生成AIに社内のデータを繋いで、「先月の売上は?」と聞いてみる。すると、それらしい数字がすぐに返ってくる。便利になったものだ。そう思った矢先に、ふと違和感を覚えた経験はないでしょうか。
返ってきた数字が、現場が普段使っている数字と、どうも合わない。
本記事では、AIに社内データを繋いだ”その先”で多くの企業がぶつかる壁について解説します。結論から言えば、この壁はAIの性能のせいではありません。そして、越え方もはっきりしています。
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| ★この記事でわかること ・なぜAIに社内データを繋いでも、正しい数字が返ってこないのか ・その原因は「AIの性能」ではなく、別のところにあること ・多くの企業がつまずく”2つ目の壁”を越えるための考え方 |
目次
少し前まで、社内のデータをAIに使わせるのは、エンジニアの仕事でした。データベースにアクセスして、専用の言語(SQL)でデータを取り出して、ようやくAIに渡せる。非エンジニアには手の出しにくい領域だったのです。
ところが、ここ1〜2年で状況が大きく変わりました。MCPをはじめとする技術の登場で、専門知識がなくても、自然な言葉でAIに「このデータベースから、先月の売上を出して」と頼めるようになってきたのです。
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これは大きな前進でした。データへのアクセスが、一部の専門家から、現場の誰もが使えるものへと開かれた。いわば「1つ目の壁」の突破です。
そして、この壁を越えた人たちが、次に直面するのが本記事のテーマである「2つ目の壁」です。
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AIに社内データを繋いだ。自然な言葉で質問できるようになった。なのに、返ってくる答えがどうも怪しい。これが2つ目の壁です。
具体的に、どんなことが起きるのか。現場でよく聞く”あるある”を3つ挙げます。
「先月の売上は?」とAIに聞いたら、経理が締めで使っている数字とは違う額が返ってきた。
よくよく確認すると、AIは「売上」という言葉を、現場とは別の意味で解釈していました。
たとえば、返品やキャンセルを差し引く前の金額を「売上」として集計していたり、まだ確定していない受注見込みを混ぜていたり。小売なら店舗別の集計範囲、製造なら不良品を含めるか否か、金融なら手数料の扱い。「売上」や「数量」といった一見シンプルな言葉でも、会社や部署によって正しい数え方は驚くほど違います。
AIは、その会社固有の数え方を知りません。だから、それらしく、しかし微妙にズレた数字を返してくるのです。
これが、2つ目の壁の中で最もやっかいな症状です。
ある金融機関のPoCに入ったデータアナリストは、こんな経験をしました。AIに「今月の移管率(回収が難しくなった債権の割合)は?」と聞くと、すぐさま、自信満々に数字が返ってきました。システム上のエラーは一切ありません。
ところが現場の正規レポートと照らし合わせると、ケタが全く違う。なんと、AIは「過去に移管した人」まで毎月重複してカウントし続けていたのです。
もし気づかれないまま、この数字が経営会議に出ていたらと思うとゾッとしたそうです。
ここでこわいのは、AIが「この数字、自信がないです」とは決して言わないことです。集計の方法が間違っていても、データの使い方を取り違えていても、まるで正解であるかのように堂々と数字を返してくる。
この「エラーが出ない恐怖」がずっと付きまといます。
とりわけ、社内の数字に明るくないと、それらしい数字が涼しい顔で返ってきても、間違いに気づけません。そして、AIが書いた集計ロジックを人間が検算する作業は、想像以上に泥臭く重いプロセスです。いちいち人間が検算するなら、何のために自動化したのか分からなくなってしまいます。
同じことを二度聞いたのに、違う数字が返ってくる。これも、繋いだ直後によく起きます。
AIは、質問されるたびに「どう集計するか」をその場で考えます。考え方が毎回少しずつ違えば、出てくる数字も揺れる。一度目と二度目で答えが変わると、もはやどれを信じればいいのか分からなくなってしまいます。せっかくAIを活用して、省力化や効率を上げるつもりが、整合性が取れず再現性がないと見なされてしまいます。
