道路混雑状況などを考慮したリアルタイムの到着時刻予測サービスを提供し、高速バス利用者の顧客体験を向上(株式会社みちのりホールディングス)

バスや鉄道、モノレールなどの交通事業を通じて地域の発展に貢献する株式会社みちのりホールディングス(以下:みちのりHD)。同社は、グループ会社の会津乗合自動車株式会社(以下:会津バス)に対して、HERE Technologies社(以下:HERE ※1)が提供する位置情報技術を活用した、高速バス利用者向け『到着時刻予測サービス』を展開しました

本サービスの特徴は、渋滞や天候などにより変動する高速バスの到着時刻を、道路混雑状況などを加味したHEREの位置情報技術を活用することによりリアルタイムで正確に予測すること。また、高速バスの利用者の送迎待ち時間を解消したり、過去の同曜日・同時刻の混雑状況や遅延実績の確認が行える革新的なサービスです。

モンスターラボ(以下:ML)は、開発プロジェクトに要件定義から参画。UI/UXデザインから設計、プロダクトの開発を担当しました。

今回は、サービスのファーストユーザーとなった会津バスへの展開プロジェクトに参画したみちのりHDの木村 恭大氏と、位置情報サービスのリーディング企業であるHEREの株主として同社の日本事業展開を支援する三菱商事株式会社(以下:三菱商事)の津島 洋平氏を迎えて、新規サービス開発の流れとMLとの協業について振り返っていただきました。

取材協力:

木村 恭大 (株式会社みちのりホールディングス)/穴沢 信之助 (会津乗合自動車株式会社)/津島 洋平 (三菱商事株式会社) 

弊社プロジェクトメンバー:

林田 智典(株式会社モンスターラボ PMO) / 福田 数人(株式会社モンスターラボ PM)/ 若本 岳志(株式会社モンスターラボ コンサルタント)

※1  HERE概要

HEREは、位置情報サービス分野の世界的なリーディング企業として、自動車業界で確固たる地位を築いてきました。近年は、物流、交通、サプライチェーン、メディア、通信等、幅広い業種・業界にも位置情報プラットフォームを展開しています。日本においては、2020年5月に三菱商事株式会社などからの出資を受け入れ、同社の有する幅広い産業とのネットワークも活用しながら、日本市場での成長加速、提供サービス拡充に取り組んでいます。

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目次

高速バス利用者向け『到着時刻予測サービス』の開発に至った経緯

株式会社みちのりホールディングス 木村 恭大氏

──位置情報サービスを活用したプロジェクトの企画に至った経緯は?

木村:高速バスは、道路の混雑状況や天候により到着予定時刻に遅れることがあります。サービス導入前は、利用者から「到着時間が読めない」という意見が寄せられており、それが原因で高速バスを利用しないというお客様もいらっしゃる状況でした。

今回の到着時刻予測サービスのプロジェクトの発足には、そのようなお客様のご意見が増加しているという背景がありました。既に路線バスでは、バス停でおおよその到着時間を提供するバスロケーションシステムを導入していたのですが、高速バス車内のお客様に向けた情報提供サービスは他社をみてもほとんど導入されていない状況でした。

そうしたお客様のニーズにマッチする形で、利用者の不便を解消したいという思いがありました。

津島三菱商事としては、2020年にHEREに出資し、日本における同社事業の展開を支援していました。その中で位置情報と公共交通事業は非常に親和性が高く、HEREの技術をうまく活用することで、公共交通事業者の課題解決に繋がるのではないかという着想に至り、HERE技術活用支援を中心にプロジェクトに参画しました。

──サービスの開始場所として会津バスを選ばれた理由は?

木村:会津地方は地域柄、とても雪が降りやすいということもあり、天候による到着の遅れが多い地域であることが理由のひとつです。

そして、会津若松には新幹線が通っていないため、最寄りの新幹線の駅・郡山まで高速バスに乗り、そこから新幹線に乗り継ぐというユーザーが非常に多い地域になっています。乗り継ぎがあるということは乗り継ぎ先の時間が気になるということで、到着時刻を知りたいというニーズが多かったことがもうひとつの理由です。

サービス開発のパートナーを探す際に重視したこと

三菱商事株式会社 津島 洋平氏

──このプロジェクトでベンダーに求めていたことを教えてください

津島:HEREの株主である我々としては、HEREの技術をいかに有効活用していただくのかが非常に重要なポイントなので、位置情報技術を活用したサービスの開発実績や知見を持ったベンダーが最適だと考えていました。

木村利用者にとって便利なサービスになることを期待していたので、テクノロジーやデザインに長けたパートナーさんが必要だと思っていました。今回、その観点でモンスターラボさんとは十分にやりたいことが実現できたと思います。

──MLからどのような提案をしましたか?

