株式会社産業経済新聞社(以下、産経新聞社)では現在、デジタル事業の強化を目的に「サイトのUI/UX改善」「顧客ID基盤の整備」「データ利活用の促進」などの施策に取り組んでおり、モンスターラボは2022年からパートナーとしてこれらのプロジェクトに参画してきました。当初は主にUI/UX面での支援を提供してきたモンスターラボですが、現在ではその範囲を超え、データ利活用や新規ビジネスモデル開発など、多岐に渡る分野のパートナーとして価値を提供しています。
これら各種施策の背景や経緯、さらには今後の展望などについて、産経新聞社 デジタルビジネス本部の副本部長 中川拓也氏、コンシューマビジネス部 担当部長 兼 産経iD事務局長 生須悠記也氏、システム推進部阿部直之氏に、モンスターラボ側のプロジェクトメンバーとしてさまざまな支援を提供してきた川北奈津と松原大記を加えた5人に語ってもらいました。
取材協力:
・産経新聞社
中川 拓也 様 / 生須 悠記也 様 / 阿部 直之 様
・モンスターラボ
川北 奈津 / 松原 大記
デジタルシフトの方向性をより鮮明に打ち出す産経新聞社
まず御社の事業概要を教えてください。
中川:産経新聞社は、五大紙の1つに数えられる全国紙「産経新聞」の発行元として、昭和8年の創刊以来日本のジャーナリズムを長年に渡り支え続けてきました。フジサンケイグループの一員として、産経新聞以外にもスポーツ紙や専門紙、オピニオン誌からテレビ誌まで各種新聞や雑誌等の発行を手掛けるメディア事業を中心に、美術展や落語会、書道展の開催などの文化事業、マラソンやウォーキングイベントなどのスポーツ事業など多種多様な事業を展開しています。
新聞は紙ビジネスの代表格のように言われることもありますが、単純な「デジタル化」という意味では新聞業界の対応は決して遅いわけではなく、2000年台前半にはデジタル媒体へのニュースコンテンツの配信を始めていました。その中でも当社は、MSNと連携し「MSN産経ニュース」を展開するなど比較的積極的な姿勢で業界をリードするポジションに立っていました。しかしここ数年は新聞メディアのデジタル展開は踊り場に差し掛かっており、新たなステージになかなか踏み出せないでいるのが実情です。この現状から今一度デジタル事業というよりメディア事業全体を大きく成長させるために、当社をはじめ新聞各社ともにDXへの取り組みにより力を入れている、というフェーズではないでしょうか。
そんな中、御社は現在どのような施策に力を入れているのでしょうか。
中川:まず第一に当社のフラッグシップメディアである「産経ニュース」のUX改善です。産経ニュースは当社のデジタル事業の中核を担うメディアであり、日々多くの方にご利用いただいています。現在は、単にニュースを届けるだけでなく、読者が迷わず必要な情報にたどりつき、快適に記事を読み進められる体験の提供を最優先に、UXUIの改善を進めています。とりわけ、サブスクリプションサービスの強化は重要なテーマです。有料会員にとって「選んでよかった」「続けたい」と感じていただくためには、充実したコンテンツに加えて、使いやすいサービス設計が不可欠です。文字の視認性や操作性の向上、記事や特集コンテンツへの導線設計、会員特典へのシームレスなアクセスなど、UX改善とサブスクの価値向上は表裏一体の取り組みと位置づけています。
こうした改善を積み重ねることで、産経ニュースを「より快適に読まれ、長く愛されるメディア」へと進化させ、読者との信頼関係を一層深めていきたいと考えています。
また、冒頭で述べた通り、メディアコンテンツ以外にもさまざまなリソースやアセットを保有しています。メディア以外で展開するさまざまな事業、例えば美術展や落語会、マラソンイベントやフードフェスティバルなどを通じて新聞購読者以外のお客さまとの多彩な接点を持っているので、こういったタッチポイントを通じてより多くのお客さまに当社独自の価値を提供しながら収益を上げていく方策を現在模索しているところです。
生須:こうした取り組みのベースとなるのが、「産経iD」という当社独自の顧客ID基盤です。これまで当社では、各事業がばらばらにお客さまとの接点を設けて情報を収集・管理してきたのですが、これを全社で統一した顧客IDのもとに集約することを目指して、2018年から産経iDの施策を始めました。
これまで新聞社は、毎朝、販売店から新聞を読者にお届けすることで、エンドユーザーである読者の皆様とつながってきましたが、デジタル時代になり、これからは紙面の購読だけではなくオンライン版でのユーザーも増え、顧客IDを軸にメールマガジンの配信などを通じて、お客さまとダイレクトにコミュニケーションを図ることができるようになってきました。こうした状況の変化の中で、当社としてコンシューマー向けのマーケティング活動をどのようにして行ってゆくべきか、さまざまな部門と連携しながら検討しているところです。
モンスターラボの協力のもとデジタルチャネルのUI/UX改善に着手
そのような御社のデジタルシフトの取り組みに、モンスターラボは2022年からパートナーとして協力させていただいています。
中川:モンスターラボさんには2022年5月から、サイトのUI/UX改善など主にデザイン面の施策においてご協力いただいています。当社が運営する「産経ニュースサイト」の収益はもともと広告収入に大きく依存していたのですが、世の中一般的にデジタル広告の出稿量が頭打ちになる中、読者の有料会員化によるサブスクリプション収入を伸ばしていく必要性に迫られています。そしてそのためには、産経ニュースサイトをはじめとする当社のデジタルメディアの魅力をさらに高めて、お客さまに「有料会員になってでも読みたい」と思っていただけるメディアへと進化させる必要がありました。
そこで複数のベンダーさんにお声がけしてお話をうかがった結果、最終的にモンスターラボさんの協力を仰ぐことになりました。
最終的にモンスターラボをパートナーとして選んでいただいた決め手は何だったのでしょうか?
