国産オンラインストレージサービス「セキュアSAMBA」を開発・提供する株式会社kubellストレージ。同社はセキュアSAMBAのユーザーに、より価値の高いサービスを迅速に提供すべく、2023年から開発・運用体制の変革に取り組んできました。その一環として、開発体制・プロセスを根本的に見直し、モンスターラボベトナムとの協業によるオフショア開発体制へと全面的に移行することにしました。
この大胆な体制・プロセス変革に至った背景とその経緯、さらにはその成果について、kubellストレージにおいてセキュアSAMBAのプロダクトマネージャーとして開発を率いる本多太一氏と、モンスターラボベトナムのダナン拠点の現地責任者を務める水野浩和に語ってもらいました。
取材協力:
◾︎ kubellストレージ
本多 太一 様
◾︎ モンスターラボベトナム
水野 浩和(オンライン参加)
開発生産性の向上を図りモンスターラボベトナムとの協業にチャレンジ
まずkubellストレージ様の事業概要について教えてください。
本多:弊社は、ビジネスチャットサービス「Chatwork」を展開する株式会社kubellのグループ会社として、オンラインストレージサービス「セキュアSAMBA」を開発・提供している会社です。
セキュアSAMBAは国産のオンラインストレージサービスとして既に10年以上の歴史があり、大企業から中小企業、官公庁に至るまで、さまざまな規模や業種のお客さま8000社以上(2024年5月時点)に導入されており、利便性やセキュリティ対策、サポート体制などの面で高く評価いただいています。
現在セキュアSAMBAの開発や運用保守を、モンスターラボベトナムに依頼されていますね。
本多:はい。私は2023年1月にkubellストレージにジョインしたのですが、当時は社内の開発体制が十分に整備されておらず、開発生産性は多くの改善の余地がある状態でした。業務委託のエンジニア4、5名で開発・運用チームを構成していたのですが、スキルやチームビルディングの面で多くの課題があり、新機能の開発・リリースや既存機能の改善が思うように進められていませんでした。
こうした課題を解決するために試行錯誤していた折、同じkubellグループに属する株式会社ミナジンの方からモンスターラボベトナムの存在について教えていただきました。ミナジン社では以前からモンスターラボベトナムに開発・運用作業を依頼しており、確かな実績があるとのことでしたので、ぜひ紹介してほしいとお願いしました。
そうして、ミナジン社の担当者の方から、モンスターラボベトナムのダナン拠点の責任者である水野さんを紹介していただき、まずは1カ月間のトライアルという形でオフショア開発に初挑戦してみることにしました。
それまでオフショア開発の経験はあったのでしょうか。
本多:実は私自身はオフショア開発の経験はありませんでした。ただ、ミナジン社の担当者の方からのフォローもあり、不安を感じることは特にありませんでした。
なにより、人月単価を抑えて多くの工数を確保することができ、当時課題であった開発生産性についても改善が期待できると見込んでいたため、ぜひ海外拠点とのプロジェクト推進に挑戦したいと考えていました。
1カ月間のトライアルで既存の開発チームを凌ぐ高いパフォーマンスを証明
トライアルでは、具体的にどのような作業を行ったのでしょうか。
本多:当時、ユーザー数が増えてサービス全体のパフォーマンスが低下するという課題に対して、なかなか改善に向けたアクションが取れずにいました。そこでこの問題の原因調査と修正方法の提案をモンスターラボベトナムにお願いしてみたところ、1カ月以内に期待値以上のアウトプットを出していただきました。既存の開発チームと比べても高いパフォーマンスを発揮していただけたので、正式に開発や運用保守の作業をお願いすることに決めました。
以前の開発・運用体制から、どのようにモンスターラボベトナムに作業を移管されたのでしょうか。
本多:引継ぎ作業のために既存チームのメンバー1名は残しましたが、それ以外は一気にモンスターラボベトナムのチームに切り替えました。当時は開発ドキュメントも十分に整備されていなかったのですが、テスト仕様書やソースコードなど限られた情報を基に、モンスターラボベトナムのメンバーの方々に短期間の内にサービスの仕様を把握していただけました。
水野:本多さんにモンスターラボベトナムのダナン拠点に直接お越しいただき、チームメンバーと直接顔を合わせてコミュニケーションをとってもらいました。その際に「こちらが求める期待値はここなので、この水準を満たしてほしい」というふうに、個々のメンバーに対して期待値を明確に示していただけたのはとても大きかったです。
弊社ベトナム拠点に所属するメンバーは基本的に皆真面目で、こちらが期待していることを明確に伝えると「その期待に応えよう!」と一生懸命最善をつくしてくれますので、本多さんから直接、最初に期待値を明示していただけたのはとても助かりました。逆に日本人同士の「阿吽の呼吸」のようなものを前提にして、期待値を曖昧にしたまま作業を進めてしまうと、往々にして思い描いているものと異なるものが出来上がってきます。なので今回のように、あらかじめお互いに期待値について合意形成をしておくことは、海外拠点でのプロジェクトを成功に導く上で重要なポイントです。
