マルチエージェントとは? 仕組みや導入ポイントをわかりやすく解説

マルチエージェントは複数の自律的なエージェントが互いに協力し、情報を共有しながら課題解決に取り組む仕組みです。複数のAIエージェントが共同で問題解決を行うため、システム全体の学習効率や耐障害性が高まりやすい点が注目されています。

本記事では、マルチエージェントの概要から代表的なアーキテクチャ、導入時のポイント、そして活用事例や今後の展望までを網羅的に解説します。初心者の方でも理解しやすいようにまとめていますので、AIの活用を検討されている方はぜひ参考にしてみてください。

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マルチエージェントとは

マルチエージェントは、複数のエージェントが連携してタスクを遂行するシステムを指します。通常、各エージェントは独立しており、自律的に学習や意思決定を行う能力を備えています。

それぞれのエージェントは、異なる機能や視点をもち、共通の目標に向かって協力することで、単一のエージェントでは対処しきれない大規模かつ複雑な課題の解決を可能にします。
すなわち、エージェント同士で情報を共有し合い、ときに競合しながらも目標達成に向け、最適解を模索します。こうした動的な調整は、高度なアルゴリズムや設計思想が必要とされますが、その分だけ実用可能性が広がっているのが大きな魅力といえます。

シングルエージェント・システムとの違い

シングルエージェント・システムは、単一のAIあるいはソフトウェアがすべてのタスクを担う構造をとります。これは設計が比較的単純で、開発や管理がわかりやすい反面、機能の拡張性や同時多発的な問題処理には限界があります。

一方、マルチエージェントでは各エージェントが専門性をもって役割分担をするため、大規模なタスクをより効率的にこなすことが可能になります。システム全体の可用性や冗長性を高める効果も期待できる点が大きな違いです。

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マルチエージェント・システムの構造パターン

マルチエージェントをどう構成するかによって、運用や拡張性が大きく変わります。
マルチエージェント・システムを実際に導入する場合、単にエージェント間をつなげるだけではなく、どのような構造や指揮系統を設計するかが重要なポイントとなります。
この構造パターンは、業務の性質や求める付加価値によって大きく変わるため、導入前の計画段階で十分に検討する必要があります。

組織的な階層構造

階層構造では、マネージャー役のような上位エージェントが全体の方針を決め、タスク全体を監修します。部下役のような下位のエージェントが具体的なタスクを実行します。特定の業務に適したパターンというより、汎用的な業務に向いています。
全エージェントがタスク全体の内容を管理するわけではないため、管理責任の区分が明確です。大規模プロジェクトでも組織的に対応しやすい特徴があります。

フラットな連携構造

連携構造では、同等レベルのエージェント同士が相互にやり取りを行い、リアルタイムで情報交換を進めながらタスクを協力して遂行します。このため、素早い意思決定や環境変化への即応が求められる分野に適しています。
ただし、各エージェントの行動や思考内容は全エージェントに共有されることが多いため、リアルタイムでの協調能力を最適化するには、プロトコル設計や通信速度の確保など、技術的な課題も存在します。

プロジェクトチーム構造

チーム構造では、特定の業務を達成するためにエージェントがチームを形成し、それぞれ明確な役割分担を担います。プロジェクトごとに必要なスキルセットをもつエージェントが集まり、業務プロセスの流れに沿って各タスクが遂行されます。
ただし複数のチームが同時稼働する場合、タスク間の競合やリソース配分をどう管理するかが重要となるため、全体最適を意識したマネジメントが必要です。

シミュレーション構造

人間社会をシミュレーションする構造もあります。たとえば、図のように医療現場をシミュレーションした構造があります。

1.患者エージェントは症状を伝える
2.医者エージェントは患者エージェントからヒアリングした内容で診断と治療方針を決める
3.看護師エージェントは医者エージェントが診断した結果をもとに必要なサポートを行う

といった具合です。こういったやり取りをシミュレーションして相互作用がどうなるのか検証する際に活用されます。

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AIマルチエージェントの基本的なステップ

ここでは、AIを活用したマルチエージェントがどのようにタスクを分解し、連携しながら目標を達成するのかを解説します。
AIマルチエージェントは、複数のAIエージェントが互いに助け合いながら学習と判断を行い、全体として成果を出すことを目的とします。各エージェントが専用のデータや外部ツールを活用して効率的に問題解決を図る点も特徴的です。