中川:当時当社にはデジタルメディアのUI/UXやデータマーケティング、プロジェクトマネジメントなどの知見が不足していたので、そうした分野で豊富な実績を持つパートナーさんと協業しながらノウハウを吸収して、将来的には自分たちで自走できるようになることを目指していました。そのために3社ほどのベンダーさんにお声がけしたのですが、その中でもモンスターラボさんは豊富な知見と実績をお持ちなだけでなく、当社内のさまざまな部署とスムーズに連携しながらプロジェクトを進めていただけるのではないかと判断しました。
当社のデジタルメディア事業は、私たちが所属するデジタルビジネス本部だけでなく、編集部門や広告部門、IT部門などさまざまな部署と連携しながら進めていく必要があります。そのため、各部門間で中立の立場にある外部のパートナーさんに第三者的な立場からプロジェクトをリードしてもらえるとありがたいと考えていました。この点においてモンスターラボさんは、当社内のさまざまな部門の立場をそれぞれ理解してもらいながら、さまざまなステークホルダーが皆納得できる形でプロジェクトを推進していただけそうだと感じました。
川北:モンスターラボとしては、当時メディア事業に関してそこまで深い知見を有していたわけではありませんでした。そこで、はじめて産経新聞社様からお話をいただいた際には、まず新聞社特有のビジネスモデルやカルチャーを理解すべく、業界研究を行ったり、実際に産経新聞様のオフィスに訪問し様々な方から直接お話をお伺いしながら、報道機関ならではの独特の価値観や文化などについて理解を深めようと努めました。
プロトタイプ開発とレビューを重ねながらUI/UXをブラッシュアップ
具体的にどのような取り組みから着手したのでしょうか?
川北:まずは、産経ニュースサイトへのトラフィック流入や回遊を促すためのデザイン改善の方針検討から始めました。具体的には、モンスターラボ側の複数のデザイナーが現行の産経ニュースサイトのUI/UXを一通りレビューし、サイト全体のサイズや幅の変更や細かなUI/UXの改善など、具体的な改善ポイントを洗い出していきました。またこれと並行して、産経ニュースサイトの読者の方々にユーザーインタビューを実施して、読者が情報収集する際の行動パターンについて理解を深めていきました。
生須:これまでも社内では「きっとこんな読者がいるかも」という仮説は立てていたのですが、このユーザーインタビューで実際に読者の生の声を聞いて、一部ではありますが、私たちが想像していた読者像が決して間違いではなかったと確認できたことは、その後の施策を検討する上で大切なデータになったと思います。
中川:それまで本格的なユーザー調査を行ったことがなかったので、本当に貴重な知見が得られたと思います。ちなみにこのときに作った資料は、今でもことあるごとに見返して参考にするほど重要な資産になりました。
実際のUI/UXの改善作業はどのように進められたのでしょうか?