ML(若本):当初から、みちのりHDさんの方で仮説をお持ちでしたので、それを実現できるか検証を行いました。

これまでの経験から仮説検証のユースケースはあったんですが、実際にUXデザイナーが会津バスの高速バスに乗車して体験した上で、どういった体験がユーザーにとって優れているのか思案しました。

その上で実現できるかという点とUXの観点で何が必要かに鑑みて、やる/やらないの優先度の判断をしていきました。

これでいきましょう、という感じではなくリサーチしながら進めていくことが重要で、アジャイル開発の強みであるスピード感を持った提案ができたと思います。

ML(林田)新しいサービスなのでお客様で持っている仮説をガラッとひっくり返すぞというつもりはないんです。ただ、目的と手段が入れ替わってしまう恐れがあるので、MLとしては検証を行うようにしています。

──どれくらいの期間で検証を行いましたか?

株式会社モンスターラボ 若本 岳志氏

ML(若本):大体、1ヶ月くらいです。大規模なユーザー検証ではなく簡易的なユースケースを元に繰り返し検証を行い、クイックに進められたかなと思います。

ML(林田):なぜクイックにできたかというと、みちのりHDさんからユーザーストーリーを提案していただいたことが大きな要因だと思います。

──ユーザーストーリーはどのように作られたんですか?

木村:先ほどお話した通り、他が提供していないリアルタイムの到着時刻を予測するという点に価値があると仮説に基づき、ユーザーストーリーをMLさんと一緒に磨き上げました。

ML(林田):みちのりHDさんには、ご提案させていただく前に何度もヒアリングをさせてもらいました。1聞くと10返ってくるため、色々な情報を元に要点を絞ることができたと思います。

高速バス利用者向け到着時刻予測サービス』開発中のエピソード

株式会社モンスターラボ 林田 智典氏

──開発において重視したこと、苦労したことはありますか?

ML(林田):一番の課題であった到着時間の予測は、HEREの技術を活用することでうまくいきました。しかし、HEREのAPIを使用したトラッキングで上がってくる位置情報にズレが生じることもあり、データを補正する必要がありました。

また、経路上の位置を参照するポイントであるwaypointをバス(車中に設置したトラッキングデバイス)が通過したかどうかや、サービスエリアに止まったかどうかを判定するロジックの構築が難しかったですね。

それからバスのダイヤや停留所の情報としてGTFSというフォーマットのデータを使用しているのですが、そちらはみちのりHDさんに提供してもらい、すごく助けられました。

津島:GTFSデータとは、バスの経路やダイヤを検索する際に用いる標準データフォーマットです。日本では国土交通省が定めた仕様に基づいてバス会社が作成しているのですが、路線検索アプリや地図アプリでのダイヤ情報提供がメインの用途なので、システムのバックエンドで使用するには加工に工数がかかってしまうのが問題点でした。

みちのりHDさんとは、加工のプロセスを最小限にしつつシステム側で発揮する機能をどう最大化していくのかというところでかなり細かなデータ構造から相談していましたが、着地させていくかの判断が難しかったですね。

乗客の視点で考えられたUI/UXデザイン

『高速バス利用者向け到着時刻予測サービス』の検索画面

──要件を実現する上で難しさを感じた部分はありますか?

津島:路線バスに搭載されたバスロケーションシステムなどの乗客向けの情報配信サービスは、日常的に高い頻度で使用されるサービスなので、最初は使いづらくても徐々に慣れていくので継続的に使用してもらえるんです。しかし、利用機会が少ない高速バスだとなかなかそうはいきません。 

なので、サービスを1回しか使わない人でも使いやすいUI/UXの実現を目指していました。

その中でMLさんから「このUIはバス業界では通じるかもしれないけれど、一般的にはわかりにくいのでこう変えたほうがいいですよ」という、ユーザー視点の提案をいただいたことが印象に残っています。

木村:普段やり取りしている会社はバスのことに詳しいんですよ。バスに詳しい人間同士がつくるサービスは、バスに詳しくない利用者にとってはフレンドリーじゃない。そこをユーザー視点で見ていただくことが非常に重要だと感じました。

──デザイン面で、MLが工夫したことはありますか?