これら3つに共通しているのは、AIが「あなたの会社のルール」を知らないという一点です。
ここで多くの人が、「結局AIはまだ使いものにならないのか」と落胆してしまいます。でも、それは誤解です。問題はAIの賢さではありません。
ここで、ひとつ想像してみてください。
とても優秀な新入社員が、入社初日にあなたのチームに配属されたとします。地頭は抜群で、言葉の理解も早い。あなたは早速、こう頼みます。「先月の売上、出しておいて」。
新入社員は張り切って数字を出してきました。でも、その数字はズレていた。なぜか。
その新入社員は優秀ですが、あなたの会社で「売上」がどう定義されているかを、まだ誰からも教わっていないからです。
引き継ぎ資料は、実は棚のどこかに整理されている。でも、その新入社員は「どの棚を見ればいいか」を知らされていない。
それでも優秀だからこそ、「たぶんこういう意味だろう」と推測して、それらしい数字を作ってしまう。賢いがゆえに、空気を読んで”それっぽい答え”を出してしまうのです。
AIに起きているのは、これとまったく同じことです。
AIは、一般的な言葉の意味なら知っています。でも、「この会社で売上とはどう計算するのか」「返品中の注文は集計に含めるのか」「どのテーブルのどの項目を見ればいいのか」、そうした会社固有のルールが、AIには渡っていません。
ここで多くの人が見落とすのは、こうしたルールが「どこにも書かれていない」とは限らない、ということです。
定義書やデータ辞書、社内ドキュメントとして、実はきちんと存在している会社も少なくありません(もちろん、担当者の頭の中にしかない場合もあります)。
問題は、そのドキュメントがあるかどうかではなく、そこに書かれた情報がAIに渡せていないことなのです。立派な引き継ぎ資料が棚にあっても、新入社員がその棚を知らなければ、無いのと同じです。
だから、AIに必要なのは、もっと賢いAIではありません。AIとデータの間に立って、「この会社ではこう数える」という固有のルールを、AIが読める形で渡してあげる仕組みです。
いわば、会社の業務定義をまとめた「翻訳辞書」を、AIとデータの間に挟むこと。ゼロから作るというより、すでにある定義やルールを、AIが参照できる形に整えてあげるイメージです。
この辞書さえあれば、AIは推測で答えるのをやめます。「売上ならこの項目を、この条件で集計する」と辞書に書いてある通りに動くようになる。新入社員に、見るべき棚の場所を教え、しっかりした引き継ぎ資料を渡すのと同じです。
実はこの「AIとデータの間に挟む翻訳辞書」、技術の世界ではすでに名前がついています。
セマンティックレイヤーと呼ばれる仕組みです。
「セマンティック(semantic)」とは「意味」のこと。データそのものではなく、データの”意味”、「この会社で売上とは何を指すのか」「各項目がどういう関係にあるのか」を、AIが読める形で定義しておく層(レイヤー)です。
もしあなたが、ここまで読んで「うちで起きているモヤモヤは、まさにこれだ」と感じたなら、それは大きな一歩です。
多くの人は、この2つ目の壁にぶつかっても、それを”AIの限界”だと思い込んで諦めてしまいます。でも、壁の正体に名前がつき、解決する仕組みがあると分かれば、次に進めます。
「繋ぐ」ことが1つ目の壁だったなら、「意味を教える」ことが2つ目の壁。そして、その壁を越える鍵がセマンティックレイヤーなのです。
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AIに社内データを繋げるようになったのは、大きな前進でした(1つ目の壁の突破)。
しかし、繋いだだけでは、AIは会社固有の意味を知らないために、ズレた数字・気づけない間違い・揺れる答えを返してしまう(2つ目の壁)。
この壁の原因は、AIの性能ではありません。AIに「あなたの会社のルール」を教えていないだけです。
だからこそ、AIとデータの間に”翻訳辞書”「セマンティックレイヤー」を挟むことが、2つ目の壁を越える鍵になります。
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