阿部:レビューや調査の結果を基に、川北さんをはじめとするモンスターラボさんのデザイナーの方々と一緒にサイトのプロトタイプを制作して、それを当社の社員に実際に使ってもらってユーザービリティを検証していきました。その結果からプロトタイプをブラッシュアップして、また社内ユーザーに使ってもらうというプロセスを繰り返しながら、少しずつ品質を向上させていきました。
この過程では、モンスターラボさんからデジタルデザインに関するさまざまな知見やノウハウを学ばせていただき、大変勉強になりました。デザインツール1つとっても、それまではデザイナーごとにばらばらにツールを選定していたのですが、モンスターラボさんからFigmaの活用をご提案いただき、早速導入してみたところ一気に作業効率が向上しました。
松原:Figmaを導入してからは、PMやエンジニアの方からも直接デザイン上にコメントをもらえるようになり、認識合わせや意思決定のスピードもグッと上がったと感じています。
川北:お互いのデザインチーム同士のコミュニケーションを円滑化して知見を共有しやすいよう、リアルタイムにつながりながらペアワークを行ったのも良かった点かもしれません。そのおかげで、お互いのデザインチームのメンバー同士の仲も深まりましたね。
松原:はい。ペアワークでは同じ画面を共有しながら作業していたのでお互いの進捗や悩んでいるポイントをリアルタイムで把握することができました。相談のタイミングも掴みやすくなったので、コミュニケーションのハードルもだいぶ下がりました。
こうした取り組みの結果、具体的にどのような成果が得られましたか?
阿部:例えば会員登録フローを改善したことで、有料会員申し込みのコンバージョンレートが一気に向上しました。このほかにも2023年から2024年にかけて、UI/UXに関する細かな改善や機能強化を重ねたことで、サイトの魅力が大幅にアップしたと感じています。
川北:フォントサイズの変更や記事一覧ページのデザイン変更など、細かな改善を少しずつ積み上げていきました。そのほかにもブックマーク機能やフォロー機能など、競合他社のサイトが備えている機能はしっかりおさえつつ、さらに「業界のスタンダード」となるべく細かな改善・強化を重ねてきました。その結果2025年1月に、それまで積み重ねてきた改善の集大成となるサイトの大幅リニューアルにこぎ着けることができました。
松原:加えて、法人サービスの入会申し込みをオンライン化したのも印象に残っています。
このプロジェクトでは、ユーザー視点で業務フローを整理しながら要件定義〜UI設計までを通しで担当しました。販売店の既存業務がオンラインに置き換わった際に不都合が起こらないよう、実際にオペレーションを行う担当者へのヒアリングを重ね、業務に寄り添って細部までこだわったUI/UXを設計しました。
その結果、担当人員を他業務へアサインできるようになるなど、業務リソースの最適化を実現することができたのも大きな成果だったと感じています。
今後はデータの高度な活用を通じてさらなる会員獲得を目指す
現在でもサイト改善の作業は継続しているのでしょうか?
松原:UI/UX面の改善も引き続き行っているのですが、それに加えて2025年に入ってからは、産経iDのさらなる会員獲得に向けてデータを活用した施策にも着手しています。具体的にはGoogle Analyticsやヒートマップなどのツールを使ってサイト上でのお客さまの行動を分析して、より多くの会員獲得を目指すための施策を検討しています。
生須:現在、当社を含め各メディア企業は、デジタルチャネルを通じてお客さまに関するさまざまなデータを取得していますが、それらをどのように収益化につなげていけばいいのか、確固たる答えを持っている企業はないのではないでしょうか。こうしたデータの活用施策についても、今後モンスターラボさんにいろいろ相談させていただきなら進めていきたいと考えています。
松原:サイトのトラフィックデータだけでなく、産経iDに紐づいた各種データも収集して互いに突合することで、お客さま一人ひとりに関する理解をさらに深められるはずです。今後はこうした観点からも、ぜひデータ活用の施策に協力させていただければと考えています。
生須:産経iDの会員向けサイトのデザイン改善についても、現在モンスターラボさんに協力いただいていますし、さらには先ほどご説明したデータを活用した新たなビジネスモデルを検討する上でも、モンスターラボさんに壁打ち相手になってもらっています。今後はデザイン面だけでなく、こうしたビジネス面の課題についてもぜひ相談させていただければと考えています。
その他に何かモンスターラボに今後期待されていることがあれば教えてください。
中川:現在当社ではモバイルアプリの開発を進めているのですが、そのUI/UXの部分についてはぜひまたモンスターラボさんにお願いできればと考えています。
現在巷にはさまざまなニュースアプリが存在していますが、その多くはユーザー体験やキュレーションの面でプラットフォーム特有の制約に縛られています。それに対して当社がこれから開発するニュースアプリは、国内を代表する報道機関としての長い歴史と高い信頼感の上に立脚した「これまでにないニュース接触体験を提供できるアプリ」にしていきたいと考えています。そのためにもぜひモンスターラボさんには、今後とも強力なご支援をお願いできればと思います。