2019年6月27日、鹿児島市内の鹿児島銀行本店別館ビル1-2Fに完全キャッシュレス商業施設「よかど鹿児島」がオープン。まだキャッシュレス決済があまり浸透していない地方都市に最新テクノロジーを駆使した商業施設が登場したことで大きな注目を集めています。

キャッシュレス決済の普及を通じて地域振興を目指す鹿児島銀行は、施設のオープンに合わせて独自のキャッシュレス決済アプリ「Payどん」を開発。地域のリーディングバンクが主体となって、地域商流のデジタルトランスフォーメーション(DX)が着実に進められています。

そんな「Payどん」の開発に際して、鹿児島銀行が最初に直面した問題が“アプリ開発の経験がほとんどなかった”こと。初期開発をベンダーと伴走して進めながら、その過程でリリース以降の新機能追加・サービスの運用を内製化できる体制づくりが求められていました。
モンスター・ラボでは「Payどん」の設計〜実装〜テスト〜リリースまでのあらゆる工程をサポートするとともに、開発プロジェクトを通じてトランスファー型の技術支援を実施。

今回は鹿児島銀行のIT統括部部長・福山裕二氏にキャッシュレス決済アプリ「Payどん」を軸とした地域におけるデジタルトランスフォーメーション推進の取り組みについてお話を伺いました。

取材協力:福山 裕二(鹿児島銀行 IT統括部 部長)
インタビュアー:馬場 貴弘(モンスター・ラボ 上級執行役員 事業部長)

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最新のテクノロジーを地元のお客様に体感していただけるような取り組みをしたい

「Payどん」は銀行口座支払い・電子マネー支払いといった2つの決済が利用できる「Payどん」は銀行口座支払い・電子マネー支払いといった2つの決済が利用できる

── キャッシュレス決済サービス「Payどん」の開発に至った経緯は?

馬場:まずは、キャッシュレス決済サービス「Payどん」の開発に至った経緯から教えてください。

福山:2年半くらい前から、当行の本店ビルと本店別館ビルを建設するプロジェクトが始まりました。そのなかで両棟の1〜2階を一般のお客様に解放しようという構想があり、テナントを招聘して商業施設にする施策が持ち上がったんです。同時に最新のテクノロジーを地元のお客様に体感していただけるような取り組みをしたいという想いから“完全キャッシュレス施設”というアイデアが生まれ、そこから「Payどん」のプロジェクトがスタートしました。

2019年6月27日にオープンした鹿児島銀行本店別館ビル2019年6月27日にオープンした鹿児島銀行本店別館ビル

馬場:今では日常生活の至るところでキャッシュレス決済を見かけるようになりましたが、2年前の時点ではかなり先進的な取り組みでしたよね。

福山:当時、既に「GMO(銀行Pay)」や「ORIGAMI」といったキャッシュレス決済がサービスを開始していました。普通に考えれば銀行系のサービスであるGMO(銀行Pay)に参入する方が自然なのかもしれませんが、それだと我々がやりたいことを自分たちの判断でできない。それなら自分たちで独自のキャッシュレス決済サービスを開発する方向性でチャレンジしてみようという話になったんです。

よかど鹿児島の入り口には大々的に現金が使用できないことが告知されているよかど鹿児島の入り口には大々的に現金が使用できないことが告知されている

馬場:自社で独自に開発することを決めた背景には、鹿児島銀行様ならではの機能や地域に根ざしたサービスにしたいという想いがあったんですね。

福山:キャッシュレス決済機能だけを考えるのであれば、GMOやORIGAMIさんと提携する方が手っ取り早いですし、開発コストも安く済みます。しかし、地域振興に向けた広がりを出すのは難しくなります。

我々は決済手数料で利益を上げるというビジネスモデルだけを追求してるわけではありません。地域の活性化に繋がるような機能などもアプリの中に取り込んで、まずはお客様に喜んでいただきたい。それで地域振興に一定の貢献ができれば最良です。そのためには企画検討から開発、そしてリリースから運用に到るまでの工程を自分たちが主体となって行うことが大切になってきます。それが独自開発に踏み切った大きな理由の1つです。

── 地域振興という観点では、どのような効果を期待していましたか?

馬場:鹿児島銀行様は企業理念に「地域貢献」を掲げられていますが、地域振興における施策として具体的にどのような効果を期待されているのかお教えいただけますか?

