多くの企業で稼働し続けるAS/400。その安定性の裏では、担当者の退職や高齢化により「中身が誰にも分からない」という状況が進んでいます。
DX(デジタルトランスフォーメーション)や移行プロジェクトが失敗する最大の原因は、技術的難易度ではなく、この「現行仕様のブラックボックス化」に他なりません。
「動いているから大丈夫」という現状維持の判断は、一見合理的に思えますが、実は将来的なリスクを高めている可能性があります。
人手による解析が限界を迎える今、生成AIがレガシーシステムのドキュメント化を劇的に変えつつあります。その具体的な解決策を詳しく解説していきましょう。
目次
「AS/400」という名前はIT業界で広く知られていますが、その実像は長年の進化を経て非常に多層的なものとなっています。単なる「古いシステム」という枠組みを超え、現在どのような立ち位置にあるのか。まずはその歩みと技術的な特性を改めて整理することから始めます。
1988年にIBMが発表した中小企業向けミッドレンジ機「Application System/400」は、日本では商習慣上オフコンと同列に語られることが多く、基幹業務用途として広く普及しました。
厳密には「AS/400」はハードウェアの名称であり、現在はOSが「IBM i」、ハードウェアが「Power Systems」と呼称されます。
誕生当初から「OSの中にデータベースや管理機能が組み込まれている」という、現代のクラウドサービスにも通じる完成された設計思想を有していました。
しかし、現場ではその信頼性への愛着から、今なお両者を区別せず「AS/400」と呼ばれ続けているのが実情といえます。
中心的な役割を果たしてきたのはRPG(Report Program Generator)という言語です。
元々はパンチカード時代の帳票作成用として生まれましたが、進化を遂げる中で、事務処理における圧倒的な生産性とデータベース親和性を確立しました。
特にRPG IIIまでの定型形式は、事務処理において高い生産性を発揮し、堅牢性が求められる金融機関などの大規模システムではCOBOLも広く利用されてきました。
➡︎【資料ダウンロード】そのコード、5年後も使い続けられますか?コード書き換え支援ツール
世間では「レガシーシステム(時代遅れ)」と揶揄されることもありますが、実際には多くの有力企業が基幹システムとして利用し続けています。
そこには、オープン系サーバーへの単純な移行では得がたい、このプラットフォームならではの「選ばれ続ける本質的な価値」が存在するからです。
最大の理由は、他の追随を許さない圧倒的な信頼性といえるでしょう。「落ちないシステム」として長年の実績を積み上げ、一分一秒の停止も許されない銀行や製造現場の最前線で厚い信頼を勝ち取ってきました。
これを支えるのが、アプリケーションとデータベースがOSレベルで一体化した「シングルレベルストレージ」という独自構造です。
OSがメモリとディスク空間を一元管理することで、複雑なチューニングを介さずに一貫した高速レスポンスを実現しています。
さらに、強固なセキュリティ設計も現代において再評価されるポイントです。全てのデータやプログラムを「オブジェクト」として厳格に管理するアーキテクチャは、従来型の実行ファイル感染に対しては耐性が高いと言われています。
なお、利便性の高いIFS(統合ファイルシステム)領域については、最新の脅威に備えた適切なセキュリティ対策を講じることで、その安全性はさらに盤石なものとなります。
IBM iは、過去のプログラム資産を最新ハードウェア環境でもそのまま継承可能です。
これを支えるのが「TIMI(技術独立マシン界面)」という独自技術です。OSとハードウェアの間に高度な「翻訳層」を設けることで、プロセッサの進化といった技術革新の影響をアプリケーションに与えない仕組みを構築しています。
これにより、30年以上前に開発されたロジックであっても、原則として、大規模な修正を要せず、最新のPower Systems上で動作させることができます。
長年培ってきた業務ノウハウを最新環境へとスムーズに繋げられる点は、投資保護の観点からも大きな経済的メリットといえるでしょう。
「ターンキーオペレーティングシステム(鍵を回せばすぐに使える)」として設計されたIBM iは、運用管理の負荷が極めて低い点も特徴です。
データベース(Db2 for i)がOSに深く統合されており、インデックスの最適化やアクセスプランの自動生成など、通常はDBA(データベース管理者)が行う高度な保守タスクをOS自身が自律的に処理します。
専門エンジニアによる細かなチューニングを最小限に抑え、ブラックボックス化していない前提であれば、少人数の担当者、あるいは兼任だけでも回せる自律性の高さは、深刻なIT人材不足に直面する現代において高く評価されています。
初期費用は決して安価ではありませんが、長期的な総保有コスト(TCO)で見れば非常に優れたパフォーマンスを発揮します。
製品寿命が長く、他プラットフォームのような数年ごとの頻繁なハードウェア刷新を必要としないためです。