要件に応じて適切なスキルを持つエンジニアを迅速にアサイン
現在はどのようなプロセスや体制の下で、モンスターラボベトナムとの協業を進めているのでしょうか。
本多:セキュアSAMBAの新機能開発からバグの調査・修正、テスト、インフラ設定、さらには関連技術情報のリサーチに至るまで、非常に幅広い作業をモンスターラボベトナムに依頼しています。具体的な仕事の進め方としては、日本語ができるベトナム人の方と毎日30分程度Web会議でミーティングを実施し、各タスクの進捗確認や新規案件の相談などを行っています。それ以外にも常時チャットツールで現地メンバーと、リアルタイムでコミュニケーションをとれる体制を取っています。
水野:モンスターラボベトナム側では、常時10名前後のメンバーがチームに参画していて、各々が持つスキルセットに応じた作業を遂行しています。
モンスターラボはもともとWebサイト構築やモバイルアプリ開発の案件を数多く手掛けていることから、ダナン拠点にはWebやモバイル開発のスキルに特化したエンジニアが多いのですが、セキュアSAMBAは元々がWindowsアプリであるため、Windowsアプリの開発スキルをはじめこれまでとは異なるスキルセットが求められていました。そこで、今回のプロジェクトにおいては日系企業の基幹システム開発の案件を数多く手掛けていたハノイ拠点のエンジニアを必要に応じてアサインするなど、kubellストレージ様のご要望に柔軟にお応えできるよう、都度開発計画にそってチーム構成を組み替えていきました。
本多:日本ではいわゆる「フルスタックエンジニア」が増えてきている一方で、ベトナムでは「PHP専門」「JavaScript専門」といったように、1つの技術に特化したエンジニアが大半を占めています。この違いには当初戸惑いもありましたが、「来月からこういうスキルを持つエンジニアをアサインしてほしい」と頼むと即座に対応していただけるので、結果的に非常に幅広い技術領域をカバーできています。
これが日本人のエンジニアであれば、例えば2週間単位で人をころころ入れ替えるような人員配置は到底不可能です。プロジェクトの体制を柔軟に拡大・縮小できて、かつ方向転換もしやすいという点は、モンスターラボベトナムとの協業における大きなメリットだと感じています。
チケット消化数が10~20倍に向上するなど大幅な生産性アップを実現
開発・運用体制をモンスターラボベトナムに移管されて、具体的にどのような効果を実感されていますか。
本多:最も大きな成果を実感できたのが、「ドライブアプリ」と呼ばれる新機能の開発です。これはセキュアSAMBAのオンラインストレージの機能を、Windowsのローカルドライブと同じ感覚で利用できるよう、「Windows エクスプローラー」に似たUIと操作性を提供するアプリケーションです。モンスターラボベトナムに開発体制を切り替える1年半前から開発を進めていたのですが、生産性がなかなか上がらずなかなかリリースまでこぎ着けることができずにいました。
しかしモンスターラボベトナムのエンジニア3、4名にプロジェクトに入っていただいてからは、同時並行でテストを実施することであっという間にバグを潰すことができ、無事リリースまでこぎ着けることができました。この機能がリリースできたおかげでセキュアSAMBAの売上が順調に伸びるようになりました。社内でもこの成果は高く評価されて、kubellグループ内での「営業MVP」の表彰を受けることができました。
以前の開発・運用体制と比べて、生産性はどの程度向上しましたか。
本多:チケットの消化数で比較すると、以前と比べて10~20倍ほど向上しています。チームのメンバー数自体も2~3倍に増えているので、その分の生産性向上は当然想定していましたが、実際には人数増加の効果をはるかに上回る成果が上がっているので、エンジニア1人1人のスキルや生産性の差は明らかだと思います。
オフショアのスケールメリットをより生かしたサービス開発に向けて
今後モンスターラボベトナムとの協業を通じて、どんな事を実現していきたいとお考えですか?
本多:セキュアSAMBAのようなオンラインストレージサービスは、それ自体は単なる「データを入れる箱」に過ぎませんから、競合サービスとの差別化を図るためにはオンラインストレージにさまざまな付加価値機能を付加し、よりお客さまの業務効率化に寄与できるサービスを提供していく必要があると考えています。
そこでまずはお客さまが抱えている課題やニーズを理解するために、さまざまな機能を開発して短期間のうちに市場にリリースしていきたいと考えています。当然そのためには多くの開発リソースが必要になるのですが、その点モンスターラボベトナムなら多くの開発リソースを柔軟に提供していただけるので、同時並行で複数のサービスを開発・リリースしながらPDCAサイクルを高速に回していけるのではないかと考えています。
水野:モンスターラボベトナムとしても、多様なスキルを持つエンジニアのリソースを柔軟にアサインしていきながら、今後もkubellストレージさんの事業発展に貢献していきたいと考えています。