アサヒグループ食品株式会社(以下、アサヒグループ食品)の和光堂は、106年前に日本で初めての粉ミルクを提供した老舗のベビーフードブランド。赤ちゃんの栄養不足という社会課題から生まれた和光堂ブランドですが、現在は”その瞬間を「wa!」っと楽しくするブランド”を目指しています。
デジタルを活用すれば育児はもっと楽になるー自身の子育てからそう確信したのは、同社でDXを担当する石渡 寛基氏です。初めてのアプリ開発のパートナーに選んだのは、モンスターラボ(以下、ML)。同じビジネスの目線に立つ姿勢が決め手だったと言います。
MLは、要件定義、UIデザイン、アプリ設計、開発、リリース、運用と一気通貫で支援し、アプリのローンチとグロースを支えています。
今回は、プロジェクトを担当したアサヒグループ食品の石渡氏、畠 徳望博氏を迎えて、MLのメンバーと共に、アプリ開発にかけた思いや協業について振り返っていただきました。
取材協力:
畠 徳望博(アサヒグループ食品株式会社 企画本部 長期戦略推進室 担当副部長)(*写真左から3)/ 石渡 寛基(アサヒグループ食品株式会社 企画本部 長期戦略推進室 担当課長)(*写真左から2)
弊社プロジェクトメンバー:
森(株式会社モンスターラボ サービスデザイナー兼UI/UXデザイナー)(*写真左)/ 橋本将功(株式会社モンスターラボ プロジェクトマネージャー)(*写真左から4)/ 木村秀樹(株式会社モンスターラボ テクニカルディレクター)(*写真左から5)
目次
石渡:アサヒグループ食品が経営企画部の下にDX推進担当を設けたのは、2019年9月のことです。その後、2022年4月に長期戦略推進室に移しました。我々は当初からDX推進担当として取り組んできました。
DXと一口に言っても、業務効率化のような”守りのDX”、新しいビジネスモデルを開拓する”攻めのDX”がありますが、我々は攻めのDXを担当しています。
最大の課題は、我々メーカーは直接消費者と接点を持っていないということ。食品メーカーはBtoBtoCとして、卸売企業様や小売企業様を間に挟んで消費者に選んでもらうというビジネスモデルです。我々も例外ではありません。デジタルを活用することで消費者の皆さんと直接接点を持ち価値を提供していく、というのが我々のDXの意義になります。
石渡:それまでは営業担当でした。それがDX推進担当となり、最初はなんでもいいからDXをやるということで業務効率化、RPAの導入なども進めました。
畠:私は商品開発、広告宣伝などに携わった後で、DX推進担当となりました。石渡と同じで、何をすべきかわからない。そこで、いろいろなセミナーや展示会に行ったり試行錯誤しながら、我々が今やるべきことはデジタルを活用したマーケティングの高度化だろうという考えに至りました。
商品を作って売るだけでなく、製品を買っていただくお客様の暮らしを良くするためには、購入の前と後を含む一連の活動にもっと深く関わり、濃い顧客体験を提供する―以前は難しかったことが、アプリなどデジタルを使うことで実現できます。そのようなことから、マーケティングの高度化を追求することにしました。
DX推進がスタートして1年の振り返りのときに、改めて業務定義をしました。その際に、ブランドの枠を超えて横断的にお客様に良い体験を提供することを目指すと定め、データ利活用を進めるためにCDP(カスタマーデータプラットフォーム)などのデータ基盤技術、マーケティング高度化のためのツールの導入を進めました。社内の人材育成にも着手しました。
石渡:和光堂でアプリをやろうというアイディアは、DX推進担当になって1年ぐらいした頃から漠然と持っていました。アイディアが確信に変わったのは、自分の子供が生まれてからです。妻も自分も育児は初めてなので、インターネットでさまざまな情報を探し、参考にしています。我々のように育児をするママやパパは常に情報を収集しているし、記録管理も重要です。このようなことがモバイルなら気軽にできるので、アプリとの相性がいいと実感しました。
中でも離乳食は月齢によって異なりますが、手軽にレシピを見ることができたら、顧客の利便性は高まると考えました。頑張らない育児を応援しよう、というのが始まりです。和光堂のウェブサイトには様々な離乳食レシピを掲載しているので、そちらを活用しました。
畠:育児は時間との戦いでもあります。月齢に合わせてタイムリーにほしい情報を見ることができるような機能を持つアプリに可能性を感じました。