福山:「地産地消」という考え方のなかで、地域内でお金が回るようないい施策がないかと思案してきたところ、キャッシュレス決済の普及に可能性を感じています。

よかど鹿児島内には地元の特産品を楽しめる飲食店が盛りだくさんよかど鹿児島内には地元の特産品を楽しめる飲食店が盛りだくさん

馬場:「地産地消」の仕組みづくりを検討されるなか、キャッシュレス決済という着想を得たきっかけはなんだったのでしょうか?

福山:日本はキャッシュレス決済の普及が他国と比べて遅れているといわれていますが、そのなかでも鹿児島県のキャッシュレス決済利用額比率は都道府県別で見ても低いというリサーチ結果が出ています。
 
インバウンドの方や県外からいらっしゃった方も、キャッシュレスだったらお買い物していただける機会があったかもしれないのに活かせていない部分もあるのではないかと思います。そういった面からも、地域に決済インフラを提供していくことも地方銀行としての使命だと考えます。

馬場:他の都道府県と比べて鹿児島県のキャッシュレス決済利用額比率が低いのには何か理由があるのでしょうか?

福山:決済手数料の問題もありますが、まだ決済端末の普及が進んでいないんだと思います。鹿児島市内ではそれなりにキャッシュレス決済を利用できますが、県内の地方都市に行くと決済端末が設置されていないことも多いです。これは鹿児島だけの問題でなく全国的に同じだと思いますが、インフラとして普及していないことが大きな原因になっていると思います。

QRコード決済、クレジットカード、デビットカード、電子マネーとさまざまなキャッシュレス決済に対応QRコード決済、クレジットカード、デビットカード、電子マネーとさまざまなキャッシュレス決済に対応

馬場:2019年10月1日から政府の方でキャッシュレス化を推進する「キャッシュレス・消費者還元事業」がスタートします。補助金で決済端末と設置費用が無料になるそうですし、今後の普及率は爆発的に増えていくのではないでしょうか?

福山:そうですね。現在、当行もPayどんアプリと合わせてキャッシュレスそのものを広めようという取り組みに力を入れています。
 
例えば、県内の各種イベントにPayどんのインストールや設定をサポートするキャッシュレスデスクのようなブースを設けたり、子供向けに毎年開催している「親子で研究!かぎん夏休みお金とSDGsの教室」というセミナーの中でPayどんを使ったキャッシュレスの疑似体験してもらったりと普及活動も実施しています。

プロジェクトを通じてスキルトランスファーという面でもサポートしていただける開発ベンダーを探していたんです

鹿児島銀行 IT統括部 部長・福山 裕二氏鹿児島銀行 IT統括部 部長・福山 裕二氏

── 開発の内製化を目指した理由は?

馬場:今回の開発にあたって、アプリ開発を内製化できる体制づくりという部分も課題にされていたかと思います。その背景にはどのような目的があったのでしょうか?

福山:やはり弊行が主体となって、今後さまざまな面から地域活性化に繋がるようなアプリ機能を追加・検討していきたいという部分が大きいです。あとは行内の開発担当者の全体的なレベルアップを促したいという狙いもありました。
 
初期開発以降は決済以外のいろいろな機能にも取り組んでいきたいと考えていたので、その際に銀行主体で動けるようにベースを作りたかったんです。

馬場:銀行で開発を内製化しているという話をあまり聞いたことがなかったのですが、御社では基幹系システムなど自前で開発をされていらっしゃいますよね。

福山:以前から鹿児島銀行にはシステムを内製で運用するカルチャーがあるんです。もちろんパッケージやシステム共同化のスキームも使っていますが、自行で開発する分野と分けています。例えば、証券・投資信託・保険のように専門的な業務知識が求められ制度改訂などが必要になるところには主にパッケージを入れて、融資や営業支援といった独自の営業戦略に直接関係する部分は自分たちで開発しています。

── モンスター・ラボを選んだ理由は?