この仕組みにより、単一のAIでは限界がある大規模なデータ解析や高度な意思決定をより柔軟に行うことが可能です。

ユーザーからの入力

まずはユーザーが課題や指示、データなどを入力情報としてエージェント側へ伝達します。これを起点に、エージェントが必要な分析や判断を行うことで最適な解決策を模索します。

実際の運用では、自然言語処理技術やクラウド経由のデータ連携を通じて、多様な入力形式に対応できるよう整備を進めることが大切です。

リードAIによるタスク分解とエージェント間の協働

タスクを複数のサブタスクに分割し、それぞれのエージェントの専門性に合わせて割り当てる管理者的な役割を担うのがリードAIです。

各エージェントは、自分が担当するサブタスクが効率的に遂行できるよう、相互に情報を交換し分析を行いながら次々と結果を出していきます。

自律的な目標達成

エージェント同士は必要に応じて協力し合い、状況に応じて意思決定を修正しながら目標達成へ突き進みます。特定のエージェントが計画通りに動けなくても、他のエージェントが代替策を考えることで運用継続が可能です。

この自律性が、マルチエージェントの持つ強みであり、長期的に継続運用するうえで柔軟かつ安定したパフォーマンスを発揮する鍵となります。

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マルチエージェントの課題と対策

開発や導入にあたり、マルチエージェント特有の問題点へどのように対処すべきかを考えます。
マルチエージェントは多大なメリットをもたらす一方で、技術的・運用的な課題が少なくありません。あらかじめ潜在的なリスクを把握し、適切な対策を講じることが不可欠です。
問題を解決するためには、専門家との連携やリサーチを十分に行い、システム全体の透明性と安全性を高める取り組みが効果的です。

技術的複雑性とブラックボックス化

エージェント間のやりとりが多岐にわたり、複雑性が増すほど内部の挙動が分かりにくくなります。これにより、不具合の特定や改善点の発見が遅れるリスクがあります。

複雑性を緩和するには、可視化ツールを導入したり、設計段階からモジュール化を意識したアーキテクチャを採用するなどが効果的です。

エージェント間の調整障壁

自律的に動くエージェント同士で目標や指標が合わない場合、衝突や機能不全が起きる可能性があります。これらの調整には時間とコストがかかり、プロジェクト全体の進行に影響を及ぼすことがあります。
あらかじめ役割や優先順位を明確にするなど、意思決定プロセスを定義しておくことが望ましいです。

データガバナンスとセキュリティ

マルチエージェントが活用するデータは重要度や機密度が高いケースがあります。分散化された環境では情報漏洩リスクや各エージェントのアクセス権限管理が複雑化します。

セキュリティポリシーを整備し、暗号化や認証システムを導入するなど、基礎的な対策の実装が欠かせません。特に規制が厳しい業界では、コンプライアンス対応も同時に考慮しましょう。

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ROI可視化と予算確保

マルチエージェントへの投資を正当化するには、ROI(投資対効果)を明確に示す必要があります。ただしシステムが複雑なため、単純な指標で評価するのは困難です。

具体的なKPIを導入し、成功事例としての実績を積み上げることで、長期的な予算確保につなげる取り組みが求められます。

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マルチエージェント導入のポイント

実際にマルチエージェントを導入する際に押さえておくべき具体的なポイントを解説します。

マルチエージェントを自社に導入するうえでは、単なるテクノロジー導入ではなく、組織や業務プロセス全体の最適化を考慮することが鍵です。管理者や現場担当者が連携して進めることで、スムーズに成果を得られます。

また、導入後の継続的な運用やサポート体制の整備も見逃せません。部分的な導入で終わらせず、全社レベルで活用できるロードマップを描くことが重要になります。

役割の明確化とアウトプット評価

システム全体のゴールに向け、それぞれのエージェントがどのタスクを担当するのかを明確化しておくと、効率的な運用が期待できます。定期的にアウトプットを評価し、軌道修正を行う仕組みを導入しましょう。
評価基準を決めるときは、単なる成果物の質だけではなく、コストやリードタイムなど、プロセス面も考慮に入れることが重要です。

サポートできるパートナーを選ぶ

マルチエージェントのような複雑なシステムを成功裡に導入するには、専門知識を持つパートナー企業や開発チームと協力することが不可欠です。
単に最新のAI技術を選ぶのではなく、自社の業界やプロセスに合ったソリューションを選定することが効果的です。明確な業務課題と現場のオペレーションを踏まえて導入を進めることで、結果にも直結しやすくなります。

