「AIに繋いだのに、数字が合わない」の正体 ── 社内データ活用で多くの企業がつまずく”2つ目の壁”とは

生成AIに社内のデータを繋いで、「先月の売上は?」と聞いてみる。すると、それらしい数字がすぐに返ってくる。便利になったものだ。そう思った矢先に、ふと違和感を覚えた経験はないでしょうか。

返ってきた数字が、現場が普段使っている数字と、どうも合わない。

本記事では、AIに社内データを繋いだ”その先”で多くの企業がぶつかる壁について解説します。結論から言えば、この壁はAIの性能のせいではありません。そして、越え方もはっきりしています。

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この記事でわかること
・なぜAIに社内データを繋いでも、正しい数字が返ってこないのか
・その原因は「AIの性能」ではなく、別のところにあること
・多くの企業がつまずく”2つ目の壁”を越えるための考え方

1つ目の壁は、もう越えた

少し前まで、社内のデータをAIに使わせるのは、エンジニアの仕事でした。データベースにアクセスして、専用の言語(SQL)でデータを取り出して、ようやくAIに渡せる。非エンジニアには手の出しにくい領域だったのです。

ところが、ここ1〜2年で状況が大きく変わりました。MCPをはじめとする技術の登場で、専門知識がなくても、自然な言葉でAIに「このデータベースから、先月の売上を出して」と頼めるようになってきたのです。

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これは大きな前進でした。データへのアクセスが、一部の専門家から、現場の誰もが使えるものへと開かれた。いわば「1つ目の壁」の突破です。

そして、この壁を越えた人たちが、次に直面するのが本記事のテーマである「2つ目の壁」です。

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2つ目の壁:繋いだのに、答えが信用できない

AIに社内データを繋いだ。自然な言葉で質問できるようになった。なのに、返ってくる答えがどうも怪しい。これが2つ目の壁です。

具体的に、どんなことが起きるのか。現場でよく聞く”あるある”を3つ挙げます。

あるある①:数字の「定義」がズレる

「先月の売上は?」とAIに聞いたら、経理が締めで使っている数字とは違う額が返ってきた。

よくよく確認すると、AIは「売上」という言葉を、現場とは別の意味で解釈していました。
たとえば、返品やキャンセルを差し引く前の金額を「売上」として集計していたり、まだ確定していない受注見込みを混ぜていたり。小売なら店舗別の集計範囲、製造なら不良品を含めるか否か、金融なら手数料の扱い。「売上」や「数量」といった一見シンプルな言葉でも、会社や部署によって正しい数え方は驚くほど違います。

AIは、その会社固有の数え方を知りません。だから、それらしく、しかし微妙にズレた数字を返してくるのです。

あるある②:間違っていても、堂々と返してくる(一番こわい)

これが、2つ目の壁の中で最もやっかいな症状です。

ある金融機関のPoCに入ったデータアナリストは、こんな経験をしました。AIに「今月の移管率(回収が難しくなった債権の割合)は?」と聞くと、すぐさま、自信満々に数字が返ってきました。システム上のエラーは一切ありません。
ところが現場の正規レポートと照らし合わせると、ケタが全く違う。なんと、AIは「過去に移管した人」まで毎月重複してカウントし続けていたのです。

もし気づかれないまま、この数字が経営会議に出ていたらと思うとゾッとしたそうです。

ここでこわいのは、AIが「この数字、自信がないです」とは決して言わないことです。集計の方法が間違っていても、データの使い方を取り違えていても、まるで正解であるかのように堂々と数字を返してくる。
この「エラーが出ない恐怖」がずっと付きまといます。

とりわけ、社内の数字に明るくないと、それらしい数字が涼しい顔で返ってきても、間違いに気づけません。そして、AIが書いた集計ロジックを人間が検算する作業は、想像以上に泥臭く重いプロセスです。いちいち人間が検算するなら、何のために自動化したのか分からなくなってしまいます。

あるある③:同じ質問なのに、答えが変わる

同じことを二度聞いたのに、違う数字が返ってくる。これも、繋いだ直後によく起きます。

AIは、質問されるたびに「どう集計するか」をその場で考えます。考え方が毎回少しずつ違えば、出てくる数字も揺れる。一度目と二度目で答えが変わると、もはやどれを信じればいいのか分からなくなってしまいます。せっかくAIを活用して、省力化や効率を上げるつもりが、整合性が取れず再現性がないと見なされてしまいます。