馬場:弊社を選ぶ際の決め手になったポイントを教えてください。

福山:これまでに自行でさまざまなシステムを開発してきましたが、スマホアプリの開発・運用に関するノウハウはほとんど持っていませんでした。そこでプロジェクトを通じてスキルトランスファーという面でもサポートしていただける開発ベンダーを探していたんです。
 
他にも何社かお話をさせていただきましたが、最も我々が望んでいる体制で開発を進められると感じたのがモンスター・ラボさんからの提案でした。それで今回依頼させていただくことにしたんです。

銀行は信用が一番ですから、風評リスクは最も警戒すべき問題

株式会社モンスター・ラボ 上級執行役員 馬場 貴弘株式会社モンスター・ラボ 上級執行役員 馬場 貴弘

── Payどんの開発に際して、最も懸念されていた部分は?

馬場:実際にPayどんの開発をスタートするにあたって、懸念されていた部分はありましたか?

福山:今後の内製化を見越して体制を組み、適切なスキームを選んでプロジェクトをスタートさせたものの、「本当にうまく機能するかな?」という不安は正直ありました。他の案件ならだいたいの見通しが立つのですが、なにせスマホアプリの開発は初めての試みだったので着地が予測できなくて。
 
本当に行内の開発担当者がスキルを身につけられるのか、本当に「Payどん」の初回リリースが完了したあとに銀行主体で継続的に開発を進められる体制が整うのか……。体制的な部分では心配していましたが、結果的にクリアすることができてよかったです。

馬場:体制面以外の技術的な部分で懸念されていたことはありますか?

福山:やはりセキュリティ面です。弊行としても前例のない取り組みでしたし、他のスマホ決済サービスで不正アクセスが起きたニュースが大きく報じられているのを見て心配していた部分はあります。

馬場:セキュリティは信用問題に関わる重要な要素ですが、厳重にしすぎると「簡単」「使いやすい」という部分が損なわれてしまいます。ユーザビリティを重視するか、セキュリティを重視するかで議論になったこともあるのでは?

福山:Payどんの正式リリース前に本部部署の行員にアプリをインストールして試してもらったのですが、最初はけっこう評判が悪かったんです。2段階認証を採用してることもあり、手順が多くて面倒くさいと言われてしまって(笑)。UI/UXデザインや手順の検討に相当な時間をかけて簡単に設定できるような工夫をしたのですが、セキュリティ確保と手順簡素化の両立の難しさを痛感しました。

馬場:入力項目が多かったり登録までに時間がかかるのはたしかに手間ですが、セキュリティがしっかりしているから安心して使用できるという根幹の部分は大事ですよね。

福山:銀行は信用が一番ですから、まず安全性・信頼性の確保を優先しなければなりません。特に、まだキャッシュレス決済が普及していない地域でトラブルが起こると、みなさん心配になってしまってサービスの普及にブレーキがかかってしまいます。
 
その点、今回はリリース後に大きな問題もなく、非常にホッとしています。2段階認証を重視する考えも徐々に行内に広まり、しっかり理解を得ることができました。UI/UXデザインも優れていますし、信頼性や品質、パフォーマンスといった面でも非常にいいアプリができたと思っています。

実際に使用してもらうと「非常に便利」というポジティブな声が多かった

キャッシュレス決済は初めてという人からも「非常に便利」と高評価を得たキャッシュレス決済は初めてという人からも「非常に便利」と高評価を得た

── Payどんリリース後の反響は?

馬場:Payどんのリリース、よかど鹿児島のオープンから約1ヵ月経過しましたが、お客様からの反響はいかがですか?(取材日は2019年7月25日)

福山:アプリのダウンロード数は12,000件を超えましたが、会員登録まで済んでいるのは9,500件くらい。そのなかで決済口座まで登録している会員は8割くらいです。どこで離脱しているのか原因を調査して、今後は改善策を検討していきたいと思っています。

── よかど鹿児島オープン直後の様子は?

馬場:6月27日によかど鹿児島がオープンしましたが、完全キャッシュレスの商業施設という特徴を地域の方に受け入れていただくことはできましたか?

福山:オープンから最初の4日間、1階にキャッシュレスデスクを設けてキャッシュレス決済のやり方がわからないお客様のサポートを行いました。すると、50〜60代くらいの高齢のお客様から「私も使ってみたい」という反響が殺到してとても意外でした。
 
キャッシュレス決済しか利用できないことで混乱が起こらないかと心配していたんですが、すんなり開業できたと思います。オープンの1ヵ月くらい前から地元TV局なども取材に来てくださったので、完全キャッシュレスの商業施設といった部分を事前に宣伝できていたのも大きかったかもしれません。

── Payどんの利用率は?