管理機能の一元化は人的コストの抑制に直結し、将来のOSバージョンアップ時にもプログラムの大規模な書き換えは原則として発生しません。
「一度構築した資産を、長期にわたって安定的に活用できる」という構造は、単なる維持費の削減を超え、経営の安定化と持続的なIT投資の最適化に大きく寄与します。
➡︎【資料ダウンロード】そのコード、5年後も使い続けられますか?コード書き換え支援ツール
比類なき安定性を誇るIBM iですが、その「守りの強さ」が、変化の激しい現代のビジネス環境において、新たな課題を生んでいる側面も否定できません。
極めて安定して稼働し続けるがゆえに、30年以上もの間、抜本的な見直しがなされずに運用されてきたケースも多く、システム内部のロジックが当時の仕様のまま固定化されている実態があります。
「動いているから大丈夫」という「現状維持」は短期的には効率的な判断といえます。
しかし、中長期的には将来の柔軟な事業展開や、DX推進を妨げる制約となりつつある点に注意が必要です。
今後の運用において向き合うべき構造的な課題が、扱えるエンジニアの減少と高齢化です。
長年システムを支えてきた熟練世代の引退が進む一方で、現在の大学や専門学校、プログラミングスクールなどのカリキュラムではRPGのような言語を学ぶ機会はほとんどありません。
AS/400特有の知識を継承できる人材の確保が難しくなれば、将来的に保守やトラブル対応が特定の個人に依存するリスクを高め、ビジネスの継続性に影響を及ぼしかねません。
長年の改修で複雑化・肥大化した結果、システムは「スパゲッティコード」と化しています。
さらに、日々の運用を優先する中で、設計書やドキュメントの更新がコードの実態に追いつかず、情報の乖離(かいり)が生じているケースも珍しくありません。
「ソースコードはあるが、処理の意図が誰にも分からない」という属人化が進むと、システムはいわゆるブラックボックスの状態へと近づいていきます。
熟練した担当者の退職などを機にこの状況が顕在化すると、将来的なシステムの改修や移行を検討する際、事前の調査に多大な工数を要する可能性が生じるでしょう。
AS/400の象徴である「グリーンスクリーン」は、直感的な操作が可能なWebやアプリのUIに慣れ親しんだ若手層にとって、習熟に一定の時間を要する傾向にあります。
この操作性の悪さは、教育コストを増大させるだけでなく、画像やグラフを用いた現代的な業務フローに対応できないため、業務効率を低下させる大きな要因となるでしょう。
最新のデジタル環境と比較した際の入力形式や視認性の違いは、現場の業務効率を低下させる一因として捉えられています。
★UX/UIの改善について詳しくはこちら
SaaSやAIといった最新技術をいかに活用するかが、ビジネスの競争力を左右する時代となりました。
一方で、API連携が標準技術となる以前に設計されたAS/400は、最新のWebサービスやクラウドツールとのデータ連携に高いハードルが存在します。
接続には複雑な追加開発が必要で、多大なコストと時間を要するケースも多いです。
結果として基幹データが社内の他システムから孤立(サイロ化)してしまう傾向にあります。こうした状況は、迅速な経営判断を検討する際の具体的な制約となっているのが実情です。
使い続けられる理由として、コスト効率を挙げましたが、このTCO(総保有コスト)の優位性を保つには、計画的な保守や更新の継続が前提となります。
「動いているから大丈夫」と30年以上「塩漬け」にし、ブラックボックス化が進むと、状況は一変します。
最大の懸念点となるのが、保守コストの爆発的増加です。誰も全体像を把握できない状態では、わずかな改修や障害対応にも膨大な工数を要し、外部ベンダーへの依存度が高まります。
かつて低かった保守費用は年々高騰を続け、長期的には新システムへの移行コストを上回る「コスト逆転現象」も指摘されています。
加えて、古い部品の入手困難による調達コスト上昇、希少技術者の確保費用、保守契約費用など、経年劣化に伴う隠れたコストも積み重なりがちです。
「なんとかなる」と放置した結果、突然の障害や制度対応に迫られた際には、緊急移行や業務停止という突発的な支出増を招く要因となります。
➡︎【資料ダウンロード】そのコード、5年後も使い続けられますか?コード書き換え支援ツール
対応策は「継続」か「刷新」の二択ではありません。
実際には、「まずUIをWeb化(ただしUI変更だけで解決しない場合が多い)」「一部業務をAPIとして切り出し」「最終的に特定領域だけを段階的にオープン化」といったステップを踏むのが一般的です。
DX推進に向けた3つの選択肢を順に確認していきましょう。
資産(ロジックやDB)をそのまま活かし、見た目や連携機能だけを現代化する手法です。手法例として、UIのWeb化(GUI化ツール活用)やAPI連携による外部接続、RPG IIIから読みやすいRPG IV(フリーフォームRPG)への書き換えなどが挙げられます。
コストを抑えつつUXを改善できるメリットがありますが、的確な改修には「プログラム構造の把握」が欠かせません。