これら3つに共通しているのは、AIが「あなたの会社のルール」を知らないという一点です。

ここで多くの人が、「結局AIはまだ使いものにならないのか」と落胆してしまいます。でも、それは誤解です。問題はAIの賢さではありません。

なぜ、賢いAIが数字を読み違えるのか

ここで、ひとつ想像してみてください。

とても優秀な新入社員が、入社初日にあなたのチームに配属されたとします。地頭は抜群で、言葉の理解も早い。あなたは早速、こう頼みます。「先月の売上、出しておいて」。

新入社員は張り切って数字を出してきました。でも、その数字はズレていた。なぜか。

その新入社員は優秀ですが、あなたの会社で「売上」がどう定義されているかを、まだ誰からも教わっていないからです。
引き継ぎ資料は、実は棚のどこかに整理されている。でも、その新入社員は「どの棚を見ればいいか」を知らされていない。
それでも優秀だからこそ、「たぶんこういう意味だろう」と推測して、それらしい数字を作ってしまう。賢いがゆえに、空気を読んで”それっぽい答え”を出してしまうのです。

AIに起きているのは、これとまったく同じことです。

AIは、一般的な言葉の意味なら知っています。でも、「この会社で売上とはどう計算するのか」「返品中の注文は集計に含めるのか」「どのテーブルのどの項目を見ればいいのか」、そうした会社固有のルールが、AIには渡っていません。
ここで多くの人が見落とすのは、こうしたルールが「どこにも書かれていない」とは限らない、ということです。
定義書やデータ辞書、社内ドキュメントとして、実はきちんと存在している会社も少なくありません(もちろん、担当者の頭の中にしかない場合もあります)。

問題は、そのドキュメントがあるかどうかではなく、そこに書かれた情報がAIに渡せていないことなのです。立派な引き継ぎ資料が棚にあっても、新入社員がその棚を知らなければ、無いのと同じです。

だから、AIに必要なのは、もっと賢いAIではありません。AIとデータの間に立って、「この会社ではこう数える」という固有のルールを、AIが読める形で渡してあげる仕組みです。
いわば、会社の業務定義をまとめた「翻訳辞書」を、AIとデータの間に挟むこと。ゼロから作るというより、すでにある定義やルールを、AIが参照できる形に整えてあげるイメージです。

この辞書さえあれば、AIは推測で答えるのをやめます。「売上ならこの項目を、この条件で集計する」と辞書に書いてある通りに動くようになる。新入社員に、見るべき棚の場所を教え、しっかりした引き継ぎ資料を渡すのと同じです。

その「翻訳辞書」には、名前がある

実はこの「AIとデータの間に挟む翻訳辞書」、技術の世界ではすでに名前がついています。

セマンティックレイヤーと呼ばれる仕組みです。

「セマンティック(semantic)」とは「意味」のこと。データそのものではなく、データの”意味”、「この会社で売上とは何を指すのか」「各項目がどういう関係にあるのか」を、AIが読める形で定義しておく層(レイヤー)です。

もしあなたが、ここまで読んで「うちで起きているモヤモヤは、まさにこれだ」と感じたなら、それは大きな一歩です。
多くの人は、この2つ目の壁にぶつかっても、それを”AIの限界”だと思い込んで諦めてしまいます。でも、壁の正体に名前がつき、解決する仕組みがあると分かれば、次に進めます。

「繋ぐ」ことが1つ目の壁だったなら、「意味を教える」ことが2つ目の壁。そして、その壁を越える鍵がセマンティックレイヤーなのです。

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まとめ:AIは「繋ぐ」だけでは終わらない

AIに社内データを繋げるようになったのは、大きな前進でした(1つ目の壁の突破)。
しかし、繋いだだけでは、AIは会社固有の意味を知らないために、ズレた数字・気づけない間違い・揺れる答えを返してしまう(2つ目の壁)。

この壁の原因は、AIの性能ではありません。AIに「あなたの会社のルール」を教えていないだけです。
だからこそ、AIとデータの間に”翻訳辞書”「セマンティックレイヤー」を挟むことが、2つ目の壁を越える鍵になります。

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記事の作成者・監修者

小松谷 志乃(株式会社モンスターラボ データ&ビジネスストラテジスト)

小松谷 志乃(株式会社モンスターラボ データ&ビジネスストラテジスト)

ニューヨーク州立大学にて経済学博士課程修了。デジタルマーケティング・海運テック領域でログデータ分析、BI構築、KPI設計、A/Bテスト設計など、データを起点とした意思決定支援に従事。2025年よりデータ・ビジネスストラテジストとしてモンスターラボに参画し、計測設計・データ分析AIの論理設計を通じてクライアントの事業成長支援に取り組んでいる。