ML(福田):日本語に慣れていないハノイチームにもユーザー用の操作画面のABテストをお願いしました。直感的に操作できるかどうか、彼らの意見をまとめて提案したりしましたね。

また、ユーザーが見る画面上のワーディングもバス業界の専門用語などは避けるように意識しました。

木村:我々としてもバスに詳しくない方に寄り添った姿勢を元に、サービスを構築していく発想自体が新しい気付きになりましたね。

みちのりHD社・三菱商事社・MLとの協業で良かった点

左:みちのりHD 木村氏、右:三菱商事 津島氏

──MLとの協業で最も印象的だったことを教えてください

木村:お互いの良さがよく出たプロジェクトでした。スピード感のある体制で動けたのが一番良かったところだと思っています。ベンダーさんからも積極的に改善提案をしてもらいながらアプリケーションの導入を進めていくというやり方が初めてだったので、我々としても勉強になることが非常に多かったと思っています。

津島:MLさんには、プロジェクト全体をコントロールしていただきました。QCDSの関係から工数的に制限がある中、たとえば週次のプランニングで「このタスクは、みちのりHDさんや三菱商事側で分担をお願いできませんか」など、すべてのリソースを使いながらワンチームとしてプロダクトをつくっていく、そういう精神を持っていただいていたのは非常に良かったです。

──みちのりHDさん・三菱商事さんとの協業で助けられた部分を教えてください

ML(林田):精度の高い仮説やユースケースなどを提供いただけて助かりました。今回のプロジェクトは、1つのプロダクトを完成させるためにお互い協力する体制を築けたと思います。

ML(福田):今回のプロジェクトでは、積極的にビジネスサイドの話も共有いただけ、またABテストを通してメンバーの意見も参考にしていただけるなど、各メンバーが主体的にプロジェクトに参加できました。

ML(若本):お客様からいただいたフィードバックやメディア掲載の情報を、チーム内で共有することでチーム全体の意欲向上につながったと思います。

プロダクト完成後・リリース後の反響

リアルタイムで到着予測時刻を確認できるサービス画面

──実際にサービスを利用するユーザーからの反響はいかがでしたか?

木村:オンラインで参加しています会津バスの穴沢さんに話していただこうと思います。

穴沢(会津バス担当者):今回のサービスは、会津バスの社内メンバーからも従来の概念を覆して使いやすいサービスになっている、と非常に好評でした。

現場の担当者からもネガティブな問い合わせは一件もなく、サービスを実際に使用したユーザーからは「遅延の傾向が見えて、便を選ぶときの参考になる」や「他の路線でも導入してほしい」という好意的な意見も届いています。

木村:実際に私も使用しているんですが、安心して使えるサービスだと感じています。

津島:弊社は福島県の会津若松市に拠点がありまして、郡山駅から会津バスさんの高速バスを利用して会津若松に行く社員も多くいるんです。その者たちにサービスを紹介したところ、「到着時間が読めなくて悩んでいて、こういうサービスが欲しかった」という意見が得られて、非常に良かったなと思っています。

ML:そのようなお話しを伺えて安心しました(笑)

──メディアでの紹介など、社外からの反響はありましたか?

穴沢(会津バス担当者):リリース時には、地元の方達にとっても目新しいサービスということで、福島民報や福島民友といった地元紙の記事になりました。

ML:それ以外にも日経新聞の記事に取り上げていただいたり、プロジェクトチームのモチベーション向上にも繋がりました。

──今後の展望を教えてください

木村:できるだけこのサービスを広げていきたいと思っています。まずは弊社グループ企業からですが、2022年7月には関東自動車(栃木県宇都宮市)の空港バスにも導入しました。空港利用者は時間を気にする方も多いので、まさにニーズに合致したものと思います。みちのりグループ内での展開はもちろんですが、他社も含めて高速バスの新しいサービス・スタンダードになっていくんじゃないかと期待しています。

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