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【業界別】マルチエージェント活用事例

多様な業界での活用が期待されるマルチエージェントについて、代表的な活用例を紹介します。

今日ではあらゆる業界で問題解決の高度化が求められており、マルチエージェントの導入が進んでいます。各分野での課題を整理し、エージェント同士の協力を生かすことで、効率化と付加価値創出が期待されています。
ここでは代表的な例をもとに、業界ごとの特徴や利点を見ていきましょう。

医療

医療分野では、マルチエージェントシステムが医療現場をシミュレーションした環境で診療プロセスの最適化に活躍しています。患者エージェントが症状を報告し、画像診断AIエージェントがレントゲンやCTスキャンを解析、情報管理エージェントが患者データを整理します。診断支援エージェントはこれらの情報を統合して診断候補を提示し、スケジューリングエージェントが検査や治療の最適なタイミングを調整します。
このようなエージェント間の相互作用をシミュレーションすることで、診断精度向上と医療従事者の負担軽減を事前検証できます。

金融

金融業界ではリスク分析や高速な自動取引システムでマルチエージェントの強みが活かされています。たとえば、あるエージェントが市場分析を担当し、別のエージェントがリスク管理を行いながら取引アルゴリズムを最適化する仕組みです。

多角的な観点からの判断が求められる金融取引では、エージェント間の協力がスピーディーなこう着回避や不正検出などに寄与します。

小売・EC

需要予測や在庫管理を行うエージェントと、顧客の趣味嗜好を分析するレコメンドエージェントが連携することで、売れ筋商品の提案や在庫の適正化が実現可能です。これは大規模なECサイトなどで効率的に運営を行うための重要な要素です。

また、レコメンド結果を基にマーケティング施策を行うエージェントを組み込む事例では、売上向上や顧客満足度の向上に寄与することも可能です。

運輸・物流

交通量や配送状況をリアルタイムで把握し、最適なルートをエージェント同士が協力して算出します。複数の車両やドライバーを同時にコントロールする際にマルチエージェントの特性がよく活かされる分野です。

たとえば、倉庫内のピッキングロボットから配送トラックへの受け渡しまでがシームレスに行われ、全体として物流コストの削減とサービス品質の向上を実現できます。

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マルチエージェントの今後

マルチエージェントの適用範囲は年々広がりを見せています。

向こう3年で、AIエージェントの適用範囲は「個別業務」から「部門・機能横断的なワークフロー」へ拡大し、人間とAIの協調を深化させることで組織の変革を推進するでしょう。2030年頃には、AIエージェントが社会インフラの一部となり、オープン・エージェント・ウェブ環境下で新たなビジネスモデルが創出される未来が到来します。

中期的展望(2025年~2027年)

この時期は、様々な業界での導入事例が更に増え、マルチエージェントの仕組みが企業活動の基盤として定着し始めると考えられます。これに伴い、より汎用性の高いフレームワークやツールの開発が進むと予測されます。
また、AIと人間の協働が進み、AIの提案を人間が監督、承認する設計思想であるヒューマンインザループが確立されるでしょう。

長期的展望(2028年~2030年)

2030年頃には、高度に洗練されたマルチエージェントが社会インフラの中核を担う可能性があります。技術の進化により、エージェント間の協働や学習がさらに自律的になり、人間が介在する領域も、より戦略的な判断やクリエイティブな面に集中することが想定されます。

これにより、新たな価値創造や社会課題の解決が加速し、人々の生活やビジネスの在り方にも大きな変革がもたらされるでしょう。

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まとめ

マルチエージェントシステムは、AI活用の幅を広げる重要なアプローチであり、導入時には構造や運用体制をしっかりと設計することが不可欠です。

マルチエージェントは、その協調性と拡張性によって、多彩な分野で大きな可能性を示しています。導入コストや複雑性を踏まえながらも、適切なアーキテクチャと運用モデルを構築することで、優れた成果を得ることができます。

今後の技術発展にあわせて、さらに多くの業界・組織がマルチエージェントの恩恵を受けると考えられます。持続的な運用と改善を視野に入れ、ビジネス成長につなげられるように取り組むことが重要です。

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記事の作成者・監修者

平田 大祐(株式会社モンスターラボ 常務執行役員)

平田 大祐(株式会社モンスターラボ 常務執行役員)

2004年IBMグループに入社し、IBM ITスペシャリストとしてシステム開発に従事。 2009年からベンチャー企業にて受託開発、コンテナ型無人データセンターの管理システム、ドローン開発などソフトウェアからハードウェア開発まで幅広く関わる。チーフテクノロジストとして2015年にモンスターラボへ入社し、2018年4月より最高技術責任者であるCTOに就任。 プロフィールはこちら