ローカルニーズを的確に捉えたAR機能搭載の故障診断アプリで顧客エンゲージメントを向上(株式会社クボタ)

建機・農機などの製品を軸に世界各国にトータルソリューションを提供する株式会社クボタ。同社が2020年12月にリリースした『Kubota Diagnostics』は、3Dモデル・AR機能を活用した故障診断ができる革新的なサービスです。

本サービスの目的は、経験や知識に頼らない故障診断フローを提供することでダウンタイムによる建機の稼働率低下を抑えること。特に故障診断のニーズが高かった米国市場にスコープを定め、その後のグローバル展開も視野に開発されました。

モンスターラボ(以下:ML)は、開発プロジェクトに要件定義から参画。UIデザインから設計、プロダクト開発を担当しました。

今回は、プロジェクトオーナーを務めた株式会社クボタの梅林 繁樹氏、大南 功氏を迎えて、新規サービス開発の流れとMLとの協業について振り返っていただきました。

取材協力:
梅林 繁樹 / 大南 功 (株式会社クボタ)

弊社プロジェクトメンバー:
山口 将寛 (株式会社モンスターラボ プロジェクトマネージャー) / James Bowskill(株式会社A.C.O. クリエイティブディレクター) / 若本 岳志(株式会社モンスターラボ ビジネスプロデューサー)

 

★知っておきたいDXの基礎知識

『Kubota Diagnostics』の開発に至った経緯

北米・オーストラリアを中心に展開されているコンパクトトラックローダ
「SVL95-2S」

── 『Kubota Diagnostics』の開発に至った経緯は?

梅林:弊社は、主に農機事業で多くの方に認知いただいていると思いますが、2025年をターゲットとした中期経営計画では建機事業を農機と並ぶ柱に成長させ、将来のクボタをグローバル・メジャー・ブランドとして確立させたい狙いがありました。

現在、建機事業部では事業領域を拡大させ、世界各国に当社の製品を販売していく製品事業に注力しています。そのなかで顧客満足度向上とアフターマーケットにおける収益力向上につなげる活動を強化したいという意向があり、従来の技術面でのサポートに加えて顧客向けのソリューションの提供を検討していました。

今回の故障診断プロジェクト発足には、販売拡大に伴ってユーザーに提供する製品情報が増加し、販売会社への問い合わせが増加しているという背景がありました。既に導入している故障診断ツールもあったのですが、よりお客様からのニーズが多かったダウンタイムの極少化につながる新しいサービス開発が必要になっていたんです。

── メカニックアシスタントアプリというアイデアはどこから生まれたのでしょうか?

梅林:以前はメカニックをトレーニングする部隊に所属していまして、整備解説書の製作なども担当していました。そのなかで、お客様やレンタル会社・ディーラーの方々と直接お話する機会が多かったのですが、人材育成に困っているという悩みを頻繁に耳にしていたんです。「故障診断にかかる莫大な時間を短くできないか」というお客様の要望に応えたいという想いが本アプリの着想につながりました。

サービス開発のパートナーを探す際に重視したこと

技術面で求められたのはアプリ開発の知見とAR・3Dモデル機能の実現

── アプリ開発を外部に依頼した背景とベンダーに求めていたことを教えてください

梅林:弊社はアプリ開発のノウハウや実績が少ないため、アプリ開発の知見があり、今回のプロダクトで実現を目指すAR・3Dモデルの開発を任せられるベンダーを探していました。

また、米国市場をメインターゲットにサービス展開していく構想だったので、グローバルに開発拠点を有する会社が適しているのではないかという考えもありました。

── MLに開発を依頼する決め手になったのは?

梅林:プレゼンを受けたベンダーの中で、MLさんだけが米国市場がターゲットであることをしっかり考えてくれていました。例えば、「現地のメカニックなら、こういう使い方のほうがいいんじゃないか?」など、私たちが考えていなかった部分まで見据えて提案をしてくださって。NYの拠点でARの開発実績をお持ちだったことも大きかったですし、弊社の別プロジェクトでの取引実績があって建機への知見がまったくの0ベースではなかったことも大きかったです。

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ローカル市場とユーザーを意識したUIデザイン

英語圏を意識した診断フローと使用シーンを想定したメリハリのあるデザイン

── 米国市場でのリリースを意識し、デザイン面でこだわったところは?

