目次
前編では、愛犬ニコラのエピソードを通じて、AI活用がうまくいかない原因は「AIの能力不足」ではなく「人間側の理想像の曖昧さ」にあることを示した。
後編では、その理想をどう構造化し、AIと共有し、開発に落とし込むか ― コンセプト駆動の「SST&F」構造と実践方法を解説する。
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コンセプト駆動の中核は、STORY、SCENE、TICKET&FUNCTION(以下、STR・SCN・TKT & FUN)の構造である。
最良の物語(STR)をコンセプトとして打ち出し、得られる成果や結果(SCN)で解像度を上げ、実行すべき作業(TKT)をチケットとして管理し、流用可能な共通部品(FUN)をClass・API単位で設計する。


STRは「Why」を、SCNは「What」を、TKTは「Who/When/How much」を担う。上から順に定義することで、理想から逆算しつつ現実に根差した計画が導かれる。
TKTが担うのは、コードを書く作業だけではない。他組織とのインターフェース調整、社内承認の取得、データの移行作業 ― SCNを成立させるために不可欠なあらゆる作業を構造化する層だ。STRとSCNが地図なら、TKTは作業指示書である。
そしてここがSST&Fの真の価値なのだが、TKTは人間だけでなく、AIも切る。
人間が「こういう場面を実現したい」とSCNを語れば、AIがそのSCNを実現するために必要なTKTを分解し、自らチケットを起票し、優先度をつけ、実行に移す。
人間が理想(STR)と場面(SCN)を語り、AIがそれを作業(TKT)に翻訳する。この役割分担が、AI時代のプロジェクト管理の姿だ。
FUNはSST階層の外にある。SCNやTKTから参照される、流用可能な共通部品の台帳だ。

FUNは十徳ナイフではなくハサミだ。ひとつの道具がひとつの仕事をする。
SCNが「こういう場面で、こう動く」と描写し、TKTが「そのためにFUN-AとFUN-Bを使って実装せよ」と指示する。FUN自体は、次のSCNでも再利用される。
あるクライアントが「社内の問い合わせ対応をAIで効率化したい」と相談に来た。一見シンプルな要望だ。しかし「それができたら、どんな世界が広がりますか?」と問いかけると、具体的な場面が次々と語られ始めた。
たとえば新人の入社初日。社内規程や申請手順がわからず先輩に聞き回る代わりに、AIに質問すれば根拠となる社内文書付きで即座に回答が返る。
経理部門では、過去の稟議事例をAIが横断検索し、「似た案件ではこの承認ルートが使われました」と提案してくれる。
これらはすべてSCNだ。場面や情景を語ることは比較的たやすい。しかし、それらが繋がった先にある「理想の全体像」を語るのは難しい。なぜなら想像が必要だからだ。
たとえば、この文章を書いている私という人物像を想像できるだろうか? ぜひ直接話してほしい、きっとイメージギャップがあるはずだ。
このようなギャップを埋め、個々の場面をSTRに紡ぎ、理想を想像し、言葉に落とすこと ― それが我々コンサルタントの役割である。
SST&Fの構造で整理すると
・STR:「社員が迷わず、すぐに答えにたどり着ける世界」
・SCN:新人が社内規程を質問するシーン、経理が過去の稟議事例を探すシーン
・TKT:社内文書のデータ整備、FAQ自動生成の仕組み構築、既存システムとの連携調整
・FUN:文書検索エンジン、FAQ生成ツール、チャットインターフェース
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AIが圧倒的に強いのはSCNの拡張だ。シナリオの種を食わせると大量の候補を提案してくる。ただし的外れも含まれる。
ここでフィルターとして機能するのが、コンセプトとして打ち出したSTRだ。「ニコラを出して欲しい」のと同じように、STRに照らして適切なシナリオだけに絞る。FUNの設計でも、最新の技術スタックを踏まえた構成をAIが提案できる。
人間がシナリオの「種」を作り、コンサルタントがストーリーに翻訳し、AIが補完・実装を加速する。この三者の役割分担がコンセプト駆動の実行モデルである。
従来の開発は機能リストから出発したため、似た機能が乱立しがちだった。コンセプト駆動はストーリーから出発し、FUNを流用可能な共通部品として設計する。全体の一貫性は物語が、効率性は共通機能が担保する。
そしてこの構造は一方通行ではない。TKTの実装で得た知見がSCNの精度を高め、SCNの変化がSTRの解像度を上げる。理想と現実のフィードバックループを繰り返す ― アジャイルの思想とコンセプト駆動が融合した姿である。

