東京都文京区後楽の地に1937年に開業した後楽園スタジアムを発祥とし、現在はその後継に当たる東京ドームを中心に多種多様なレジャー施設が集結した「東京ドームシティ」。都内最大級のエンターテイメントシティとして連日多くの利用客で賑わいを見せていますが、運営元の株式会社東京ドームではその魅力をさらに高めるべく、2023年から大規模なリニューアルを敢行するとともにブランディング戦略も一新しました。
この新たなブランディング戦略の柱として同社が据えたのが顧客体験をさらに向上させるための「CX戦略」であり、その取り組みは2024年4月にリリースされた「東京ドームシティアプリ」として結実しました。モンスターラボはこのアプリの設計・開発プロジェクトに参画し、周辺のデジタル施策も含めて全面的な支援を提供しました。同プロジェクトの背景や経緯、さらには将来展望について、東京ドーム デジタル戦略部 デジタルサービスグループ 係長 赤木葉月様と、モンスターラボ側のプロジェクトメンバーとして参画した加藤愛貴、川北奈津に語ってもらいました。
取材協力:
◾︎ 東京ドームシティ
赤木 葉月 様(株式会社東京ドーム)
◾︎ モンスターラボ
加藤 愛貴(プロジェクトマネージャー) / 川北 奈津(UXディレクター)
多種多様な施設を横断した東京ドームシティ全体のブランディングを一新
まずは東京ドームシティの概要について教えてください。
赤木:1937年に開業した後楽園スタジアムに端を発し、その後ボウリングブームが起きた際にはボウリング場を設立するなど、常に時代のトレンドを先取りしたアミューズメント施設を導入していきながら日本のレジャーブームをけん引してきました。2022年には東京ドームをリニューアルし、その翌年からは東京ドームシティ全体の大規模リニューアルの一環としてサッカー施設やフードホール、吉本興業の劇場などを新設しました。
このように時代の要請に応じて都度さまざまなアミューズメント施設を導入してきたのですが、その分どうしても東京ドームシティ全体として見た場合には統一感に欠ける面が否めませんでした。また東京ドームはおかげ様で全国的に高い知名度を得ていますが、その一方で東京ドームシティの名前は残念ながら決して広く知られているとは言えません。
折しもコロナ禍に見舞われて来場者の数が減っていた中、東京ドームシティの魅力をさらにアピールするためにはやはり個々の施設をアピールするだけでなく、「街全体」としての魅力を訴求してく必要があると考え、大規模リニューアルとともに東京ドームシティ全体のブランディング戦略を新たに見直すことになりました。
具体的にはどのような施策を打たれたのでしょうか。
赤木:2020年ごろから顧客調査などを重ね、現状の東京ドームシティが抱える課題の把握や分析、またそれらを解決するための戦略策定を進めてきました。その結果、2023年の大規模リニューアルに合わせて「心が動く、心に残る。」というタグラインを新たに打ち出し、ロゴも世界的に珍しい可変性のあるロゴを採用するなど、ブランディングを刷新しました。その中で私は特に、顧客体験を向上させるためのCX戦略の策定に主に携わってきました。
東京ドームシティアプリの開発も、そうしたCX戦略の一環として行われたわけですね。
赤木:その通りです。顧客体験を向上させるためには、施設そのものを通じた体験だけでなく、デジタルのタッチポイントも通じて優れた顧客体験を提供していく必要があります。このデジタル施策の目玉として位置付けていたのが、今回新たに開発した「東京ドームシティアプリ」でした。
「東京ドームシティアプリ」を通じた優れた顧客体験の提供を目指す
今回、この東京ドームシティアプリのUI/UXデザインおよび開発をモンスターラボが担当させていただきました。
赤木:複数のベンダーさんに提案を依頼したのですが、モンスターラボさんの提案プレゼンからは一際高い熱意を感じましたし、実際に東京ドームシティの施設を体験していただくなどして、単に1ベンダーとしてではなく1ユーザーとして、東京ドーム社員と同じように高い当事者意識を持って取り組んでいただけるのではないかと感じ、モンスターラボさんに開発を依頼することに決めました。
加藤:提案の依頼をいただいた段階で、弊社としても東京ドームシティさまの顧客体験やブランド理念に対する「強い思い」をひしひしと感じていました。既に課題抽出や戦略策定は行われていたので、これをいち早く理解してキャッチアップするために、プロジェクトメンバーが各々の時間を使って東京ドームシティを訪れて、実際に施設を体験しながら課題の理解に努めました。
また東京ドームシティさま側の担当者の方々も今回のプロジェクトには並々ならぬ熱意をお持ちで、しかも皆さん入社後数年間は各施設の現場で働いた経験をお持ちなので、現場の課題感に対する理解度が非常に高い点がとても印象的でした。
今回開発されたアプリを通じて、どのようなゴールを達成したいとお考えだったのでしょうか。
赤木:とにかく、東京ドームシティのブランド理念を実現できるアプリケーションを作りたいと考えていました。私たちは「だれでも、いつでも、いつまでも なにげない日が特別に、特別な日がもっと特別になる ここにしかないエンターテインメントシティへ」というステートメントを掲げているのですが、まさにこれをデジタルによって具現化し、さらにその先の可能性まで感じられる発展性のある施策を目指していました。
川北:モンスターラボの役割としては、東京ドームシティさまのこうした思いや戦略を理解した上で、これを具体的な施策に落とし込むことにありました。具体的な進め方としては、まずは顧客が課題として感じている「ペイン」を解消し、次に付加価値である「ゲイン」を増幅するという順番で施策を検討し、アプリやその他の成果へと落とし込んでいきました。