JB:日本国内におけるクボタさんのイメージは理解できていましたが、海外ではどのように見られているのかをリサーチするところからスタートしました。米国の関連WEBサイトをいろいろと見て、現地でのブランドイメージを理解した上でどういった体験を提供すればいいのか思案しました。もし私がアメリカのメカニックだったら、自分のよく知ってるクボタさんとは異なるイメージだとギャップを感じるだろうな、と。表面的な部分ではありますが、そういった現地のブランド認知に合わせることが重要だと思いました。

また、大きめの文字サイズを採用するなどメリハリが強い部分も米国におけるクボタさんのブランディングの特徴でした。私たちはオフィスの中でアプリのことを想像していますが、実際にアプリが使用される現場は屋外が多い。メカニックの方々が作業しながら片手でアプリを使っているシーンを想像すると、サイズの大きいボタンを設置してミスを防ぐなど、UIデザインの部分で配慮が必要だと思ったんです。

梅林:JBさんが考えてくださったUIデザインは提案時からかなり好評でしたね。ベンダー選定の際はアメリカ拠点も巻き込んでアンケートを取ったのですが、MLさんのデザインが最も高評価でした。

── 診断フローのIA(情報アーキテクチャ)を考える上で考慮した点はありますか?

JB:日本語と英語の文法の違いに関して、提案の時点から気づけたことが大きかったですね。例えば、「エンジンがかからない状態ですか?」という質問に、日本語の場合は「はい、かかりません」と答えますが、英語で答える場合は「No, the engine will not start.」と答えます。つまり、ボタンのラベルにYES・NOを採用するとツリー構造がおかしなことになってしまう。そのため、ボタン自体に「エンジンがかかる」「エンジンがかからない」と明確に記載したUIでなければならないと気づきました。GoogleもAppleも、ヒューマンインターフェイスのガイドラインでボタンを読めば内容がわかるようなUIをオススメしていますしね。早い段階で気づけたのでよかったですけど、ここに気づけていなかったら後で大変なことになっていたと思います(笑)。

梅林:提案時、その点に気づいていたのはMLさんだけで、我々も指摘をいただくまでは気づけていなかった。日本人の感覚ではYES・NOの二択の方がシンプルでわかりやすいと思ってしまいますよね。当初はYES・NOの質問に答えていくだけで最終的な結論に結びつけたいという構想があったのですが、それではダメだと気づかせていただきました。この観点は整備解説書を作成しているメンバーなどにも共有して、マニュアル関連などに問題がないかもチェックしてもらっています。

アジャイル開発で実現させたAR・3Dモデル機能

2週間単位でデモを改善し、実用レベルまでブラッシュアップしたAR・3Dモデル機能

── アプリの目玉となるAR・3Dモデルの開発で苦労した部分はありますか?

山口:ARを建機にかざしてトラッキングするのは一般的な使い方ですが、実際にメカニックが利用するシーンを想定すると、建機に近寄って部品に触れたりと作業の動きが発生します。そのため、一度トラッキングが外れてしまっても、すぐに元通りになるように常時トラッキングを継続できる仕組みが要件として求められていました。その実現が技術的に最も難しかった部分です。

また、アプリ本体はFlutterという開発言語で構築しているのですが、3Dモデルを表示する画面とAR機能の部分にはUnityという別の開発言語を使用しています。Flutterはここ数年の間に登場したばかりで、クロスプラットフォームとして活用できることが特徴。新しい開発言語ということもあって、他の言語を組み合わせてアプリを構築した前例が少なく、チャレンジングな取り組みでもありました。

梅林:最初のデモは精度がイマイチだったのですが、徐々に改善を繰り返していただくことによって日に日に精度が向上していって。正直、最初は少し不安な部分もあったのですが、開発の最後のほうは「これ、いいんじゃない? 実用レベルになってきたね」と大南と2人で盛り上がっていました。

── AR・3Dモデル機能の精度はどのように向上させていったのですか?