馬場:よかど鹿児島では、Payどん以外にもさまざまな決済サービスを利用することができます。実際に、Payどんは現在どのくらい利用されているのでしょうか?

福山:Payどんアプリの利用率は施設全体の25%くらいです。最も利用率の高いクレジットカードは全体の50%くらいで、残りはその他の電子マネー決済となっています。
 
今までキャッシュレス決済を利用したことがないお客様もかなり多かったのですが、実際に使用してもらうと「非常に便利」「こんなに簡単なんだ」というポジティブなお声が多かったです。そういう意味では、地元にキャッシュレス決済のインフラを普及させて地域の皆さんに便利さを体感していただくという我々の想いも届けられているのではないかと思います。

馬場:Payどんには、鹿児島銀行口座を登録して決済する方法と電子マネーにチャージして決済する方法がありますが、それぞれの利用率はどのようになっていますか?

福山:現時点では口座決済で利用されるお客様が多く、電子マネー決済はPayどん利用者の25%くらいといったところです。今、電子マネー決済に送金機能の実装を考えているのですが、それが実現できればもう少し電子マネーの利用率も上がってくると思っています。チャージして使うから通帳の取引明細が極端に増えないとか、使いすぎを防止できるとか電子マネー決済にもメリットがありますから。

地産地消になるような仕組みを取り入れたり、地元ならではの便利な機能を実装していきたい

インフォメーションデスクでPayどんの使い方を尋ねることもできるインフォメーションデスクでPayどんの使い方を尋ねることもできる

── 今後、Payどんの普及を進めるためには?

馬場:高齢者の方からのお問い合わせが多かったというのは非常に驚きでした。「高齢者の方は最先端のテクノロジーにはなかなかなじめない」という固定観念は無くした方が良さそうですね。

福山:意外と皆さん興味を持っていらっしゃって、“スマホのアプリを使って決済してみたい”という高齢者の方は多いです。問題になっているのは、わからないことを尋ねたり相談できる人が近くにいないことだと思います。
 
実際によかど鹿児島のキャッシュレスデスクには長蛇の列ができて、ひっきりなしにお客様が尋ねてきてくださいました。相談しやすい環境とか、きちんと案内できる場所を設ければ、自然とお客様のほうから足を運んでくださるんだと思います。

馬場:やはりエントリーマネージメントの部分がしっかりしていれば、高齢者の方も受け入れやすくなるんでしょうか?

福山:そうです。設定・インストールにはハードルを感じるかもしれませんが、使い方さえわかってしまえば…ということです。しっかりとサポートできる体制ができればもっと広く受け入れていただけますし、キャッシュレス決済を頻繁に利用していただけるようになると思います。
 
設定・インストールさえ終わってしまえばアプリはすぐに使えるようになりますし、実際にお客様のリピート率も高いんです。テナント側からもお金のやりとりがなかったり、決済にかかる時間も短いので「簡単でいいですね」と好評をいただいています。

馬場:地域の高齢者に向けたキャッシュレス決済の普及という意味で考えると非常に面白いデータが取れそうですね。

福山:単にキャッシュレス決済の普及というだけでなく、データを使って地域に貢献できるような施策を検討したり、お客様に最適な商品をご提案できるようにしたいと考えています。お店によるよく使われる決済手段の違いとか男女比の違いとか、キャッシュレス決済に関するデータを蓄積しているので今後活用していきたいです。

馬場:具体的に、今後どの程度の普及を目標にされているのか教えてください。

福山:会員数30万件・地元の加盟店5000店舗を一定の目標にしていますが、全国展開しているキャッシュレス決済サービスと勝負しようとは思っていません。うまく住み分けしていきたいと考えています。
 
地元のお客様には両方を使い分けていただくなかで、“地域に根ざしたキャッシュレス決済アプリ”という位置付けでPayどんを利用していただければうれしいです。地元で使っていただくと地産地消になるような仕組みを取り入れたり、地元ならではの便利な機能を実装していきたいです。

馬場:地域の銀行が運営しているとか、地域の銀行に行けば高齢の方にもわかりやすくサポートしてくれるといった安心感も武器になりそうですね。

福山:例えば「銀行に行けばフェイストゥフェイスで対応してもらえる」というように、地域の方々との触れ合いも非常に重要になってくると思います。そういった地元に寄り添った取り組みをしっかりと続けていきたいです。

★インタビュー Part.2はこちら

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