まずは「どこに何があるか、どこで何ができるか」の課題に対してソリューションの仮説検証のためにユーザー調査を実施し、解決できるかの検証と利用状況を具体的に把握しました。そこでまずは、これらの課題を解決できる手段をアプリに実装していくことを当面の目標に据えました。
東京ドームとモンスターラボが「ワンチーム」になってプロジェクトを進行
プロジェクトは具体的にどのように進められたのでしょうか。
赤木:私がアプリのプロダクトオーナーとして、開発プロジェクト全般の統括の任にあたりました。東京ドームシティ側のプロジェクトメンバーは、マーケティングや運用、データ分析、開発などさまざまなチームから総勢30人ほどが参画しました。そのほかにも、必要に応じて各施設の担当者にも適宜加わってもらいました。
加藤:私はモンスターラボ側でプロジェクトを統括しながら開発チームも指揮しているのですが、このプロジェクト自体が非常にチャレンジングで、かつ社会的なインパクトも大きなものだったので、チームは社内で自ら手を挙げて参画したメンバーで多く構成されています。実際のところ、自発的に東京ドームシティの施設を体験しにいったり、率先して海外事例をリサーチするなど、モチベーションの高いメンバーが集まったと思います。
川北:私はUI/UXデザインチームを担当しているのですが、やはり今回のプロジェクトの特性を加味して、CX戦略をきちんと理解してデザインに落とし込めるスキルを持ったメンバーをアサインしました。また、さまざまな施設の担当者やマーケティング部門の方とも密接に連携していく必要があったので、コミュニケーション能力もかなり重視しました。
加藤:基本的には、開発とデザインそれぞれの関係者が集まるリモートのミーティングを週2、3回の頻度で行いながらプロジェクトを進行していきましたが、それ以外にも実際に東京ドームシティに出向いて各施設を体験させてもらったり、施設の担当者の方に直接話をうかがったりと、リアルの体験をとても重視していた点が印象に残っています。
赤木:プロジェクト立ち上げ当初に、モンスターラボさんも交えてプロジェクトメンバー全員で施設体験を行いましたよね。あれは施設の担当者やお客様についての理解を深めていただくことはもちろんのこと、プロジェクトメンバー間の信頼関係や絆を深める上でもいいきっかけになったと思います。
川北:赤木さんとの仕事は、「ベンダーとクライアント」の関係性というよりは、本当にワンチームとして同じ目標にともに向かっているという感覚がとても強いですね。お互いに離れた場所にいてもオンラインで常時繋ぎっぱなしにして、一緒に作業するなどチームでのコミュニケーションの工夫をしています。赤木さんにもこのやり方を取り入れていただいて、いつでも互いにすぐコミュニケーションがとれる状態でプロジェクトを進めています。
赤木:それに、川北さんと加藤さんには週2、3日は弊社のオフィスにあるモンスターラボ専用のコーナーに常駐していただいており、何かあったときにはすぐ顔を合わせて相談の乗ってもらえるのでとても助かっています。本当に「一緒に考えている」「一緒に作っている」ということが実感できるので、私自身も日に日にプロジェクトにのめり込んでいる実感がありますね。
アプリを通じて顧客に「ワクワク感」をさらに効果的に伝えていく
東京ドームシティアプリは2024年4月にリリースされましたが、社内外からどのような反響がありましたか?
赤木:リリース当初はこのアプリで何ができるのか、施設担当者の間ではあまり知られていなかったのですが、社内ポータルでアプリの機能やアップデートを紹介したり、各施設の担当者に「アプリを通じてこんなクーポンを配布してみてはどうでしょう?」とこちらから提案を行ったりした結果、今ではむしろ施設担当者の方から「アプリでこんなキャンペーンを打ちたい」「こんなクーポンをダウンロードできるようにしたい」と積極的に提案してもらえるようになりました。現場の方々にも、このアプリが顧客体験を向上させる上で極めて重要なタッチポイントとなり得ることを理解してもらえていると思います。
2024年9月には「イラストマップ」の機能が新たに加わりましたね。
赤木:当初は東京ドームシティ内の地図情報を、Googleマップの機能をマッシュアップして実現していたのですが、先ほど川北さんに説明いただいたように、一定数のお客さまが「どこに何があるか分からない」という課題を抱えていることが分かりました。そこでこの課題を解決するとともに、東京ドームシティのエンタテイメント施設としての「ワクワク感」をより分かりやすく伝えられるよう、イラストで東京ドームシティ内マップを新たに制作しました。
川北:モンスターラボのデザインチームでもワクワク感をうまく表現できるイラストデザインと、地図としての機能性を両立できるUI設計をさまざまな角度から検討を重ねて、最終的に現在の仕様に至りました。
またアプリ以外にも、東京ドームシティ内に掲示するポスターやPOPなどさまざまなコンテンツのデザインを手掛けています。これらに関してもアプリのコンセプトや、東京ドームさまが定めているデザインガイドラインとの一貫性を維持しつつ、ブランドイメージや世界観をより効果的に表現できる方法を模索しています。ちなみに現在、これらの施策の効果をデータを使って定量的に評価する取り組みも進めているところです。
赤木:私たちもそうした「情緒的な価値」というものをとても重視していて、アプリに関してもこれからさらに「ワクワク感」のような情緒的価値を高めていきたいと考えています。
またこれと合わせて、今後は「CXループ」の実現も目指していきたいと考えています。具体的には「発見」「計画」「目的達成」の3つの体験のサイクルをアプリ内で完結させることが理想のUXだと考えていて、これを「CXループ」として定義しています。これまでの施策は主に「発見」のフェーズにフォーカスしたものでしたが、今後は「計画」「目的達成」のフェーズをさらに強化すべく、引き続きモンスターラボさんの協力の下でアプリの機能を強化していきながら、お客さまにより魅力的な体験を提供していきたいと考えています。