石渡:アプリを作るにはどのような作業が必要なのか、流れはどうなるのかなどがわからず、いろいろなセミナーに参加した中でMLさんとつながりました。他にもいくつか声をかけた中で、MLの担当者は私たちのビジネスを理解した上で同じ目線になって考えてくれている印象をもち、最終的にコンペで決定しました。
畠:我々自身はアプリを作ったことがなく、自分たちがやりたいことが果たしてアプリで実現できるのかもわからない。そんな状況で、我々の目線に立って、こういうことがやりたいのなら、このような形でできるのではないかと提案いただいたのがMLさんでした。
石渡:提案の精度やコミュニケーションのタイミングなどから、我々の課題をしっかり理解していただいているという印象を受けました。我々側で要件が定まっていない状態で相談をしても、MLさんは抽象度を1段階上げて、”こういうことがやりたいんですよね”と整理してくれる。しかもスピーディーで、やり取りのテンポもちょうどいい。
また、プロジェクトを進めるにあたって必要になる社内のスケジュールについても配慮していただきました。
橋本:立ち上げ時のプロジェクトマネージャーとして、企画の段階からリリースまでメインでプロジェクトマネジメントを担当しました。
新規サービスの立ち上げ時は最初は正解がないので、どの辺りに答えがあるのかを探します。最初の2ヶ月ぐらいは森と相談しながら作った仮説をご提示して、畠さんや石渡さんと議論しながら落とし所を探りました。
森:私はサービスデザイナー兼UI/UXデザイナーとしてプロジェクトに関わりました。
まずは、ベンチマークにしているようなアプリの分析を定量と定性の両面から行いました。
和光堂ブランドが持つ強みについて整理して比較検討したときに、離乳食は大きな強みだと判断しました。和光堂のベビーフードはこの分野ではトップブランドで、それを使った月齢別のレシピがたくさん公開されています。これは、スタートアップをはじめ、他社には真似できない。ここにフォーカスしたアプリにしましょうとご提案しました。
実際にアプリを構築するにあたっては、プロトタイプを作って対象になりそうな人にテストしてもらうコンセプト受容性テストを行いました。そこで、実際に使うというエビデンスができ、実際の開発コストを試算しました。この作業を、予算確保に必要なスケジュールに間に合うように、コミュニケーションを密にしながら進めていきました。
その後のグロースは、細かいチューニングをしながら進めています。そこでもやはりコミュニケーションを大切にしています。
全体として、受託しているというよりもパートナーシップを組むという意識で進めさせていただきました。
石渡:アプリの開発とは別の議論として、もともと案はありました。コロナ禍で栄養士さんの相談が難しい中で、オンラインなら直接相談できると考えたからです。それをアプリでやるのか、別枠でやるのかという状態でした。MLさんとお話をする中で、栄養相談の機能をアプリで実装できると聞いてお願いしました。
栄養相談の予約がアプリでしかできないというのは、お客様にしてみれば制限になります。Webサイトで予約できるようにすれば、アプリをダウンロードしていない人でも予約ができる。それでも、アプリの方がUIも優れていたので、アプリにしようと決断しました。
MLさんとはすでに契約した後だったのですが、アプリでこんな機能も入れられるのかという嬉しい誤算でした。
畠:わざわざアプリを入れてもらうためには、それなりの価値を提案しなければなりません。
和光堂には数十名の栄養士がいます。このメンバーに相談できるというのは、離乳食のコンテンツと並んで我々の価値と言える部分です。チャットボットやFAQではなく、安心できる専門家からアドバイスがほしい、話を聞いてほしい。そのニーズを満たすことができるのは、我々の重要な価値だと考えています。
橋本:最初の企画段階で、必ずやりたいことは何か、どの機能がメインになるのかなどを議論しながら進めました。
「わこちゃんアプリ」はペルソナがかなり明確で、顧客のペイン(困りごと)も生活に直結するような深刻なものです。ペルソナがずれると誰にも使われないものになるので、プロジェクトで明確に共有しながら、顧客に価値を提供するという意識を一貫してもち続けました。
木村:テックリードとして参画し、グロースの段階からはプロジェクトマネジメントも担当しています。