山口:アジャイル開発を提案させていただき、2週間に1回のペースでスプリントを組んでデモを提出。梅林さんたちからフィードバックをいただいては改善を繰り返し、精度を向上させていきました。ウォーターフォールだと3ヶ月の開発期間が終わった際に「こうなりました」と完成形をお見せする形になってしまい、梅林さんたちも不安に思われるのではないかと。仕様変更や追加の要望が出る想定があったことも、今回のプロジェクトにアジャイル開発が最適だと考えた理由の1つです。

梅林:弊社のプロジェクトでアジャイル開発が採用されたケースは非常に少なかったため、契約締結時にIT担当から「アジャイル開発の準委任契約じゃなくて、ウォーターフォール開発の請負契約のほうがいいんじゃないか?」というツッコミがありました。

でも、私たちも初めてのことばかりでわからないことも多く、途中で仕様変更をお願いすることもあると思ったので。プロジェクトが終わってみて、その判断が正解だったと改めて感じています。

 

★アジャイル開発の詳しい解説記事はこちら

ML・クボタ社との協業で良かった点

ワンチームとして同じ目標に向かえたことがアプリ開発をスムーズにした要因の1つ

── MLとの協業で最も印象的だったことを教えてください

大南:最も感謝しているのは、米国のステークホルダーとのコミュニケーションまで担っていただけたことです。特に、技術的なやりとりを英語のままキャッチアップしていただいたり、英語で回答いただけたことは大きな助けになりました。

私も米国駐在のスタッフも一般的な英語のコミュニケーションであれば問題ないのですが、IT系のテクニカルな専門用語となると勝手が違ってしまいます。我々側で通訳に時間がかかってしまうところをダイレクトにやりとりができたことで、かなりの時間を短縮できたと思います。

── クボタさんとの協業で助けられた部分を教えてください

山口:建機内の細かい部品など専門的な知識のキャッチアップでは、「これがここの部品ですよ」と親身に教えていただくことが多かったです。それを実際にアプリでどう表現するかという部分で、いろいろとサポートをしていただきました。

JB:デザインに関するディスカッションをデイリーで設定していたのですが、とても素早くフィードバックや判断をしてくださって本当に助かりました。フィードバックには納得できるロジックが必ずついていたので、迷いなく気持ちよく作業が進められました。同じゴールに向かっているんだという気持ちを強く感じさせていただきましたね。

梅林:そうですね。もう私たちも同じチームというのはもちろん、同じ会社の人間くらいの気持ちで協業していました(笑)。

プロダクト完成後・リリース後の反響

AR・3Dモデル機能は現地ディーラーからも高評価を獲得

── 実際にサービスを利用するユーザーからの反響はいかがでしたか?

梅林:正式リリースに先駆けて現地ディーラー向けのフォーラムでアプリのプロモーションビデオを公開しました。コロナ禍の影響でオンライン開催だったこともあり、大々的なヒアリングはできなかったものの、懇意にしているディーラーさんからは「すごくいいアプリだね」とお褒めの言葉をいただきました。正式リリース後も、アプリを実際に使用したユーザーから好意的な意見が多数届いています。追加機能の要望も多く、ユーザーから期待されていると感じています。

── 外部メディアでの紹介など、社外からも反響がありましたか?

梅林:四季報に掲載されたことで日本のレンタル会社からの問い合わせが殺到し、「いつ日本版をリリースするの?」という要望が多数ありました。

また、日経グループの複数のメディアでも記事が掲載され、担当者としてとてもうれしかったですね。若手も含めたプロジェクトメンバーで取材を受けたり、社内報でも取り上げてもらうなど、多方面から取り上げていただいたことでチームのモチベーション向上にも繋がりました。

── サービスのグローバル展開など、今後の展望を教えてください

梅林:今回のサービスはSVLシリーズというコンパクトトラックローダに製品を絞って提供しています。最も導入台数が多い米国市場を最初のターゲットにしていますが、同製品を展開しているカナダやオーストラリアにも順次提供を開始していく予定です。

ここまでは決定事項なのですが、以降はアメリカでの導入を検証してからのアクションになりそうです。日本やヨーロッパといった米国とは文化の異なる地域での展開も視野に入れていますので、今回の経験を活かして現地の市場ニーズをしっかりと見極めてリリースしたいと思っています。

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記事の作成者・監修者

若本 岳志(株式会社モンスターラボ ビジネスプロデューサー)

コンテンツライター兼ディレクターを経て大手人材会社の学び部門でプランナーを長年経験。大学・専門学校のブランディングおよび、初期接触から興味喚起、出願促進まで募集広報のトータルプランニングを実施。新設学部の広報コンセプトの立案を多数手がける。学びとキャリアの接続をテーマにキャリア教育を大学に提案し装着・運用。モンスター・ラボに入社後はビジネスプロデューサーとして複数の新規事業に携わる。