2024年4月、東京ドームシティを運営する株式会社東京ドームより、新スマートフォンアプリ「東京ドームシティアプリ」がリリースされました。このアプリは、東京ドームシティにまつわるさまざまな情報を発信したり、クーポンを発行したりすることで、顧客にこれまでにない新たな顧客体験をデジタルチャネルを通じて提供することを目的に開発されました。
モンスターラボは、この東京ドームシティアプリのUI/UX設計からアプリ開発までを支援しましたが、その過程においては東京ドームとして初の試みとなるアジャイル開発の手法を取り入れました。モンスターラボのメンバーには馴染みのあるアジャイル開発も、東京ドームの皆様にとっては初めての挑戦となったため当初は戸惑いもあったものの、徐々にアジャイルのメリットを理解し、文化に慣れはじめてきているといいます。このアジャイル開発の導入の経緯や効果、さらには今後の展望などについて、東京ドーム デジタル戦略部 デジタルサービスグループ 係長 赤木葉月様と、モンスターラボ側の開発チームを統括する加藤愛貴に聞きました。
取材協力:
◾︎ 東京ドームシティ
赤木 葉月 様(株式会社東京ドーム)
◾︎ モンスターラボ
加藤 愛貴(プロジェクトマネージャー)
多種多様なステークホルダーの声を反映させるためにアジャイル開発手法を採用
今回の東京ドームシティアプリの開発プロジェクトでは、どのようなきっかけでアジャイル開発を取り入れようと思い立ったのでしょうか。
赤木:弊社のシステム開発プロジェクトでは、これまではもっぱらウォーターフォールの手法をとってきており、アジャイル開発の経験はまったくありませんでした。しかし今回はモンスターラボさんからアジャイル開発の提案をいただき、これを機に初めてチャレンジしてみることにしました。
加藤:もともとモンスターラボが、ユーザーからのフィードバックを受けて継続的にプロダクトを改善していくアジャイル開発の手法を得意としていることもあったのですが、やはり今回の東京ドームシティアプリの開発プロジェクトにはアジャイル開発のやり方が極めて適していると考えていました。
東京ドームシティにはさまざまなアミューズメント施設があり、それぞれに異なる属性のお客さまが存在しますから、アプリに対しても多種多様な意見や反応が内外から多数寄せられることが予想されました。それらの声を適宜拾いながらアプリを改善していくためには、アジャイル開発の手法が最も適していると考えました。
赤木:そうですね。東京ドームシティには実にさまざまなお客さまがいて、それぞれが異なる情報や体験を求めていたり、異なる課題を抱えていらっしゃいます。従って、これらをウォーターフォールの要件定義フェーズであらかじめすべて漏れなく定義するのは、到底無理だろうと考えていました。その点アジャイルであれば、適宜課題を拾い集めながら短いサイクルの中で検証・開発・リリースを繰り返せるので、今回のプロジェクトとは極めて親和性が高いと判断しました。
プロダクトオーナーの熱意とコミットメントが成功の最大要因
アジャイル開発手法に則った今回のプロジェクトは、具体的にはどのようなプロセスで進められたのでしょうか。
加藤:モンスターラボ側では、基本的にスクラムのフレームワークに則ってプロジェクトを運営しています。1週間のスプリントを設定して、週に1回は必ず何らかの機能や改善をリリースするようプロジェクトを回す形です。開発プロジェクトが立ち上がったのが2023年10月で、その半年後の2024年4月にアプリの初代バージョンがリリースされましたが、その後も引き続き毎週リリースを重ねながら細かな修正やバージョンアップを繰り返しています。
赤木:東京ドーム側の体制としては私がプロダクトオーナーを務めて、そのほかにプロジェクトマネジャーや技術面のサポート役として数人が継続的にプロジェクトに参画していました。プロジェクトではスクラムのフレームワークに則って毎日朝会を開催してプロジェクトメンバー間で情報を共有していましたが、私自身もできる限りこの朝会に参加してその場で仕様を決定するなど、リスク事項を早めに洗い出せるよう心掛けていました。
加藤:このようにプロダクトオーナーである赤木さんがプロジェクトにフルコミットしていただいたことが、今回のプロジェクトが成功した最大の要因だったと思っています。弊社のこれまでのプロジェクト実績と照らし合わせてみても、やはりプロダクトオーナーの熱意やモチベーションがプロジェクトの成否を大きく左右していると思います。その点赤木さんは、アプリ開発のプロジェクトもアジャイル開発も初めての経験だったにもかかわらず、短期間のうちにキャッチアップして熱意を持って取り組んでいただけたので、大変ありがたかったですね。
赤木:私自身、システム開発プロジェクトに携わった経験はそれまでまったくありませんでしたし、当初は基本的なデジタルの用語すら分からない状態でした。でももともとブランディングやマーケティングの担当としてCX戦略を策定する中で、「いつかはデジタルの力で顧客体験を向上させるプロジェクトをやってみたい」とずっと思っていたので、今回のアプリ開発の話が降ってきたときには「これはやるしかない!」と腹をくくって臨みました。
加藤:赤木さん以外の東京ドーム側のメンバーの方々も、皆さん新卒で入社された後に施設の現場を一定期間経験した後に営業企画や開発部門に異動されているので、現場の課題を正確に理解されているのがとても印象的でした。しかも赤木さんと同様に、皆さん非常に熱意を持って取り組んでいただけたので、開発を担当する私たちとしても「これ以上の環境はない」というぐらいやりやすかったですね。実際のところ、クライアントが初めてアジャイル開発にチャレンジするプロジェクトで、これほどうまくいった例はかつてなかったと思います。
ユーザーからのフィードバックをアプリの仕様に素早く反映
アジャイル開発を採用したことによって、ユーザーからのフィードバックをアプリの仕様に反映させやすくなった実感はありますか?