管理画面は、情報設計やデザインができていたものを実装しました。オンライン栄養相談では、立場が異なる人が予約を管理したりユーザー情報を閲覧することになるので、使いやすいように作り込みました。
プロジェクトの全体予算を効率的にするという点で、オフショア開発は1つのポイントと言えます。このプロジェクトでは、弊社のベトナムチームが実際の開発を進めましたが、オフショア開発はマネジメント次第では逆に非効率になります。そこで、こまめに丁寧なドキュメントにして行き違いが起こらないようにしました。
現在でも、実際にお客様に使ってもらったデータを見ながらユーザーをもっと広げるにはどうすればいいか、アプリを拡張するときどのような施策が必要かの修正を続けています。
このプロジェクトが特殊なのは、想定されるユーザーが多種多様で、立場も赤ちゃんの月齢によって変わってくるところ。こんな使い方をするだろうという想像が難しかったため、いろんなパターンを提案して進めています。
石渡:ダウンロード数は累計3万回です。
お客様に認知してもらい、使っていただいているという点で順調ですが、ここまで山あり谷ありでした。最初にリリース後、自社オウンドメディアでの告知と広報によるリリースを通じて、和光堂をすでに認知している人に知ってもらえたので、利用者は一気に増えました。その後は広告を中心に認知拡大を図りましたが、広告を打ったところ、ダウンロードはしていただけるが、その先の会員登録に繋がらない。この課題は、リリースから3ヶ月もしないうちに明確に出ていました。
ここでもMLさんに助けていただきました。会員登録のどこで離脱しているのかのデータ分析をお願いしたところ、我々の仮説とは違うことがわかりました。そこで、会員登録までの画面デザインを変えたり、広告の内容も工夫をしたところ、成果が出てきました。
畠:我々が意識しているのは数字ではなく、お客様がどのように使っているのか、どうやれば便利だなと思っていただけるか。そこをメインに考えています。
石渡:最初は、自社製品をアピールし過ぎるとお客様に煙たがられるかなと思っていました。しかし、広告施策やアプリの利用統計を分析すると、お客様が和光堂のアプリに求めていることは、商品情報そのものや商品と連動した機能あることが分かりました。
畠:信頼関係を構築できたことは大きいと思います。コミュニケーションの頻度もよくて、パートナーとして進めることができました。
石渡:MLの皆さんの雰囲気がよかったですね。業務の専門性はもちろんですが、こちらと同じ目線で考えて企画から実装までやっていただいたことが良かったと分析しています。
森:担当者の思いがちゃんとあり、意思決定をきちんとしていただけたのがよかったです。
橋本:定例などで「今日中にこれを決めてほしい」とお伝えすると、ちゃんと決めていただいたので、我々もとてもやりやすかったです。プロジェクトによっては、「持ち帰って検討します」となってなかなか意思決定されなかったり、前回決まったことがひっくり返ることもありますが、そのようなことがまったくなかった。
石渡:我々は持ち帰る場所もないので、持ち帰りはほぼゼロだったと思いますよ(笑)
橋本:新規サービス開発のプロジェクトを進めているとどうしても、追加要件や要件変更などによって計画の見直しがほぼ確実に発生します。そのときにどのような判断が下されるのか、見直しの計画が迅速に承認されるのかなどは、その後のプロジェクトの成否に大きく影響します。そこが非常にスムースだったのは、成功の大きな要因だと分析しています。
石渡:リリースから半年以上が経過し、想定していたお客様に使い始めてもらえていますが、アプリとしてはまだスタート地点に過ぎません。
ユーザーをさらに増やすために、機能の強化や改善を重ねていきます。ママやパパに役立つ機能、さらには世の中の役に立つような新しい機能も加えていきたいです。ここについては、MLさんと一緒に整理をしている段階です。
畠:一緒に作った子供のような存在である「わこちゃんアプリ」をスクスクと元気に大きく成長させていきたいですね。
森:我々はお客様と伴走することを大切にしています。そこを期待していただけるのは、嬉しいです。
木村氏:信頼をおいていただいているので、我々としてもとてもやりがいのあるプロジェクトです。まだ入り口なので、これからの発展をしっかりサポートできればと思っています。
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