どこに手を入れるべきか特定できない状態では、モダナイゼーションの着手自体が困難を極めることも予想されます。
自社サーバーを持たず、IBM CloudやAzureなどのクラウド上でIBM iを動かす手法です。「場所を変える」選択肢であり、ハードウェア老朽化からの解放やBCP対策として有効といえるでしょう。
ハードウェアの所有に伴う物理的なリスクを軽減できます。ただし、解決するのはインフラ面に限定され、中身のRPGプログラムは以前のまま残ります。ロジックが不透明な状態のまま移行を進めると、クラウド上にあっても保守や更新が容易ではない「ブラックボックス化したシステム」を抱え続ける点には注意が必要です。
AS/400を廃止し、WindowsやLinuxサーバーへ全面的に作り変える手法です。一般的な技術者の確保や最新技術の活用が容易になる点がメリットといえます。
しかし、莫大なコストと数年単位の期間を要し、プロジェクトの難易度も高いのが現実です。再構築には「現行仕様の完全な理解」が不可欠であり、ブラックボックス化した状態での強行は、要件定義の不足やプロジェクトの停滞を招く要因となりかねません。
どの道を選ぶにしても、避けて通れないのが「資産の棚卸し」です。中身が見えないままプロジェクトを開始するのは、不確定要素を抱えたまま進むことと同義であり、スケジュールの遅延や予算の超過といった事態を招く懸念があります。
「何本のプログラムがあり、どこに複雑なロジックが潜んでいるのか」を正確に把握しなければなりません。
まずは実態を可視化することこそが、DX成功のための唯一のスタートラインといえるでしょう。
➡︎【資料ダウンロード】そのコード、5年後も使い続けられますか?コード書き換え支援ツール
かつてレガシーシステムの解析は、ベテランエンジニアがコードを一行ずつ読み解く、多大な工数を要する作業でした。
人手のみでは現実的でない規模のソースコードを人間が解析するには、年単位の時間と莫大な人件費が積み重なります。
しかし、最新の生成AIの登場が、このこれまでの常識を大きく変えようとしています。
生成AIは、RPGをはじめとするレガシーシステムのソースコード解析を、人手作業の強力な補助として活用できます。
長年の改修で複雑化したプログラムに対しても、処理の流れやデータの関係性を整理し、自然言語による説明文や簡易的な設計書案を生成することが可能です。
一方で、業務固有の暗黙知や背景事情までを完全に自動理解できるわけではないため、最終的な確認や判断は人間が行う必要があります。
生成AIを解析の起点として活用することで、ブラックボックス化したシステム全体像を短期間で把握し、効率的な資産の棚卸しを実現できます。
人間とAIの解析スピードの差は歴然です。従来、ベテランエンジニアが多大な時間を要していた解析作業も、AIを活用することで驚くほどの短時間で完了します。
この劇的な期間短縮により、現行システムの全体像を迅速に把握することが現実的になりました。もちろん最終確認は人間が行う必要がありますが、作業効率は飛躍的に向上します。
コスト面でも、外部ベンダーへ全面的に委託する従来手法と比較して、解析費用を大幅に圧縮できる可能性を秘めています。このリソースの最適化により、浮いた予算を攻めのDXへ投資できるようになるでしょう。
➡︎【資料ダウンロード】そのコード、5年後も使い続けられますか?コード書き換え支援ツール
AS/400は高い安定性・セキュリティ・互換性が大きな強みですが、技術者不足や統合難という課題も抱えています。
問題の本質はシステムの老朽化以上に、長年の運用で仕様が不明確になった「ブラックボックス化」にあります。
もはや「動いているから」と放置できる段階ではありません。人手不足の今、人間が膨大なコードを手作業で解析するのは現実的ではないからです。
そこで生成AIを活用し、「資産の棚卸し」を行い、現状を可視化することこそが、AS/400を企業の重荷から強力なデジタル資産へと変える、DXの確かな第一歩となるでしょう。
➡︎【資料ダウンロード】そのコード、5年後も使い続けられますか?コード書き換え支援ツール
モンスターラボでは、世界各国のスペシャリストがチームを組み、さまざまな業界・業種のデジタルサービス/プロダクト開発から、UX/UIデザイン、ブランド開発、グロースハックまで幅広く支援しています。
ビジネスの上流工程からデジタル領域の知見を持つコンサルタントが中心となり、課題に合わせたソリューションを提案します。
また、先端テクノロジーを含むあらゆるプラットフォームに対応できる開発体制を整えています。
その他にも、アジャイル開発による柔軟な開発進行や、国内外のリソースを活用したスケーラブルな開発体制の構築、リリース後の保守運用や品質向上支援まで、さまざまなニーズに対応しています。
さらに、世界各国の拠点とネットワークを活かし、お客様のビジネスの海外展開も支援しています。対象地域におけるビジネス立案から現地調査まで、これまで培ったグローバルな支援実績をもとに伴走支援します。
モンスターラボが提供するサポートの詳しい概要は以下リンクをご確認ください。