赤木:東京ドームシティアプリにはアンケート機能が備わっているので、これを通じて多くのお客さまからフィードバックをいただいています。一例を挙げると、「アトラクション施設を“待ち時間が長い順”で見たい」という要望をいただいたことがありました。
それまで私たちは、「なるべく早く、待たずにアトラクションに乗りたいだろうから、待ち時間が短い順で表示すると便利だろう」という思いのもとにアプリを設計していたのですが、お客さまからのフィードバックを拾うことで新たな気付きを得て、すぐモンスターラボさんに待ち時間が長い順、すなわち人気順にアトラクション並べ替える機能を追加してもらいました。こうしてお客さまからのフィードバックをすぐにアプリに反映できるのは、やはりアジャイル開発ならではの強みだと思います。
加藤:このようにアプリの機能がこまめにアップデートされていく様子を、東京ドームシティの施設担当者の方々もたびたび目の当たりにしているので、「これだけ柔軟に対応できるのであれば、我々も要望を上げてみようか」と思ってもらいやすくなるのではと考えています。
赤木:東京ドーム社内のポータルサイトでも、アプリのアップデート内容を毎週発信するようにしています。その他にも、他部署の社員との何気ない会話の中から潜在的なニーズや課題を掘り出したり、あるいは部署によってはフィードバックシートのようなものを作って社員目線で気付いたことをリストアップしてもらっています。こうした活動が功を奏して、最近では施設担当者の方から直接「アプリを使ってこんなことができないのか?」と相談をもらうことも増えてきました。
一方で、こうしたアジャイル開発のメリットを、社内にきちんと浸透させられていないことも事実です。こまめにリリースを重ねていくのがアジャイルの特徴ですが、やはりいったんリリースした時点で「これが完成形なんだ」と思われてしまったり、「いつまでにこの機能を作ります」と先々の計画を明確に断言できないことで不安を与えてしまっているような雰囲気もあります。このあたりについては、今後時間をかけながら少しずつ理解を得ていかなければいけないと考えています。
ライフステージの変化を通して長らく東京ドームシティを愛してもらえるために
東京ドームシティアプリをリリースされて既に半年弱が経ちますが、周囲からどのような反応が寄せられていますか?
赤木:このアプリが、東京ドームシティの顧客体験を向上させる上で極めて重要なタッチポイントであるということを、社員や施設担当者に徐々に理解してもらえるようになっています。アジャイル開発自体への理解はまだ十分ではありませんが、アプリの機能を柔軟に拡張できること自体はかなり認知されてきたので、施設担当者から「アプリでこんなキャンペーンをやってみたい」「アプリでこういうクーポンをダウンロードできるようにしたい」といったアイデアを出してもらえるようになりました。
あとは、アプリのデザインについてとても好意的な反応が多いですね。これまで東京ドームシティのコンテンツのデザインは、どちらかというと「ポップ」「ファミリー向け」という色合いが強かったのですが、今回開発したアプリでは「幅広い顧客層にマッチするデザイン」というガイドラインのもとで、洗練された落ち着いたデザインを採用しています。これに対して「見た目がとてもいいね」という声が多く寄せられています。
東京ドームシティの施設は多種多様ですから、さまざまな年齢層のお客さまが訪れますよね。
赤木:そうですね。私自身のこれまでの人生を振り返ってみても、幼少のころは東京ドームで野球を観戦した思い出が強く残っていますし、社会に出てからは自分が働く職場になり、さらに子供ができてからは一緒に遊びに来たりと、人生の節目節目で、東京ドームシティとともに大切な思い出を作ってきました。私の人生を振り返る中で、東京ドームシティはなくてはならない存在です。
こうしてライフステージが変わっても訪れることができる場というのは、他にはなかなかないと思います。長きにわたって東京ドームシティを訪れてくださっている方々に、もっと東京ドームシティを好きになっていただくために、また、これから初めていらしてくださる方々に「東京ドームシティって素敵な場所だな」と思っていただくために、このアプリがどのような役目を果たせるのか、これからもずっと考え続けていきたいと思っています。