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事業方針、ミッション、ビジョン、バリュー。目標を文字で言語化することには大きな意味がある。チームの方向性を揃え、判断に迷ったときの拠り所になる。
しかし、文字だけで「未来の具体的な場面」を全員が同じように思い描けるかというと、そこには限界がある。「顧客第一」と聞いて全員が同じ場面を思い浮かべるだろうか。文字は抽象を伝えるのに適しているが、事実描写には不向きなのだ。
たとえば4コマ漫画を想像してほしい。場面、登場人物、ストーリー、オチがあり、読んだ人が同じ状況を具体的にイメージできる。文字によるミッションステートメントでは解釈がばらつくが、情景として描かれた場面は「事実」として共有される。画像や動画は、非言語領域を含めた具体を文字よりはるかに効率よく伝えるメディアなのだ。
STRは文字だけで完結する必要はない。イメージや動画で没入させ、全員が「ああ、これを作りたいのか」と感じる状態。そのリアルさをAIにも共有することで、コンセプト駆動は本来の力を発揮する。デザイナーのビジュアルスキルと、コンセプト駆動の構造化スキルが合流する地点 ― そこに新しいプロダクト開発の形がある。

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コンセプト駆動は、ウォーターフォールの計画性とアジャイルの柔軟性を、物語の力で統合する。
STRが「北極星(ノーススターメトリック)」として計画性を担い、SCNとフィードバックループが柔軟性を担う。TKTがアジャイルのスプリントチケットに相当し、FUNがスプリント間で再利用される資産になる。
予算がないことは止まる理由にならない。AIエンジンまで全部導入する予算がなくても、まず検知モジュールだけで小さく始められる。
ウォーターフォールなら「受注に至りませんでした」で終わるが、コンセプト駆動なら理想像を共有した上で途中までやっておく。半歩でも前進する。STR001を達成したら次はSTR002を考える ― これは継続的な価値創出のサイクルであり、コンセプト駆動が目指す開発の本質的な姿でもある。

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前編の問題提起から出発し、後編では具体的な方法論を展開してきた。ニコラの証明写真から始まった話は、システム開発の本質にまで行き着いた。
AIは天才だが視野が狭い。人間は視野が広いがゴールが曖昧だ。この二者が協働するために、「理想の物語」を構造化し共有する仕組みが必要だ。それがコンセプト駆動であり、SST&F ― STR・SCN・TKTの三層構造と、FUNという共通部品台帳である。
最良の物語を先に描く。場面で解像度を上げる。チケットで実行を管理する。共通部品で効率化する。その構造をAIと共有する。
夢をリアルに語る力が、開発を駆動する。それがコンセプト駆動である。
モンスターラボでは、世界各国のスペシャリストがチームを組み、さまざまな業界・業種のデジタルサービス/プロダクト開発から、UX/UIデザイン、ブランド開発、グロースハックまで幅広く支援しています。
ビジネスの上流工程からデジタル領域の知見を持つコンサルタントが中心となり、課題に合わせたソリューションを提案します。さらに、先端テクノロジーを含むあらゆるプラットフォームに対応できる開発体制を整えています。その他にも、アジャイル開発による柔軟な開発進行や、国内外のリソースを活用したスケーラブルな開発体制の構築、リリース後の保守運用や品質向上支援まで、さまざまなニーズに対応しています。
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