にともなって遠隔ICUシステムの導入はさらに加速すると予想されます。

出典:「遠隔集中治療患者管理プログラム(eICU)構築・稼動についての発表」ご報告 – ニュース | フィリップス

クラウド活用型の電子カルテ「CLIPLA」/クリプラ

「CLIPLA」は、専用端末が不要かつ低コストで導入できるクラウド型の電子カルテサービスです。クラウド型の特徴を活かし、同じ患者の情報を全国どこにいても閲覧・編集・共有できます。

同サービスは、リモートワークの普及によってさらに利用者を伸ばしています。クラウド型の電子カルテが普及すれば、医療情報に関するネットワーク構築もより容易になるでしょう。

出典:CLIPLA

クラウド型Modern BI「Domo」/ドーモ

保険薬局ではデータの収集や集計、レポートの作成などに膨大な時間と労力を要し、大きな課題となっています。ドーモ株式会社が提供するクラウド型ModernBIの「Domo」では、データ収集・加工の自動化が可能となり、レポート作成の負担を大幅に軽減できます。

また、処方箋などの情報をクラウドで一元管理でき、データの集計や分析に活用できるため、売上予測といった経営戦略の立案に役立てることも可能です。

出典:Domo

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まとめ:課題解決を図る取り組みとしてDXを捉える

一般企業におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)はデジタル技術によってビジネスを変革させて市場競争力を高めるものです。一方、医療DXは現状の医療業界を変革し、公平かつ効率的・効果的な医療提供を目指します

コロナ禍によって医療業界の課題が浮き彫りとなったことで多くの医療機関がデジタル化へ舵を切り始めました。今後、医療DXの取り組みは加速度的に広がると予想されます。

ただし、医療情報ネットワークの構築などは複数の機関が個人データを共有するため、情報漏洩リスクなどの不安から否定的な意見があるのも事実です。今後は医療DXに向けた技術導入だけでなく、セキュリティ対策もあわせて取り組んでいく必要があります。

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記事の作成者・監修者

宇野 智之(株式会社モンスターラボ 常務執行役員)

宇野 智之(株式会社モンスターラボ 常務執行役員)

2003年に独立系大手システムインテグレーション企業に入社。エンジニアを経て、PMとして組み込み/MobileApp/Webシステム開発案件を担当。大規模案件のマネジメントやオフショア開発を複数経験する。海外エンジニアとの開発における課題を解決することで、日本のIT人材不足の解決に貢献したいと考え、2015年にモンスターラボへ入社。2015年に豪州Bond University MBA取得。入社後はPM、PMO業務および組織マネジメント業務を担当。 2019年より、執行役員 デジタルコンサルティング事業部副事業部長・開発統括。2021年より上級執行役員 デリバリー統括責任者。プロフィールはこちら